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【完結】流星の星霊術士  作者: 折尾リク
二章 北極星【ポラリス】
24/48

乱入! 星霊研究部

 アマツさんが僕たちのクラスに編入されて、メグの初授業が終わった。


 放課後、片づけをしているとステラとメグが近づいてきた。


「さあ、今日からは一緒に星霊研究部の部室に行けるね!」


 メグは初授業を終えたというのに、疲れを一切感じさせないくらい元気いっぱいだ。

 

「そんなに喜ぶことかしら。ほら、早く行きましょ」


 ステラは、そんなメグのハイテンションをクールに受け流す。


「それじゃ、行こうか」


「あっ、あの!」


 僕たちが教室を出ようとすると、後ろからアマツさんに呼び止められた。


「どうしたんだい? 授業で分からないところがあったのかい?」


 メグが一瞬にして教職者の顔つきになる。アマツさんは少しモジモジしながら、恥ずかしそうに指先をいじっていた。


「そのっ! 星霊研究部を見学させていただいてもよろしいでしょうか?」


 アマツさんは意を決したように、僕たちにそう告げた。


「おお! 新入部員は歓迎さ!――と思ったが、一カ月後には学園を去るんだったね……」


 メグは一瞬喜んだものの、すぐシュンと肩を落とした。


「でもまあ、聖女様が見学に来たらウチの部活も箔がつくね! いいよ!」


 メグはすぐに気を取り直して、明るい笑顔で答えた。


 ……アマツさんまで自分の実験の毒牙にかけるつもりなのだろうか? 


「よし! じゃあ出発だ!」


 メグの号令で、僕たちは星霊研究部の部室へと向かった。


 ***


「お邪魔してるわよ――あら?」


 部室のドアを開けると、そこにはカレンがいた。彼女は部員ではないが、もうすっかりいつものメンバーだ。


「アマツです。星霊研究部の見学に来ました」


 アマツさんは丁寧にお辞儀をする。


「これはご丁寧に。カレン・シリウスですわ」


 二人が自己紹介を済ませ、少しの静寂が流れる。それをメグの声が派手に打ち破った。


「あーっ!」


「どうしたんですか?」


 急に大声を上げるメグ。僕は何か大変なことが起きたのかと思い、思わず身構えた。


「椅子が足りない……!?」


 この部室には椅子が四脚しかないのだ。五人が座るには、確かに一脚足りなかった。


「仕方ないね……こうなったら、誰がアスターくんの膝の上に乗るか決めよう!」


 いきなりメグが、とんでもないことを言い出した。


「僕は立ってるから、みんなは座っ……」

 

 僕が言いかけた瞬間、ステラがそれを鋭く遮った。


「乗ったわ!」


 ええ!? 


 僕はカレンの方を見て、なんとか助け舟を出してもらおうとした。


「あらあら、面白そうね」


 駄目だ、楽しんでる。こうなったら最後の希望、アマツさんに……


「頑張りますね、アスター様!」


 彼女まで乗り気だった。聖女様、そんなことに気合を入れないでほしい。


「それじゃあ時間がもったいないし、ジャンケンで決めようか!」


「はーい」


 メグの提案にステラたちも乗る。こうして、何故か『僕の膝の上にのる権利』をかけた勝負が始まった。 


 というか、ジャンケンってこの世界にもあったんだな……


「じゃーんけーん――ポン!」


「重くないでしょうか? アスター様?」


「むしろ、軽すぎるくらいだよ。ハハハ……」


 ジャンケンの結果、見事に勝利したのはアマツさんだった。


 ちょこんと僕の膝の上に乗った彼女からフローラルな良い香りが鼻腔をくすぐる。

衣服越しに伝わる僅かな体温と、驚くほどの柔らかさに男として激しく動揺してしまうが――直後、周囲から三人の冷たい眼光が突き刺さった。


「アスター? 随分と嬉しそうね?」


「レポートを、さらに追加した方が良いかもしれないねえ……」


「あ・ら・あ・ら……?」

 

 いや、言い出したのはメグじゃないか! 


 僕は心の中で理不尽さに血の涙を流した。


「椅子、取ってくる!」


 なぜかメグが勝手に怒って部室を出て行ってしまった。


「わ、私は降りた方が良いのでしょうか?」


 ギロリ、と残った二人がさらに僕を睨みつける。


「そうしてくれると本当に助かるよ……」


「少々残念ですが……ひゃぁっ!」


 彼女が僕の膝から降りようとした瞬間、盛大にバランスを崩して僕の方へと倒れ込んできた。とっさに受け止めた結果、お互いに強く抱き合うような形になってしまう。


「ちょっと! 何よそれ、何抱き合っているのよ!」


「あらあら、ふふふ……」


 ステラは顔を真っ赤にして怒り狂い、カレンは声こそ穏やかなものの、その瞳の奥は一切笑っていない。


 アマツさんは驚愕した様子で急いで僕から離れたが、その顔は耳の裏まで真っ赤に染まっていた。


「すみません……私、本当にドジなのです……」


 そういえば、教室に入ってくるときも派手に転んでいた。昼休みは何故かドアにぶつかっていたし、本当に筋金入りのようだ。


「聖女様って言っても、案外私たちと変わらないのね」


「世界樹を再生させた時は、あんなに堂々となさっていたのに」


 ステラとカレンが率直な感想を述べる。


「二人とも、流石に失礼だよ」


 僕は二人を(たしな)めた。


「いいのです、自覚はありますから。それに……」


 アマツさんがふっと遠い目をする。


 部室のにぎやかな空気が、一瞬にして凍り付いたかのように錯覚した。


 その瞳はどこか深く悲しげで、僕が初めて目にする彼女の表情だった。


「それに?」


「いっ、いえ! なんでもございません! そういえばアスター様、お昼はお弁当の紐を解いて下さり、ありがとうございました! 私、非力なもので……」


 あからさまに話題を逸らされた。けれど、これ以上は踏み込むべきではないだろう。


「椅子、確保してきたよー!」


 メグが意気揚々と帰ってきた。


 どうやらもう怒ってはいないようだ。切り替えが早くて助かる。


「ん? 何かあったのかね?」


「アスターが聖女様とイチャイチャしてただけよ!」


 ステラがここぞとばかりにメグを煽る。カレンもそれを止める気はなさそうだ。


「アスターくん、そんなにレポートを書きたいだなんて、本当に勉強熱心だねー!」


 完全なる職権乱用だ! 勘弁してくれよ……!


 僕は心の中で絶叫した。


 ――言うまでもなく、その日の夜は徹夜でレポートを書く羽目になったのだった。

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