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【完結】流星の星霊術士  作者: 折尾リク
二章 北極星【ポラリス】
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邪神降臨

 翌日の夜、いよいよ作戦決行だ。シリウス家の騎士による陽動作戦は無事成功し、教会の外にいた聖騎士の殆どは引き離された。


「行こう」


 僕がステラたちに合図すると、みんな小さく頷いた。僕たちは物音を立てずに忍び寄り、残った聖騎士に奇襲をかける。


「ぐっ……」


 鞘に入ったままの剣で首筋を強打し、聖騎士の意識を一瞬で奪った。


「死んでないよね……?」


 メグが心配そうに、倒れた聖騎士をツンツンと突いた。微かに息があり、身体がピクリと動いているのを確認してホッとする。だが、ここから先はそうはいかないだろう。


「場合によっては、命を奪うことになるかもしれない」


 僕たちの目的は『人格書き換えプログラム』の発動を阻止することだ。僕たちは完全無欠のヒーローではない。多くを救うためには、多少の犠牲を覚悟する必要がある。


 『奇跡の力』が使えれば……。


 僕は左手を見つめ、そんな甘い考えが頭をよぎったが、すぐに小さく首を振った。もう失ってしまった力を望んでも仕方がない。今は作戦に集中せねば。


「私は覚悟してるわ! みんなだってそうでしょう!」


 ステラが張り詰めた空気を切り裂くように、僕たちに檄を飛ばす。その瞳に迷いはなかった。僕たちも深く頷き返す。


「さあ、お喋りしている暇はありませんわ。急ぎましょう」


 カレンに促され、僕たちは教会内部へと突入した。


「なんだこれは、もぬけの殻じゃないか……!?」


 重い扉を開けて内部を見渡したが、そこに聖騎士の姿はなかった。全員で地下の守りを固めているのだろうか。 


 僕たちは急いで地下への入り口を探し、礼拝堂の長椅子の下に隠されたハッチを見つけた。内部を覗き込むと、ちょうど聖騎士が後ろを向いている。背後から音もなく接近し、素早く気絶させた。


 だが、ここからが本当の地獄だった。


 通路の奥へ進むほど、敵の警戒は厳重になり、もはや不殺を貫く余裕など崩れ去った。星霊術で身体強化した僕たちに、聖騎士たちが本気で殺しにかかってくる。狭い通路では、周囲を巻き込むような派手な星霊術は使えない。純粋な白兵戦――。


 ――やるしかないんだ。


 僕は覚悟を決め、剣を抜いた。迫りくる刃を弾き、肉を裂く。


 生々しい手応えが柄を伝って手の平に響き、どっと血が噴き出す。初めて、人の命を奪った。胸の奥からせり上がってくる激しい嘔吐感を、大義という言葉で必死に抑え込む。


 気が付けば、僕の両手は赤く染まっていた。その凄惨な掌を見つめ、足がすくみそうになったその時、背後から温かい声がした。


「アスター、一人じゃないよ。私たちも一緒に背負うから」


 振り返ると、ステラが僕の肩に手を置いていた。メグとカレンも、血に汚れた僕を拒絶することなく、力強く頷いてくれる。


 そうだ、一人じゃない。僕には、この罪すらも分かち合ってくれる仲間がいる。


 確かな絆が、冷え切りかけた心に熱を灯す。僕は再び前を向き、力強く歩き始めた。


 やがて、通路の先にある巨大な空間へと辿り着いた。


「なによ、これ……!?」


 ステラが驚愕の声を上げるのも無理はなかった。そこに広がっていたのは、この異世界の文明とはおよそかけ離れた光景だった。


 石造りの壁一面を這う、無数の怪しげな配線。そして最深部には、不気味な駆動音を立てる巨大な『サーバー』が鎮座している。さらに中央には、虚ろな目をした信者たちが集められていた。


「アスター、来たんだね……」


 儀式台の上に立つアマツさんが、僕を見下ろして語りかけてくる。その背後には、完全に自我を失ったような目のミカボシさんが控えていた。


「こんなことはやめるんだ! アマツさん! 神を降臨させて、『人格書き換えプログラム』を使って、この王国をどうするつもりなんだ!」


 僕の叫びに、アマツさんは少し困ったような、悲しげな顔をした。


「『人格書き換えプログラム』ですか……。これを破壊すること自体には賛成ですが……」


 アマツさんが背後のサーバーの方を見つめる。


 どういうことだ……? 彼女の本当の目的は何なんだ?


「これを破壊すると、私が私でいられなくなってしまうのです。だからその前に、神であるアメオ様を降臨させ、邪神デミウルゴスに対抗する! それが終わった後なら、その機械なんて好きにするといいわ!」


 彼女の目的はアメオ様の降臨。だけど、そのために手段を選ばないというのか。


「ダメだ、そんなこと! それでは信者たちの命を無駄にするだけだ!」


「アスターなら、分かってくれると思ってた。だから私の手を取って、アスター!」


 彼女はボロボロと涙を流しながら、僕に手を差し伸べ、懇願する。


 くっ、何か彼女の目を覚まさせるような、心に響く言葉は……!


「おいおい、せっかくの生贄をそんなくだらねえ事のために使うなよ」


 僕が必死に言葉を探していた、その時だった。


 空間を狂わせるような不快な声が響いた直後、アマツさんの瞳から光が消え、完全に虚ろになった。同時に、周囲の信者たちが一斉に胸を掻きむしり、苦しみ出す。


「何が起きてるの!?」


 ステラたちの間に動揺が広がる。同時に、その場にいる全員の肌が粟立つような、圧倒的で禍々しいプレッシャーが空間を満たした。


 ――『ソイツ』は、そこにいた。


「やっとログインできたぜ。おっほ、良い身体」


 アマツさんの口から、先ほどまでの悲壮感は消え失せ、あまりにも軽薄な言葉が飛び出す。


「お前は、誰だ……?」


 本能的な恐怖に喉を鳴らしながら、僕が恐る恐る声をかけると、アマツさんの身体を借りたソイツは、ひどく鬱陶しそうにこちらを睨みつけてきた。


「何、俺に話しかけてんの? NPCの分際で?」


 エヌピーシー。つまりはノンプレイヤーキャラクター。プレイヤーが操作しない、コンピューターが動かすだけの『作り物の人間』のことか……!?

 

「誰が、NPCだ……!」


「うざっ。でもまあ名乗ってやるよ。俺の名は邪神デミウルゴス。まあ、すぐにお前らをデリートするから覚える必要はねえな。それにしてもこの身体、早く堪能したいぜ……」


 デミウルゴスはアマツさんの身体を乗っ取り、まるで感触を確かめるように自らの身体を這うように撫で回し、恍惚とした表情で悶えている。


 突如として現れた、邪神デミウルゴス。ソイツは完全に、僕たちをただのデータとして舐め腐っていた。


 こいつを倒して、アマツさんを解放する。


 だが、『人格書き換えプログラム』の発動も、刻一刻と迫っていた――。 

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