継承
僕がアメオ様とのやり取りや前世の記憶を思い出したのは、十五歳の誕生日だった。
「そろそろアスターに星霊を継承させるか」
「サロス、まだ早いわよ」
「何を言うんだソフィア。もう学園に通う歳なんだ、星霊がいなくてどうする」
僕の名前はアスター・フォーマルハウト。男爵家とは名ばかりの、いわゆる田舎貴族だ。
父のサロスは黒髪で左腕を失っており、母のソフィアは金髪で顔に大きな傷がある。十年前の大戦で負った負傷だという。ちなみに僕は黒髪で、顔立ちは母さん似だ。
「星霊か……僕に扱えるかな?」
期待と不安が入り混じる。
「心配ない! 俺がお前の歳の頃には、もう使いこなしていたぞ」
父さんがそう言うなら、多分大丈夫なのだろう。
「善は急げだ。早速継承の儀を行うぞ、泉の祠へ向かう!」
父さんは僕たちを急かすように、足早に家を飛び出していった。
「言い出したら聞かないんだから……」
「行こう、母さん!」
母さんは呆れ顔だったが、僕は高鳴る鼓動を抑えきれず、急ぎ足で泉へと向かった。
***
泉に到着したものの、継承はどう行うのだろう?
そう思っていると、僕の前で父さんが剣を抜き放ち、空へ掲げて叫んだ。
「来い! フォーマルハウト!」
直後、眩い光とともに一人の美しい女性が現れた。その姿はまるで天女のように神々しい。
「サロス、久しぶりじゃない! ソフィアも、十年ぶりくらい? 全然呼んでくれないんだから……あら、そこにいるのは、もしかして二人の子供? 大きくなったわね、可愛いー!」
現れた『星霊』は、意外にも気さくな性格だった。あまりの拍子抜けに、僕は呆然としてしまう。
「最近は平和だったからな、呼ぶまでもなかったんだ。こいつはアスター、俺たちの息子だ」
「フォーマルハウト、元気そうでよかったわ」
空中を漂い、淡い光を纏う彼女が、我が家に伝わる星霊なのだ。
「初めまして、フォーマルハウトさん」
「呼び捨てでいいわよ、アスター! 緊張しちゃって、可愛いわねぇ」
彼女は緊張をほぐすように笑い、場を和ませてくれた。
「わかったよ。よろしく、フォーマルハウト」
「それじゃあ本題だ。フォーマルハウト、アスターに力を継承させる」
父さんの表情が真剣なものに変わる。
「……本気なのね?」
「ああ」
父さんの返答に、フォーマルハウトは少し寂しげな表情を浮かべた。
「そんな顔をしないでくれ。これからは俺の息子を守ってやってくれ、頼む」
「私からも、お願いします」
父さんと母さんが深く頭を下げる。
「わかったわ! 私の力でアスターを守ってあげる、任せなさい!」
フォーマルハウトは胸に手を当て、力強く頷いた。
「アスター、右手を前に出せ」
促されるまま右手を差し出すと、フォーマルハウトがその手のひらを重ねてきた。眩い光が溢れ、何かが内側に流れ込んでくる。
「これが、星霊の力……」
初めての感覚に戸惑う僕の耳に、父さんの厳格な声が響く。
「これで継承は完了だ。フォーマルハウトの力は強力だぞ。『一等星霊』の名に恥じぬよう、正しく力を使うのだ」
「……もちろん、わかったよ、父さん」
右手に感じる彼女との確かな繋がり。しかし、それとは別に、なぜか左手にも強烈な熱を感じた。
「ちょっと待つですのー!」
「痛っ……!?」
左手に走った鋭い痛み。直後、爆発的な光とともに『それ』は現れた。
「星霊のことなら、ドゥーちゃんにお任せですの!」
現れたのは、成人女性ほどのサイズがあるフォーマルハウトとは対照的な、手乗りインコほどのごく小さな星霊だった。
「えっと……ドゥーちゃん? 星霊ならお任せって、どういうこと?」
「ドゥーちゃんとご主人サマは既に契約済みですのー! 一蓮托生ですのー! こんなオバサンの出る幕はないですのー!」
「おばっ……!? この小娘ぇ、大人の魅力がわからないようね!」
二人の間にバチバチと火花が散る。
「不味いぞ……! 星霊二体との同時契約など聞いたことがない。負荷に耐えきれなくなる、早くフォーマルハウトの契約を解除しなければ!」
父さんが青ざめる。特に体調に変化はないが、僕はそんなに危険な状態なのだろうか。
「ドゥーちゃんとご主人サマは特別だから問題ないですのー! でも、オバサンとの契約は解除するですのー!」
「またオバサンって……この小娘ぇ!」
一触即発の二人。
「……二人とも、喧嘩はそこまでよ?」
母さんが静かに凄むと、二人は一瞬で静まり返った。……母は強し、である。
「アスター、体は大丈夫か?」
「うん、大丈夫。二つの大きな力を感じるけど、暴走する感じはないよ。むしろ安定してる気がする」
「前例がないことだ……あの小さな星霊は大丈夫だと言っているが……しばらく様子を見るしかないか」
父さんはまだ心配そうだが、僕自身は不思議と落ち着いていた。
「そういえば、ドゥーちゃんの本当の名前は?」
「ドゥーちゃんは『北斗七星・第一星』と言いますのー! でも可愛くないから、ドゥーちゃんって呼んでほしいですのー!」
「わかった、よろしくね、ドゥーちゃん。……それと、フォーマルハウトも」
「なんだか私、おまけみたいね……」
苦笑いするフォーマルハウトに、僕は思わず笑ってしまった。
こうして波乱の誕生日に、僕は二つの星霊と契約を交わしたのだった。




