ポラリスの導き
アマツさんの肉体を乗っ取り、歪な笑みを浮かべる邪神デミウルゴス。その邪悪な視線は僕ではなく、ミカボシさんやステラたちに向けられた。
「よく見たら、美少女ばっかじゃねーか。みんなまとめて俺の所有物に加えてやるよ。どうだ、嬉しいだろう?」
デミウルゴスは舐め回すように、ステラたちを視線で蹂躙する。
「ふざけないで! 嬉しいわけないでしょ!」
ステラがデミウルゴスを毅然と拒絶する。
「あーあ、傷つくわー。たかがNPCの分際でさ」
デミウルゴスはため息をつきながら、背後にあるサーバーを見つめた。
「しょうもな。――人格書き換えプログラム、発動」
デミウルゴスの冷たい声が響く。その瞬間、ステラとメグの瞳から光が消え、人形のように虚ろになった。
「ステラ! メグ! どうしたんだ!?」
大声で呼びかけるが、返事はない。
人格書き換えプログラムのサーバーを破壊せねば。
――僕は星霊術を放とうとしたが、デミウルゴスの放った見えない圧力によって遮断されてしまう。
「おいおい、邪魔すんなよ。俺好みの玩具に書き換えてるんだからさ」
デミウルゴスの下卑た笑いに、僕は激昂した。
「ふざけるな! ステラたちはお前の玩具じゃない!」
「てか、何で動けんの? もしかして『転生者』?」
僕の怒りの叫びなど、デミウルゴスは意にも介さない。完全に舐め腐っている。
「だったら、何だ!」
僕は星霊術で身体を強化し、一瞬で間合いを詰めてデミウルゴスに斬りかかった。だが、ヤツはすべてを見切っていると言わんばかりに、わざとらしく紙一重で避けてみせる。
「じゃあ、転生者か。そっちの黒髪の女もか?」
デミウルゴスが、後方に控えるカレンを睨む。
「なんのことかしら……!?」
カレンはデミウルゴスの言葉の意味が分からず、警戒して身構える。
薄々気付いていたが、やはり『イレギュラー』とは転生者のことだったのか。
「面白え。俺の力とお前の力、どっちが強いか試してみようぜ?」
デミウルゴスが反撃に転じる。僕はギリギリのところで猛攻を避け、カウンターで火の星霊術を放った。紅蓮の炎が直撃した――しかし、煙が晴れたヤツの身体には、傷一つ付いていなかった。
「来い、フォーマルハウト!」
僕はフォーマルハウトを召喚し、連携でデミウルゴスを叩こうとした。だが、ヤツはそれすらも許さない。
「遅いぜ!」
ヤツの一閃。それだけで、召喚されたばかりのフォーマルハウトが一撃で消滅した。
「くっ……!」
僕が次の攻撃に備えて身構えると、デミウルゴスは心底ガッカリした様子でため息をついた。
「てかさ、お前弱くね? 力はどうしたんだよ。まさか使えないのか?」
図星だった。僕にはもう、あの『奇跡の力』は使えない。デミウルゴスの指摘に、僕は苦い顔を噛み締めるしかなかった。
「ハハハ、転生者のくせに、力も使えないのかよ! こいつは傑作だ!」
デミウルゴスの蔑むような高笑い。
――それをかき消すように、背後で凄まじい轟音が鳴り響いた。
「隙あり、ですわ!」
デミウルゴスが僕を嘲笑う一瞬の隙を突き、カレンがサーバーを完全に破壊したのだ。それを見たヤツの顔から余裕の色が消え、初めて明確な怒りが露わになる。
「おいおい、玩具の分際で何してくれてるの? そんなに死にたいか!」
デミウルゴスの右手から、凶悪な光弾が放たれる。カレンの反応速度では避けられない。
「危ない!」
僕はカレンの前に飛び込み、ヤツの攻撃を正面から受け止めた。凄まじい衝撃とともに、光弾が僕の胸を貫く。
「アスターくん!」
カレンが悲鳴が響き、辺りは激しい砂煙に包まれた。
「馬鹿なやつだぜ。でもこれで男はデリート完了。あとはこの女たちをじっくり所有物に加えるだけだな」
デミウルゴスが勝ち誇ったように声を上げる。
――その時、一筋の清廉な光が、立ち込める砂煙を吹き飛ばした。
メグが渡してくれたお守り。それが僕の身代わりとなって砕け散った瞬間、ある『声』が流れ込んできた。
「真の絆を持ちし者よ、我の名を呼べ。我が名は――」
「――来い! 星霊王、北極星!」
――『真の絆を持ちし者の前に、星霊王ポラリスは顕現すると言われていてね。普通の星霊には祠があるんだけど、ポラリスの祠だけは未だに見つかってないんだ!』
かつてメグが授業で言っていた、ポラリスが祠を持たない理由。
今なら分かる。それは――。
北極星は迷える者を導く光。だからこそ、ありとあらゆる場所に存在するんだ!
全てを飲み込むような絶対的な光が、空間を白く染め上げる。
そして――圧倒的な威風を纏い、星霊王北極星が降臨した。
「な、なんでお前がそれを……っ!?」
デミウルゴスの顔に、明確な焦りと恐怖が浮かぶ。さっきまでの余裕は完全に消え去っていた。
「行くぞ! デミウルゴス!」
「ま、待て! この女がどうなってもいいのかよ……!」
デミウルゴスは情けない声を上げながら、アマツさんを盾にして命乞いを始めた。どこまでも醜悪な男だ。
「大丈夫よ! 私ごとやりなさい、早く!」
アマツさんが叫ぶ。北極星の聖なる光を受けて、一時的に邪神の支配を退けたのだろう。
「で、でも……っ!」
僕が躊躇していると、アマツさんは必死の形相で僕を見据えた。
「考えがある、心配ないから! ここでこいつを滅ぼすのよ!」
アマツさんの、その目を信じるしかない。
僕は覚悟を決めた。北極星の力を限界まで引き出し、全力で極光を纏った剣を振り下ろす。
「くっ、正気かよ! 障壁展開!」
デミウルゴスが展開した障壁を、極光の刃はいとも容易く切り裂いた。ヤツの肉体が、眩い光に包まれていく。
「ぐおおおおおおおおっ!?」
邪神の断末魔が響き渡る。そして、光の残滓の中から、傷だらけのアマツさんの身体が崩れ落ちた。
「アマツさん!」
僕は必死に駆け寄る。
『人格書き換えプログラム』のサーバーは破壊した。デミウルゴスも滅ぼした。だが――僕の腕の中に倒れ込んだアマツさんの傷は、想像以上に深かった。




