孤児院への慰問
不思議な夢をみた。その日の放課後の星霊研究部で、今日も見学に来ていたアマツさんが、僕らに提案した。
「週末に孤児院への慰問があるのですが、皆さんも一緒にいかがでしょうか?」
アマツさんが、両手を合わせ、澄んだ瞳をキラキラとさせながら、僕たちに問いかける。
「いいわね! 最近は顔を見せてなかったし、いい機会だわ!」
ステラは、身を乗り出し、待ってましたと言わんばかりに瞳を輝かせた。
「ふふふ、子供たちに何かお土産を用意しておかないとだね!」
メグも何だかウズウズしているようだ。変な物を持ってこなければいいが。
「私も行くわ、子供は大好きなのよ」
ことあるごとに「お姉ちゃんって呼んでもいいのよ」と言っていたカレンも、賛成なようだ。
「決まりだね、じゃあ、週末はみんなで一緒に孤児院に行こう」
みんな乗り気なので、僕たちは、アマツさんの孤児院への慰問に同行することになった。
***
孤児院にやって来たのだが……。僕たちは建物を見て驚愕した。孤児院というには、立派すぎる、美しいレンガ造りの建物が立っていたからである。
「ふふふ、驚きましたか? この孤児院はポラリス教団によって、多額の資金を投入して改修したのですよ!」
アマツさんはこれ以上ないほどのドヤ顔で、えっへんと胸を張る。
「私の知ってる孤児院じゃない……。もっとボロボロだったわよ!」
流石のステラも動揺の色が隠せないようだ。
「凄いね、これなら子供たちも過ごしやすそうだ!」
メグは率直な感想を述べた。
「教団の力は凄いのね……」
カレンは教団の資金力に少し警戒をしているようだった。
「あっ! せいじょさまだ!」
庭で遊んでいた子供の一人が、アマツさんに気付き、駆け寄ってくる。
「えっと、おうちをりっぱにしてくれて、ありがとう!」
子供が可愛らしく、アマツさんにお礼をする。
「いえいえ、当たり前のことをしたまでですよ」
子供に対しても真剣に対応する、アマツさん。そんな微笑ましい光景を見て、僕は少し違和感を感じた。
なぜ、聖騎士が護衛に付いていないんだろう?
世界樹の前では、暗殺未遂まで起きたのだ、それなのに、護衛もなしに孤児院に慰問に来ている。
「ちょっと、アスター、アマツさんのことを見すぎじゃない?」
ステラに注意され、ハッとする。あまり見すぎるのも不審がられるか。
「こりゃあ、強敵出現ですなー、カレンさんや」
「まったくですわね、メグさんや」
メグとカレンが僕をからかうような、寸劇を始める。
「それでは、みなさん、私は管理人さんに挨拶をしてきますので、子供たちの相手を頼みます」
そんな僕たちのやり取りなど、アマツさんは意に介さないようだ。気付けば僕たちの周りは、子供たちが取り囲んでいた。
「あそんで、あそんで!」
子供たちが一斉に喋る。僕たちは元気一杯な子供たちと、遊ぶこととなった。
「ステラおねえちゃん、けんのつかいかたおしえて!」
「剣かー、ちょっと早いと思うけど、仕方ないわね、見てなさい!」
ステラは木剣で華麗な剣技を披露する。あまりの剣さばきに、子供たちは興奮の色を隠せないようだ。
「きんぱつのおねえちゃん、なにしてるの?」
「これはね、帝国から輸入したガラクタだよ、それをこの星霊の祠のそばから採れる、星霊石と組み合わせて……!」
メグは器用にガラクタを組み合わせていく。そして――星霊石がはめ込まれた、『何か』が完成した。
「おねーちゃん、これはなに?」
「ふふん、これはお手製のお守りだ、君にあげるよ!」
「やったー、おねえちゃん、ありがとう!」
メグお手製のお守りを貰った子供は大喜びだ。
「はい、アスターくんにも!」
メグは僕にも、お守りを握らせてくれた。見ると細部が精巧な『ネジ』で固定されている。
へぇー……、帝国はこんな精密な『ネジ』まで作れるのか。
「ありがとう、メグ、大事にするよ!」
僕は、お守りを胸ポケットに大事にしまった。ここには母さんから貰ったお守りも入っている。
「プレゼントした甲斐があったよ!」
メグは満面の笑みになった。
「かれんおねえちゃん、だいすきー」
「私も大好きよ」
カレンの周りにはやけに子供たちが集まっているな。あふれ出す『お姉ちゃん力』ってことなのだろうか?
「おにいちゃん、おんぶしてー」
男の子が僕にねだってきた。よし、一肌脱ごう。
「これでいいかな?」
「わーい、おにいちゃんありがとう!」
僕が男の子をおんぶしていると、周りに子供たちが集まってきた。
「ずるい」 「わたしもして!」 「ぼくも!」
「わかった、わかった、全員してあげるから」
「アスター、何か、お父さんみたい」
ステラたちの声に、僕はそんなに老けてないぞ、とツッコみたくなった。
一人一人、おんぶをしてあげていると、背後からアマツさんの声がした。
「大人気ですわね、アスター様」
「ははは、そうですね。もう用事はいいの?」
「はい、もう大丈夫ですわ」
彼女は一瞬、翳りのある表情で視線を落とした。けれど、すぐにいつもの聖女らしい笑顔に戻ってそう告げた。
「ばいばーい」
「ばいばい!」
僕たちは子供たちに別れを告げ、孤児院から学園に戻る。正直疲れたが、それ以上に元気を貰えた気がする。
子供たちにまた会う日を楽しみにしながら、僕たちは茜色に染まる帰り道を、ゆっくりと進んでいった。




