魔人国へ
僕たちは王都での準備を終えて、いよいよ魔人国に向けて出発した。
ジャックおじさんに魔人国へ向かう旨を伝え、馬車の用意をしてもらった。魔人国との国境は現在、大結界によって守られているが、ウラヌスが魔人王に即位した今、それがいつまでもつかは分からない。
僕たちは馬車に乗り込み、地図に示された隠し通路の場所へと急いだ。
***
「ここが、隠し通路か……」
その洞窟は、国境近くの山中にあった。まるで廃坑の坑道のように寂れている。
「何が出てくるか分からない。みんな、注意して進もう」
僕が注意を促すと、みんなは真剣な表情で強く頷いた。
隠し通路の内部は、薄くぼんやりと光を放っていた。おかげで、光の星霊術を使う必要もない。しばらく進むと、小さな小部屋にたどり着いた。
「なんだろう、あれは!」
メグが部屋に置かれていた、魔法陣が描かれた台座に興味を持ったのか、近づいて調べ始めた。
「メグは本当に元気ねー」
ステラは少々呆れ気味だ。
「じゃあ、少し休憩しようか」
ちょうどいい小部屋だ。王国を出発してから気を張りっぱなしだったので、少し休むことにした。
「ここは、なんのための小部屋かしら? 隠し通路に置くには不自然な台座もあるし……」
カレンは台座に違和感を抱いているようだ。
魔人国への撤退に使われていたと思われる、隠し通路。だとすれば……。
「分かったぞ! これは転送の魔法陣だ!」
そんなことを考えていると、メグの思いつきが、僕の思考と重なった。
「転送の魔法陣! これを使えば、一気に魔人国にいけるの?」
美香が期待を込めた眼差しでメグを見た。しかし、メグは首を振った。
「これは魔人専用だね……。私たちは使えないよ。魔人は身体から直接、魔力を行使できるからね」
そう、僕たちと魔人の差はそこにある。僕たちは星霊を介して、魔力を行使しているにすぎないんだ。
「そうなんだ……、残念……」
美香がシュンと肩を落とす。
「気を落としていても仕方がない、先に進もう!」
僕はみんなを鼓舞して、再び奥へと進んだ。
***
その後、僕たちは魔物の襲撃に遭った。
今までの強敵と比べれば大したことはない相手だが、狭い通路での戦闘に、必要以上に消耗させられる。
「くっ、しつこいわね! 一体何体出てくるのよ!」
ステラが愚痴をこぼしつつも、華麗な斬撃で魔物を一撃のもとに屠る。僕とステラが前衛、メグ、カレン、美香が後衛の陣形だ。
「ステラ、疲れてない?」
「平気よ。アスターこそ、へばってるんじゃないの?」
ステラが僕に微笑みながら軽口を叩いた、その時だった。
彼女が壁に寄り掛かった瞬間、壁がガラガラと音を立てて崩壊し、ステラはそのまま奥の空間へと倒れ込んでしまった。
「ステラ、大丈夫か!」
「あいたたた……大丈夫よ……」
ステラは無事なようだ。それにしても、この部屋は一体……?
僕はステラを追って崩壊した壁の向こうへ入り、辺りを見渡した。
「ステラくん……体重が……」
メグがニヤニヤしながらステラを茶化す。
「失礼ね! そんなに重くないわよ!」
「アスターくん、何かあったの……っ!?」
カレンが息を呑むのも無理はなかった。そこには、目を見張るほどの金銀財宝の山があったのだ。
「おお! ステラくん、お手柄じゃないか!」
「もしかして私たち、大金持ち!?」
メグと美香は喜びのあまりはしゃいでいる。
「何を言って……って、何よこれー!?」
ステラも状況を把握し、驚愕のあまり叫び声を上げた。
「みんな、落ち着いて。今は魔人国の問題を解決するのが先決だよ」
正直、金銀財宝に興味がないと言えば嘘になる。だけど、僕たちの使命を優先するべきだ。
「そうよ。それに、誰の物か分からないものを勝手に持っていくのはいけないわ!」
カレンの正論が突き刺さる。僕は心の中で、(すみません……)と密かに反省した。
「ふーむ。おや? これはなんだい?」
いつの間にか財宝の山に飛び込んでいたメグが、ある物を取り出した。
「本……?」
みんなが一斉に首を傾げる。確かに、この財宝の山の中では不自然な存在だ。
「なになに……!? これ、魔法書だね! しかも、かなり高度な魔法が記されている!」
魔法か……。僕たちには使えないからな……。
みんながやれやれと肩を落としたが、メグだけは魔法書を食い入るように見つめていた。
「なるほど、なるほど……」
メグは手持ちの紙を取り出すと、スラスラと何かを書き始めた。
「よし! 要点はまとめたよ! これなら持ち帰るわけじゃないから、泥棒じゃないよね、カレンくん!」
そういうことか。カレンもやや呆れ気味に苦笑している。
「メグ、本当に凄いわね……」
「それほどでも、あるかなー!」
メグは自信満々に胸を張った。
「こほん。それじゃ、出発しよう!」
こうして、一騒動ありつつも、僕の号令で、改めて魔人国への道を進み出すのだった。
――この魔法書が、僕たちの今後を大きく左右することになるとは、この時の僕は知る由もなかった。




