決戦準備
僕たちは部室で作戦を練った。各々の力を最大限発揮できなければ、この作戦は成功しないだろう。そんな中、メグがスマートフォンと格闘をしていた。
「なるほど、これはこういう意味で……」
そして、彼女は完全に理解したと言わんばかりの顔でこちらを見た。
「教会地下のサーバーにアクセスしてみたんだけど、プロテクトが凄いよ。一応バックドアを仕込んでみたけど、多分『人格書き換えプログラム』の発動を遅らせることしかできないと思うね……やはり現地に乗り込んで直接サーバーを破壊するしかなさそうだね」
メグが持っているスマートフォンは遺物と呼ぶにふさわしい力があるようだ。それをこの短時間で理解して、操る彼女の才能も凄まじいが。
「なるほど、そうなると、教会の聖騎士をどうやって排除するかが問題ですわね……」
カレンは目を閉じ、少し考え込んだ後、僕たちに作戦を告げる。
「お父さんに頼んで、シリウス家の騎士を動員します。そして聖騎士を陽動し、その隙に教会内部に突入しましょう」
「そうだね。騎士の方にも、直接の交戦は避けるようにしてもらおう。あまり犠牲は出したくない」
みんなを救うための戦いだ。本当は一人も死んでほしくない。
「わ、私は何をすればいいの?」
ステラが少し焦った様子で、僕たちの顔をしきりに見る。
「教会内部にも聖騎士はいるでしょうから、その時はステラの出番ですわ」
カレンはステラの肩にポンと手を乗せた。
「私とカレンくんは、頭脳担当。アスターくんとステラは脳筋担当だな! ハッハッハ!」
「誰が脳筋担当よ! 待ちなさい!」
「ははは! 捕まえてみなよ!」
メグがステラを煽り、狭い部室の中で二人は追いかけっこを始める。
「二人とも今は真面目な話をしてるのよ……」
「ごめんなさい」
カレンの一喝で二人はビクンと体を振るわせ、申し訳なさそうに謝罪する。そして部室に静寂がおとずれた。
「でもまあ、緊張しすぎるのもよくないわね」
「確かにそうだね。本来の力が出せないと、この作戦は成功しない」
僕は三人の目をしっかりと見据えた。
「そうね! 私の力で教会の地下までの道を切り開いて見せるんだから!」
「ギルドカードシステムによる『人格書き換えプログラム』の発動は必ず阻止しなくちゃね!」
ステラとメグが気丈に振る舞う、本当は恐ろしいはずだ、自分もそのシステムの内部に組み込まれているのだから。
「そういえば、メグそのスマートフォン……じゃなかった遺物を少し貸してもらえるかな?」
「うん、いいよー」
彼女は二つ返事で了承し、僕に遺物を渡した。
見た目は完全にスマートフォンだ。僕は電源ボタンを押し、画面を点灯させる。電波を示すものはなかった。
メグはどうやってサーバーにアクセスしたのだろう? それにしてもロックもかかってないとは、前の持ち主は不用心だな。
そんな事を考えながら、遺物を操作していると、設定画面から前の持ち主の名前が判明した。
なになに、佐藤刃か、なかなか凄い名前だな。
さらに操作していくと、『俺の日記』なるファイルを見つけた。僕は悪いなと思いつつも、興味本位で覗いてしまった。
『今日俺はついに念願の「異世界転移」を果たした、アメオとか言う神からもらった力で無双していくぜ!』
この遺物は、百年前に転移した佐藤さんの持ち物だったのか。
『二日目、盗賊がいたので、俺の力で壊滅させてやった。なのに村人たちのヤロー感謝するどころか、化け物でも見るような目だった。ムカツクぜ』
いきなり目立ちまくってるな、佐藤さん。
『ムカツク、ムカツク、ムカツク、もういい日記もやめだ。この世界は俺の物語なんだぞ』
おいおい、三日坊主か。それにしても『俺の物語』なんて、すごい思い上がりだな。
日記はここで途切れていた。彼のその後が気になったが、こんな調子なら、きっとアメオ様が裁きを下しているだろう。
「熱心だねー、アスターくん」
僕が遺物に集中していると、メグが覗き込んできた。
「いや、この日記が気になって……」
「ああ、それねー。良く分からないんだよね。『異世界転移』とか言ってるけど嘘臭いよねー」
メグは首を傾げている。信じてはいないって感じだ。
「そうだよね、ははは……」
転移じゃないけど、転生はしたよ……。なんて言っても信じてはもらえないだろう。僕は笑って相槌を打つことしかできなかった。
佐藤さんの遺物とギルドカードは酷似している。偶然なのか、それとも――。
今は考えてもしかたがない。『人格書き換えプログラム』の発動というタイムリミットが迫っている。
僕たちは最終確認を済ませ、明日の夜の決戦に備えるのであった。




