編入生は聖女様!?
翌日、僕はステラと共に教室にいた。今日はメグ先生の初授業だ。
「しかし、あのメグに教師なんて勤まるのかしら?」
僕とステラはメグの破天荒ぶりを知っている。だがそれはあくまで僕たちの前でだけだ。
「多分大丈夫だよ、メグは意外としっかりしているし、学園長も天才だっていってたからね!」
「まあ、メグも空気くらい読むわよね……。何も起きなければいいけど……」
ステラはまだ心配なようだ。目を閉じて、ムムムと唸っている。
そんな話をしていると、教室のドアが思いっきり開かれ、バンという大きな音が鳴り響いた。教室中の視線が一か所に集まる。
「みんなー! おはよう!」
メグだ、最初に会ったときのように白衣を着て、今回は眼鏡までかけている。
「スピカさんじゃない?」
「何で私たちの教室に?」
「俺たちで実験するつもりか?」
クラスメイトは様々な反応をする。彼女が担任になるなどとは、誰も思ってもみないようだ。
「今日から君たちの担任になるメグだ! メグ先生と呼びたまえ、諸君!」
メグがいつものように豪快に仁王立ちをしながら自己紹介をする。
「私たちの担任はブラーエ先生ですが……」
クラスメイトの女子が恐る恐る手を上げた。するとメグは大袈裟にポーズを取りながら、不敵な笑みを浮かべる。
「ブラーエ先生は、『実家に帰らせていただきます……』だそうだ! だから臨時の担任として、私が選ばれたのだよ!」
ブラーエ先生の真似をしながら答えるメグに、クラスメイトたちはまだ納得がいっていない様子でざわついている。
「まあ学園も人員不足なのだよ! それに私は天才だからね。ああ自分の才能が怖い……!」
芝居がかった身振り手振りで、メグは誇らしげに胸を張った。
「わかりました、メグ先生。みんなもいいわね!」
見かねたステラが助け船を出すと、クラスメイトたちは渋々ながら納得したようだった。
「さて、授業の前に紹介しておきたい人がいるぞ。入ってきなさい!」
メグが教室の外に向かって呼びかける。
「はい」
芯の通った澄んだ声が響き、教室に入ってきたのは――僕たちにとって意外すぎる人物だった。
――聖女アマツ様。そこにいたのは紛れもなく、昨日会った彼女だった。
アマツ様は、質素ながらも風格のある法衣を身に纏い、僕たちの方に軽く一礼をした。
「聖女様だ!」
「何で私たちの教室に?」
「もしかして!?」
教室中が一気に色めき立つ。そんな中、アマツ様はメグの元へと歩み寄る。一歩、二歩、そして――盛大に躓いて、頭から地べたに突っ込んだ。
「ふんぎゃ!」
……え? いま、盛大にダイブしなかった?
――水を打ったように静まり返る教室。何とも言えない気まずい沈黙が流れる。しかしアマツ様は何事もなかったかのようにすっと立ち上がり、何食わぬ顔でメグの隣に並んだ。
「え、えーと、今日から一ヶ月の間、特別に私たちのクラスに編入することになったアマツさんだ! みんな拍手!」
「よろしくお願いいたします! 皆様!」
彼女の天使のような微笑みが、クラスメイトたちの心を一瞬で掴み、教室は割れんばかりの拍手喝采に包まれた。
その時、彼女の視線が一瞬こちらを向いた気がした。
なんだろう、何か違和感がある。
確かに彼女は聖女としての風格がある。しかし、世界樹で会ったときのような、圧倒的な強者としてのオーラを感じないのだ。
「えーと、席はどこがいいかな?」
メグが教室を見回すが、アマツさんは指示を待たずに歩き出し――迷わず僕の隣の席に座った。
「ちょ、いきなりなんなのよ、メグ先生の指示に従うべきでしょ!」
ステラがガタっと椅子を鳴らして立ち上がり、顔を赤くしながら抗議するが、アマツさんは意に介さない様子で、僕の顔をじっと見つめてくる。
「よろしくお願いいたします、アスター様!」
屈託のない顔で笑う彼女が、僕の手を両手で優しく掴む。――その瞬間、僕の息が止まった。彼女の左手にあるはずの『北斗七星の傷』がない。正確には、六つの点の傷があった。つまり彼女は、あと一回の奇跡を起こせるということだ。
「どうかなさいましたか? アスター様?」
彼女が不思議そうに首を傾げる。あまりじっくりと見ていると、怪しまれるかもしれない。そう思った瞬間だった。
「アスター様も左手に傷があるんですね。ふふっ、私と同じです」
「あはは……そうですね……」
誤魔化しようがなかったのでひとまず同意したが、彼女の真意が分からない。敵なのか、それとも味方なのか……
「おーい、そろそろ授業始めてもいいかーい?」
メグが呆れた顔で、僕たちを見ていた。
うぅっ、クラスメイトからの視線が痛い……
「聖女様が相手でも、私、負けないわよ!」
ステラが握りこぶしを胸に当て、僕に対して小さな声で宣言する。
いや、別にそんなんじゃないんだけどなぁ……
こうして波乱もありつつ、メグ先生の初授業は何とか幕を開けるのだった。




