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【完結】流星の星霊術士  作者: 折尾リク
二章 北極星【ポラリス】
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アマツミカボシ

 僕が抱き留めたアマツさんは、今にもその命の灯火ともしびが消えてしまいそうなほど衰弱していた。


 人格書き換えプログラムの支配を逃れたステラとメグも、足元をよろめかせながら、カレンと共に近づいてくる。


「アマツさん、しっかりして! 何か策があるんだろ!」


 必死に呼びかける僕に応えるように、彼女は瞳に光を取り戻したミカボシさんへ手招きをした。


「ミカボシ……早く……こちらに……」


 その言葉に、ミカボシさんがすぐに駆け寄る。


 ――そうだ、彼女の左手にはまだ『奇跡の力』がある。その力でアマツさんの怪我を治せばいいんだ!


「ミカボシ……よく聞きなさい……。奇跡の力で、私の魂をあなたと統合するのよ……」


「お姉ちゃん……何を言って……っ」


 アマツさんの突拍子もない言葉に、ミカボシさんは困惑を隠せない。


「アマツさんの怪我を治せば……っ」


 僕が言いかけると、アマツさんはそれを遮るように言葉を続けた。


「デミウルゴスは……完全には消滅していない……。私を治せば、奴は必ずまた牙を剥くわ……」


 そんな……。僕たちの間に、重苦しい沈黙が流れる。


「大丈夫よ……。私とミカボシは、元々一つの魂……『美香』だったのだから。引き裂かれた魂が、完全な姿に戻るだけよ……」


 僕たちが沈痛な面持ちで見守る中、アマツさんはどこか柔和な笑みを浮かべた。


「アマツさんはどうなるの……!?」


 その表情が、かえって切なくて、僕の瞳から涙が零れ落ちる。


「そんな顔しないで……。ラノベの主人公みたいに……みんなを守るんでしょ……?   

 だったら、ここでデミウルゴスを完全に滅ぼさなきゃ……」


 その『みんな』の中にはアマツさんだって入っているのに――。


 彼女は僕の顔を見てすべてを察したのか、ミカボシさんの手を強く握り、最後の力を振り絞って叫んだ。


「ミカボシに、私の魂を統合しなさい!」


 奇跡の力はミカボシさんにあるはずなのに、アマツさんが命令を――!?


 次の瞬間、ミカボシさんの左手が眩い光を放ち、アマツさんの身体が光の粒子となって崩壊を始めた。


「これでいいわ。アスター、ミカボシ、そんな悲しい顔をしないで」


「で、でも、お姉ちゃんと別れたくないよ……!」


 大粒の涙をボロボロと流すミカボシさんとは対照的に、アマツさんはどこか吹っ切れたような微笑みを浮かべている。


「なに言ってるの。これからはずっと一緒よ――『美香』としてね!」


 魂の統合が、どう影響するのかは分からない。でも、アマツさんの表情は、どこまでも清々しく、気高く輝いていた。


「アスターも、これで本当の名前が分かるわね。ミカボシったら、意地悪して教えてくれないんだから!」 


 満面の笑みを浮かべて、僕たちを見つめる彼女。その表情は、前世で初めて美香と出会ったあの日の記憶と、綺麗に重なった。


 僕はゴシゴシと乱暴に涙を拭った。


 そうだ。これは悲しい別れじゃない。僕たちの、新しい始まりなんだ。


「アスター、ミカボシ! 改めて、よろしくね!」


 光の中に消えていく彼女の最高の笑顔を、僕は生涯、忘れることはないだろう。


「――ああ、こちらこそよろしく! 美香!」


 アマツさんは、光と共に消えていった。


 そして彼女がいた場所に、禍々しい小さな玉のようなものが転がった。


「これってもしかして……デミウルゴスの核か!?」


 生かしておくわけにはいかない。僕はポラリスの力を込め、その玉を完全に破壊した。


「倒したんだよな……?」


 一抹の不安を覚えつつも、人格書き換えプログラムのサーバーは破壊し、デミウルゴスの核も壊した。これで作戦は成功したはずだ。


「ミカボシさん!? しっかりして!」


 背後からステラたちの悲鳴に近い声が聞こえ、僕は急いで振り返る。


「多分、七回奇跡を使ったからだと思う……」


 アメオ様の審判を受けているのだろう。けれど、ミカボシさん……いや、美香なら絶対に大丈夫なはずだ。


 その時、突如として激しい地響きが起き、地下空間が音を立てて崩壊を始めた。


「まずい、急いで脱出しよう!」


 僕は気絶した美香を背負い、ステラたちと共に崩れ落ちる教会の地下から脱出した。


 ***


 静寂が戻った夜道を、美香を背負って歩いていた。


 背中で、ふっと小さく重みが変わる。愛おしい彼女が、ゆっくりと目を覚ました。


「……遥斗はると?」


 耳元で響いたその声に、心臓が跳ねる。


 ミカボシさんの声じゃない。それは、僕がずっと焦がれ続けた、前世の『美香』のトーンだった。


「なあに……?」


 嬉しさと安堵が込み上げて、声が少し震えてしまう。


「私、全部思い出したよ。前世のことも、お姉ちゃんの記憶も……それから、ねえ?」


 美香は僕の首に腕を回し、吐息混じりに囁いた。


「保健室でのことも、ぜーんぶ」


「――ッ!!」


 あの日、保健室の独特な消毒液の匂いの中で交わした、甘く蕩けるようなキスの記憶が鮮明に蘇る。僕は一瞬で耳まで真っ赤になった。


「遥斗のえっち。すぐ顔に出るんだから」


「み、美香だって……!」


 恥ずかしさを隠すように意地になって反論する。そんな他愛のないやり取りが、愛おしいほど心地よかった。


 僕と美香は、失った時間を埋めるように、何度も何度も言葉を重ねる。


 アマツとミカボシ。かつて引き裂かれた魂は、奇跡の光によって一つへ結びついた。


 これは終わりではない。僕たちの、新しい始まりだ。


 夜空を見上げれば、僕たちの歩む道を祝福するように、北極星ポラリスの光が優しく輝き続けていた。

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