穏健派の四魔将
その後、僕たちは隠し通路を無事突破し、魔人国へと入国した。
「ここが、魔人国……!」
清々しいほどに晴れ渡った空。そして僕たちの眼前には、美しい自然と豪華絢爛な王宮が調和した、魔人国の都『ヘリオス』が広がっていた。
「確かに、ピクニックにでも行きたくなるねー」
メグが能天気なことを言い出した。
「もっと禍々しい都だと思っていたわ……」
「分からないよ。近づいたら、闇のオーラが襲い掛かってくるかも……」
ステラと美香は少し警戒しているようだ。
「どうやって、潜入しよう……?」
僕が首を傾げてウンウンと唸っていると、カレンが何か考えがあるのか不敵に笑った。
「ブラーエ先生のことですもの、きっと対策済みですわ。急いで向かいましょう!」
カレンには先生の考えが読めるようだ。僕たちは促されるまま、ヘリオスへと向かった。
***
ヘリオスの入り口に到着して早々、僕たちは衛兵に呼び止められた。
「止まれ! お前たち、見ない顔だな。都へ何しに来た?」
くっ、早速か……。僕はカレンの方を見る。しかし彼女は、この状況でも涼しい顔で余裕綽々といった様子だ。
「カレ……」
「来ましたわね」
僕がカレンに声をかけようとしたその時、ある人物が現れた。
「いやー、待たせたね。おっと衛兵さん、こちらは私の客人だ」
そこに立っていたのは、一人の初老の男性だった。初めて見る人だけど……。
「あっ、あなた様は……!? 失礼しました!」
衛兵が深く頭を下げ、僕たちから離れていく。男性は少し微笑んだ後、後ろを向き、「ついて来てください」と僕たちを促した。
「カレン、あの人は一体……?」
僕はカレンに耳打ちした。
「おそらく、ブラーエ先生の仲間ですわ。先生の元に案内してくれるはず……」
なるほど、対策済みとはこのことだったのか。
僕たちはクーデターの成功で熱狂している大通りを外れ、薄暗い路地の奥にある、倉庫のような場所に案内された。
「この下です」
男性が魔法を発動させると、パズルのように箱が移動する。そして、地下への入り口が現れた。
僕たちは案内されるがまま、男性について行く。地下通路の先には、巨大な空間が広がっていた。
「それでは、私はこれで……」
男性が僕たちから離れ、引き返していく。
「待っていたよ……フォーマルハウト君」
そこには、ブラーエ先生が待っていた。先生は足の骨が折れているのか、松葉杖をついている。
「ブラーエ先生! 無事だったんですね!」
僕たちは喜びのあまり、先生に駆け寄った。怪我こそしているが、生きていて本当に良かった。
「おいおい、私の生命力を甘く見るなよ……」
「いつも顔色が悪いのにですか!」
「ははは!」
僕たちの顔に笑顔の花が咲く。しばらくして、先生は美香の方に視線を移した。
「君は、アマツさん……?」
そうだ、二人は初対面だった。
「私は美香っていいます。アマツでもありますが……」
美香の説明に、先生は困惑しているようだ。僕は先生に詳しい事情を説明した。
「なるほど……魂の統合か……。確かに君からは、世界樹の時に感じた二つの気配を同時に感じるな」
世界樹の時には、アマツさんにしか会っていないはずだけど……?
僕がそんなことを考えていると、ある人物が現れ、周囲の空気がビリビリと震えた。
「そいつらが、プルートが言う希望か? 弱っちそうだが、本当に大丈夫なのか?」
その男は、ジュピターと変わらないほどの大男だった。その表情は自信に満ちあふれている。
「プルートじゃない、ブラーエだ。何度も言っているだろう、マーズ……」
「細かい事はいいじゃねぇか! 俺の名前はマーズだ!」
マーズはガハハと笑い出した。ジャックおじさんみたいだな。
「少しは頭を使うことを覚えた方が良いですよ」
次に現れたのは、眼鏡をかけた、端正な顔立ちの青年。いかにもインテリといった雰囲気だ。
「お前は頭より、身体を動かすべきだぜ、マーキュリー!」
「はぁ……。自己紹介が遅れました。僕の名前はマーキュリー。よろしくお願いします」
マーキュリーはため息をつきつつ、丁寧に一礼した。
「騒がしいと思ったら、この子たちが希望? 私はヴィーナス。よろしくねー!」
派手だが、文句なしの美人だ。彼女を見つめていると、ステラに脇腹を小突かれた。
「みなさん、揃っていますね。私はアースと申します。よろしくお願いしますね」
奥から現れたのは、全てを包み込むような慈愛に満ちた女性だった。
「これで穏健派の魔将が揃ったわけだが……」
先生が言いかけると、それをマーズが遮った。
「ブラーエ、希望っていうからには、こいつらを試させてもらうぜ!」
「試す……? 何を言っているんだ」
「その男は中々やるようだが、嬢ちゃんたちは力不足だろう!」
一瞬でそこまで見抜いたのか……。確かに、僕とステラたちとでは実力に開きがある。
「ふっ、なら『試す』と言わず、鍛えてやったらどうだ?」
先生がマーズに対して提案する。魔将に特訓してもらえるなら、ステラたちも大幅に強くなれるだろう。願ったり叶ったりだけど……。
「じゃあ、許可も出たことだし、お前たちをビシバシしごいてやるぜ!」
「面白そうですね、僕も参加しましょう」
「四人の可憐な美少女たち……私は誰を指導しようかしら?」
「参加せざるを得ない雰囲気ですね。私も一肌脱ぎましょう」
四人の魔将はやる気満々だ。対して、ステラたちはというと――。
「特訓ね! 燃えてきたわ!」
「お手柔らかにお願いしまーす」
「頑張るわ、足を引っ張りたくないもの!」
「みんな頑張ろう!」
こうして、四人の魔将と出会った僕たち。ウラヌスとの厳しい戦いに備えて、過酷な特訓が幕を開けるのだった。




