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【完結】流星の星霊術士  作者: 折尾リク
一章 七つの奇跡
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王都へ

 星霊の継承から数ヵ月。その間、僕は父さんから星霊術の使い方をみっちりと叩き込まれた。


 父さんは二等星霊を操り、僕はドゥーちゃんの力をメインに据えて訓練に励んだ。一等星霊であるフォーマルハウトの力はあまりに強大すぎるため、実戦形式の練習には向かないからだ。しかし訓練の甲斐あって、僕の星霊術の精度は格段に向上していった。


「明日から王都の学園に向かってもらうぞ、アスター」

 

 夕食後、父さんが唐突に切り出した。


「急な話だね、父さん」


「急ではない。お前の将来を考えてのことだ。戦闘技術だけなら俺が教えられるが、見識を広めることや、一生ものの学友を見つけることもまた、お前にとって必要な財産になるからな」


「……そうだね、分かったよ」


 転生する前は、学校に通うことすら叶わなかった。正直なところ、楽しみで仕方がない。


「この方が、アスター様ですか?」


 背後から不意に声をかけられ、僕は勢いよく振り返った。そこには端正な顔立ちをした、中性的な人物が立っていた。


「急に現れるからアスターが驚いているじゃないか。相変わらず気配を消すのが上手いな、ライラ」


「すみません、性分なもので」


 全く気付かなかった……。


「ドゥーちゃんは気付いてましたの!」


 本当だろうか? というかドゥーちゃん、君はいつからそこにいたんだ。


「申し遅れました。私はライラ・ベガと申します」


 ベガ――一等星霊の使い手か。


 ジオアントス王国では、一等星霊の継承者はその星霊の名を名乗る決まりがある。我が家は男爵家だが、『四星《フォースターズ》』と呼ばれる一等星霊を世襲する家系の一つだ。


 王家のアルタイルの他にシリウス、レグルス、そしてフォーマルハウト、この三家は戦時には、王家に次ぐ影響力を持つという。


「アスター・フォーマルハウトです。よろしくお願いします」


「よろしく、アスターさん」


「ところで、ベガさんは何のために我が家へ?」


 一等星霊の継承者がこんな辺鄙な所に来る理由が気になり、僕は尋ねた。


「護衛だ。我が領地のな」


「護衛が必要なの?」


「アスター、フォーマルハウトと契約した泉の祠を覚えているだろう。あそこはこの国の最重要拠点の一つ、国家機密なんだ。まあ、それにしても護衛を寄越すなんて、アイツも心配性だな……」


 父さんが遠い目をして呟いた。『アイツ』とは一体誰のことだろう?


「そういう事です。サロス様の力が低下したため、私が派遣されました」


 フォーマルハウトの力を僕が継承したから、祠の守りが薄くなったということか。


「あのオバサンは、ドゥーちゃんと違って祠から動けないですの。祠を壊されないための護衛ですの?」


 ドゥーちゃんの直球な質問に、父さんが頷く。


「そういうことだ」


 ベガさんはドゥーちゃんを興味深そうに見つめた。


「ところで、この小動物は何でしょうか? 会話もできるとは」


「小動物じゃないですのー! 最強の星霊ですのー!」


 最強って……ホラを吹くにも程があるぞ。


「祠に宿らない星霊、珍しいというより、世界初では? 弟が知ったら……」


 ポーカーフェイスなベガさんだが、その言葉には明らかに驚愕の色が混じっていた。


「えっへん! ですのー」


 何故か満足気なドゥーちゃんだ。


「サロス、アスター、明日のことなんだけど……」


 母さんが部屋に入ってきた。


「あら?」


「あなたは……ソフィア様!? なぜここに!?」


 ベガさんが声を上げた瞬間、母さんが素早くその口を押さえた。


「少し、向こうで話しましょうか」


 二人はそのまま部屋を出ていってしまった。


「どういうこと、父さん?」


「俺の口からは何とも……まあ気にするな! アイツ、説明してなかったんだな……」


 また『アイツ』母さんの正体についても、何か深い事情がありそうだ。


 ***


 翌日、いよいよ王都へ出発する時が来た。


「気をつけるのよ、アスター。これ、お守りよ」


「ありがとう、母さん」


「楽しんでこい、アスター!」


「二人の護衛はお任せください」


 見送る三人に別れを告げ、僕は馬車に乗り込んだ。


「王都までの道中は私にお任せを、お坊ちゃま」


「やめてよ、フィリップおじさん」


 父の親友で領地の騎士団長を務めるフィリップおじさんは、飄々としているが非常に頼りになる。彼と四人の騎士が僕の護衛だ。


 ***


 馬車に揺られること三日。街道沿いは平和で、旅は順調そのものだった。


 しかし、突如として馬車が激しく停止した。


「賊に囲まれています!」


 騎士の鋭い声が飛ぶ。


「アスターは馬車の中にいろ、俺が片付けてくる」


 フィリップさんはそう言い残し、外へ飛び出した。


 僕はすぐさま星霊術で味方の能力を強化し、索敵を開始した。すると、遠方で大規模な術を行使しようとしている賊の姿を捉えた。


 まずい、このままじゃ皆がやられる!


 防御か、攻撃か。人に対して力を使うことに一瞬の躊躇いがよぎるが、皆を守るためだと自分に言い聞かせた。


「いけ……っ!」


 加減をしながら放った雷の星霊術が、轟音と共に賊を貫いた。敵の術を霧散させることには成功したが、ダメージは浅かったようだ。だが、その音を聞きつけたフィリップおじさんが一気に距離を詰め、賊を制圧した。


 まだ手が震えている。加減を間違えれば殺していたかもしれない。自分の持つ力の重さを、改めて実感した。


「片付いたぞ、今の音はアスターが?」


「うん、大きな術を使おうとしていたのが見えたから」


「助かった、ありがとう」


 外では生き残った賊への尋問が始まっていた。フィリップおじさんが剣を突きつけると、賊は案外あっさりと口を開いた。


「俺たちの目的は、あのお方の望みを叶えること、『四星《フォースターズ》』を抹殺することだ」


 僕が狙いだったのか。


「あのお方とは誰だ!」


「あのお方の名は……かはっ!」


 賊は血を吐き、そのまま絶命した。


「呪いか。正体を隠すために口封じを施していたようだな」


 その直後、賊の死体から不気味な魔法陣が浮かび上がり、禍々しい光の中から巨大な『地龍』が出現した。


 地鳴りのような咆哮が響き渡り、空気が震える。


「地龍だと!? アスター逃げろ、ここは俺たちが食い止める!」


「僕も戦うよ! そのための力なんだ!」


「くそっ、サロスにどやされるぞ……よし、俺たちが前衛で気を引く、アスターは後方から援護してくれ!」


 フィリップおじさんと騎士たちは見事な連携で地龍を翻弄する。だが地龍の強固な鱗には傷一つ付けられない。圧倒的な防御力を前に、決定打に欠けていた。


 だったら、僕が活路を切り開く……! 


 僕は集中して星霊術の準備に入る。右手のフォーマルハウトの力、そして左手のドゥーちゃんの力。二つの相反するような星のエネルギーを、体内で一つに混ぜ合わせるようにイメージする。


 凄まじい熱量が両手に収束していく。


「皆、離れて!」


 合図と共に騎士たちが一斉に飛び退いた。


「貫けぇッ!」


 放たれた規格外の稲妻が、地龍の巨体を真っ直ぐに直撃する。まばゆい爆炎と轟音が辺りを激しく震わせた。


 やがて砂煙が収まった時、そこには物言わぬ地龍の巨体が横たわっていた。


「地龍を一撃で、か……」


 フィリップさんが呆然としている。


「……凄すぎるな。サロスでもここまでは無理だぞ!」


 彼は我に返ると、僕の頭を乱暴に撫で回した。


「皆を守りたくて、必死だっただけだよ」


「二回も助けられたな。本当にありがとう、アスター」


 大切な人たちを守りたいというのは、僕の本当の願いだ。


 僕は左手の甲に視線を落とし、改めて自分の願いを強く心に刻んだ。

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