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【完結】流星の星霊術士  作者: 折尾リク
二章 北極星【ポラリス】
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告白

 保健室での出来事から一週間が経った頃、僕たちは星霊研究部の部室にいた。


「このギルドカードの裏面の模様、どこかで見たことがあるんだよなー」


 メグがギルドカードを凝視しながら、部屋にある本をあさり始める。


「ちょっとメグ、本をぶつけないでよ」


 背後に放り投げられた本がステラの方に集中し、彼女が尖った声をあげた。


「あった、あった! この百年前の賢者が遺したっていう遺物アーティファクトにそっくりだ」


「何でそんなものが部室に?」


「ブラーエ先生が趣味で拾ってきてたんだよー」


 百年前……。そんなに昔から、ギルドカードシステムのようなものがあったのだろうか?


「つまり、これを調べていけばギルドカードシステムの謎にたどり着くかもしれないね! 早速解析だー!」 


 メグが解析し始めたその遺物アーティファクトは、どう見ても現代の『スマートフォン』にしか見えなかった。


「んん? 星霊力保管器をセットできそうな窪みだな。はめてみよう!」


 メグが保管器をスマートフォンのようなものにカチリとはめ込む。すると消えていた液晶画面がにわかに光を放ち始めた。


「おお、なんだこれはー!」


「うるさいわね、なにやってんのよ……って、なによこれ!?」


 メグの大声に反応してステラが身を乗り出す。百年前のものなのに、今もなお動くのか……。


「アスターくん、ちょっと」


 二人のドタバタ騒ぎを眺めていると、背後からカレンに袖を引かれた。振り返ると、彼女はいつになく深刻な表情を浮かべている。


「どうしたの?」


「……王都の住民たちの状態、どう思う?」


 ギルドカードシステムが導入されて以来、王都の住民はまるで全ての思考をシステムに支配されているかのようだった。


「ギルドカードが絶対の価値観になっている感じだね。カレンは登録したの?」


「いいえ」


 僕の質問に、カレンは静かに首を振った。


「お父さんに助言して、シリウス家はアルタイル国王陛下とともに、最後の日に登録する予定に変更してもらったわ」


 なるほど、あの時彼女がいなかったのは、最初から警戒していたからか。


「アスターくん以外の二人は登録したのよね、王都の住民ほど顕著な影響は出ていないわね……」


「二人とも一等星霊と契約しているからかもね」


「その可能性は高いわね」


 確証はない。だが、異様なほどにシステムに心酔する一般生徒や住民たちとの明確な差は、そこくらいしか思い当たらなかった。


「このまま、指をくわえて帝国に支配されるのを、見ていることしかできないのかしら……」


 カレンが悔しそうに唇を噛む。


 その時、部室のドアがバン!と大きな音を立てて鳴った。


「なんだ!?」


 僕たちの視線が一斉にドアの方へと向く。


「あいたたた……」


 ドアの向こうから聞こえたのは、アマツさんの声だった。勢い余ってドアにぶつかったのだろうか。僕は先日の保健室での出来事を思い出し、急に心拍数が跳ね上がるのを感じた。


「よし……!」


 小さく気合を入れるような声が聞こえた直後、ドアが勢いよく開け放たれた。そして、あろうことか彼女はいきなり僕の胸に飛び込んできたのだ。


「アマツさん……!?」


「ふふふ、ぎゅーです!」


 細い腕が僕の首にまわされ、柔らかな体温と甘い香りが全身に押し寄せる。あまりの衝撃に固まっていると、彼女の手が僕の襟元に滑り込み、何かを押し込まれた感覚があった。 


「ちょ、ちょっと! なに抱き合っているのよ! 離れなさい!」


 ステラが顔を真っ赤にして、慌てて僕たちを引き離しにかかる。しかし、アマツさんの抱き着く力は驚くほど強く、容易には離れない。


「おお、情熱的だね……」


「羨ましいですわ……」


 メグとカレンの妙に冷ややかな視線が僕に突き刺さる。アマツさんは『ある言葉』を僕に耳打ちした。


「――っ」


 ようやく僕から離れたアマツさん。しかし、彼女は言葉を発することなく、すぐに

踵を返して走り去ってしまった。


 ……え?


 一瞬だけ見えた彼女の横顔――その目から、涙がこぼれ落ちていた。


 なぜ泣いていたんだろう。胸に引っかかるものを覚えながらも、僕は襟元に押し込められた違和感に手を伸ばした。取り出したのは、小さく折りたたまれた一枚の手紙だった。


「ア・ス・ター?」


 背後から、三人の鬼の形相が迫る。僕は背筋に冷や汗を流しながらも、努めて平静を装った。


「これ、見てよ、どうやらこれを渡したかったみたいだ」


 手紙を広げて差し出すと、三人は不審がりながらも興味深そうに覗き込んできた。


 手紙には殴り書きのような切迫した文字で、驚愕の事実が記されていた。


『時間がないので手短に書き記します。

 

 明日の夜、神を降臨させる儀式が行われます。止めて下さい、犠牲になるのは信者たちです。


 場所は教会の地下。そこには王国のギルドカードシステムを制御する「サーバー」が存在します。これを破壊すれば、この支配から逃れることができるはずです。


 最後に。私の本当の名前はミカボシと申します。双子の姉であるアマツの影武者です。ギルドカードシステムの「人格書き換えプログラム」が発動する前に、どうか早く……。姉さんを、助けて』


「なんだよ……、これ……」


 そこに記された凄まじい真実に、部屋の空気が凍りついた。『人格書き換えプログラム』――帝国はギルドカードシステムを使い、王国の人間すべてを文字通り傀儡かいらいにして、完全な支配下に置くつもりなのだ。


「そんな……噓でしょ……」


 ステラとメグの顔から血の気が引いていく。二人はすでにシステムに登録してしまっている。もし機能が発動すれば、二人の人格も……。


「――とにかく今は、絶望している時間はありませんわ! 対策を考えましょう!」


 カレンの凛とした一喝に、二人がハッと正気を取り戻す。


 だが、僕の頭には疑問が残った。


 神の降臨と、ギルドカードシステムによる支配。この二つが、いまいち結びつかない。それにアマツさん、いやミカボシさんが、僕に耳打ちした『遥斗』という言葉、――僕の前世の名前。


 多くの謎と、かつてない危機感を抱えたまま、僕たちは翌日に迫った決戦に向けて、必死に議論を重ねるのであった。

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