乱入! 星霊研究部
アマツさんが僕たちのクラスに編入されて、メグの初授業が終わった。
放課後、片づけをしているとステラとメグが近づいてきた。
「さあ、今日からは一緒に星霊研究部の部室に行けるね!」
メグは初授業を終えたというのに、疲れを一切感じさせないくらい元気いっぱいだ。
「そんなに喜ぶことかしら。ほら、早く行きましょ」
ステラは、そんなメグのハイテンションをクールに受け流す。
「それじゃ、行こうか」
「あっ、あの!」
僕たちが教室を出ようとすると、後ろからアマツさんに呼び止められた。
「どうしたんだい? 授業で分からないところがあったのかい?」
メグが一瞬にして教職者の顔つきになる。アマツさんは少しモジモジしながら、恥ずかしそうに指先をいじっていた。
「そのっ! 星霊研究部を見学させていただいてもよろしいでしょうか?」
アマツさんは意を決したように、僕たちにそう告げた。
「おお! 新入部員は歓迎さ!――と思ったが、一カ月後には学園を去るんだったね……」
メグは一瞬喜んだものの、すぐシュンと肩を落とした。
「でもまあ、聖女様が見学に来たらウチの部活も箔がつくね! いいよ!」
メグはすぐに気を取り直して、明るい笑顔で答えた。
……アマツさんまで自分の実験の毒牙にかけるつもりなのだろうか?
「よし! じゃあ出発だ!」
メグの号令で、僕たちは星霊研究部の部室へと向かった。
***
「お邪魔してるわよ――あら?」
部室のドアを開けると、そこにはカレンがいた。彼女は部員ではないが、もうすっかりいつものメンバーだ。
「アマツです。星霊研究部の見学に来ました」
アマツさんは丁寧にお辞儀をする。
「これはご丁寧に。カレン・シリウスですわ」
二人が自己紹介を済ませ、少しの静寂が流れる。それをメグの声が派手に打ち破った。
「あーっ!」
「どうしたんですか?」
急に大声を上げるメグ。僕は何か大変なことが起きたのかと思い、思わず身構えた。
「椅子が足りない……!?」
この部室には椅子が四脚しかないのだ。五人が座るには、確かに一脚足りなかった。
「仕方ないね……こうなったら、誰がアスターくんの膝の上に乗るか決めよう!」
いきなりメグが、とんでもないことを言い出した。
「僕は立ってるから、みんなは座っ……」
僕が言いかけた瞬間、ステラがそれを鋭く遮った。
「乗ったわ!」
ええ!?
僕はカレンの方を見て、なんとか助け舟を出してもらおうとした。
「あらあら、面白そうね」
駄目だ、楽しんでる。こうなったら最後の希望、アマツさんに……
「頑張りますね、アスター様!」
彼女まで乗り気だった。聖女様、そんなことに気合を入れないでほしい。
「それじゃあ時間がもったいないし、ジャンケンで決めようか!」
「はーい」
メグの提案にステラたちも乗る。こうして、何故か『僕の膝の上にのる権利』をかけた勝負が始まった。
というか、ジャンケンってこの世界にもあったんだな……
「じゃーんけーん――ポン!」
「重くないでしょうか? アスター様?」
「むしろ、軽すぎるくらいだよ。ハハハ……」
ジャンケンの結果、見事に勝利したのはアマツさんだった。
ちょこんと僕の膝の上に乗った彼女からフローラルな良い香りが鼻腔をくすぐる。
衣服越しに伝わる僅かな体温と、驚くほどの柔らかさに男として激しく動揺してしまうが――直後、周囲から三人の冷たい眼光が突き刺さった。
「アスター? 随分と嬉しそうね?」
「レポートを、さらに追加した方が良いかもしれないねえ……」
「あ・ら・あ・ら……?」
いや、言い出したのはメグじゃないか!
僕は心の中で理不尽さに血の涙を流した。
「椅子、取ってくる!」
なぜかメグが勝手に怒って部室を出て行ってしまった。
「わ、私は降りた方が良いのでしょうか?」
ギロリ、と残った二人がさらに僕を睨みつける。
「そうしてくれると本当に助かるよ……」
「少々残念ですが……ひゃぁっ!」
彼女が僕の膝から降りようとした瞬間、盛大にバランスを崩して僕の方へと倒れ込んできた。とっさに受け止めた結果、お互いに強く抱き合うような形になってしまう。
「ちょっと! 何よそれ、何抱き合っているのよ!」
「あらあら、ふふふ……」
ステラは顔を真っ赤にして怒り狂い、カレンは声こそ穏やかなものの、その瞳の奥は一切笑っていない。
アマツさんは驚愕した様子で急いで僕から離れたが、その顔は耳の裏まで真っ赤に染まっていた。
「すみません……私、本当にドジなのです……」
そういえば、教室に入ってくるときも派手に転んでいた。昼休みは何故かドアにぶつかっていたし、本当に筋金入りのようだ。
「聖女様って言っても、案外私たちと変わらないのね」
「世界樹を再生させた時は、あんなに堂々となさっていたのに」
ステラとカレンが率直な感想を述べる。
「二人とも、流石に失礼だよ」
僕は二人を窘めた。
「いいのです、自覚はありますから。それに……」
アマツさんがふっと遠い目をする。
部室のにぎやかな空気が、一瞬にして凍り付いたかのように錯覚した。
その瞳はどこか深く悲しげで、僕が初めて目にする彼女の表情だった。
「それに?」
「いっ、いえ! なんでもございません! そういえばアスター様、お昼はお弁当の紐を解いて下さり、ありがとうございました! 私、非力なもので……」
あからさまに話題を逸らされた。けれど、これ以上は踏み込むべきではないだろう。
「椅子、確保してきたよー!」
メグが意気揚々と帰ってきた。
どうやらもう怒ってはいないようだ。切り替えが早くて助かる。
「ん? 何かあったのかね?」
「アスターが聖女様とイチャイチャしてただけよ!」
ステラがここぞとばかりにメグを煽る。カレンもそれを止める気はなさそうだ。
「アスターくん、そんなにレポートを書きたいだなんて、本当に勉強熱心だねー!」
完全なる職権乱用だ! 勘弁してくれよ……!
僕は心の中で絶叫した。
――言うまでもなく、その日の夜は徹夜でレポートを書く羽目になったのだった。




