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【完結】流星の星霊術士  作者: 折尾リク
二章 北極星【ポラリス】
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魔人国のクーデターと託されたもの

 ブラーエ先生に呼ばれた僕は、先生に連れられて、ステラたちから離れた。十分に距離を取った後、先生は「この辺でいいか」と言って、振り返る。ここならステラたちに声は聞こえない。


 聞かれたくない話なのかな?


 僕が首をかしげながら待っていると、先生はヘラヘラした態度で僕に語った。


「魔人国の親父から、今さっき呼び出しがかかってね……、放っておくと面倒なことになるんだ」


 先生はやれやれと、大袈裟にポーズを取りながら、ため息をついて続ける。


「だから暫くの間、帰らねばならないんだ、どうだ? 先生がいないと寂しいだろう?」


「もしかして、さっきの暗殺者に反応しなかったのは、そのためですか」


「フォーマルハウト君なら、簡単に対処できると信じていたからね」


 こんな事を言うために、わざわざ皆から離れたのか?


 すると、先生の目が一切笑ってないことに気付いた。


「先生、本題は何ですか? そんな真剣な表情で言われたら、調子が狂っちゃいますよ」


「すまないね、フォーマルハウト君、今から言うことは、結構ショッキングだから、和ませようと思ったんだ」


 先生は咳ばらいをした後、僕の目をしっかりと見た。


「魔人国で、クーデターが起きた。私は穏健派の力にならなければならない。首謀者は主戦派の魔将ウラヌス。かなりの魔人がウラヌスの側に付いたらしい」 


「それは、大事じゃないですか! 僕にだけ話すってことはついて行った方がいいのでしょうか?」


 先生は、一瞬微笑み、首を横に振る。


「もう生徒を危険な目に遭わせる訳にはいかない。こういうのは大人の仕事だ」


 先生が僕の頭を優しく撫でる。


「じゃあなんで、僕にだけこんな重要な話を?」


 先生は僕の手に、ある紙を握らせた。


「これは?」


 僕は不思議そうに紙を眺めた。何も書かれていない、ボロボロの紙だ。


「これには、魔人国のある()()が書かれている。万が一私の身に何かがあった時のために、これをフォーマルハウト君に託そう」


()()って何なんですか?」


 僕が先生に問いかけると、先生は空を見上げた。


「その時になれば分かる、だがそうはならないだろうな、ウラヌス如きに遅れはとらない、まあ保険だ」


「先生……」


 僕が不安そうにしていると、先生は自信満々な顔で言った。


「そんな顔をするな、ジュピターも、ネプチューンも、私の敵ではなかったからな」


「そうですね……」


 そうだ、先生は強い、もしかしたらジャックおじさんよりも……


「それと、ウラヌス陣営に送った、スパイからの情報だが、近いうちに王国で何かが起きるらしい。ウラヌスのことだ、きっとろくでもない事だろう」


 先生がため息を漏らす。そして僕に笑顔を向けた。


「それじゃ、行ってくる、三人には適当に誤魔化しといてくれ」


「行ってらっしゃい、ブラーエ先生!」


 僕の言葉を聞くと、先生は軽く手を上げて、風のように去って行ってしまった。


 手のひらに残る、ボロボロの紙きれ。僕はそれを急いでポケットの奥に押し込む。一抹の不安を、無理やり笑顔の裏に隠してステラたちの元へ戻った。




「あれ? ブラーエ先生は?」


 合流するなり、ステラが不思議そうに首を傾げた。


「ブラーエ先生は、用事で実家に帰るって」


 嘘じゃないけど、これでクーデター云々は誤魔化せるはずだ。


「ええ!? 帰るってどうやって? 大結界もあるのに」


 メグが驚きながら、疑問を投げかける。 


「そういえばそうだね、僕たちの知らない抜け道があったりして」


「お父さんから聞いたことがあるわ、戦争の時に魔人がやけにスムーズに撤退したことがあるって」


 最強の星霊術士であり四星(フォースターズ)のジャックおじさんがそう言うなら、抜け道はありそうだな。


「あっ!?」


 ステラが急に素っ頓狂な声を上げる。


「どうしたの、ステラ?」


「大変なことに気付いちゃったわ……」


 深刻な表情をしたステラ。ゴクリと、僕は喉を鳴らす。


「ブラーエ先生がいないと、私たちのクラスはどうなるの?」


 ステラがあまりにも真面目に言うものだから、少し拍子抜けした気分だ。


「ああそういえば、多分私が教えまーす!」


 メグが謎の宣言をする。褒めて褒めてと言わんばかりの顔になっている。


「教えるって何を?」


 僕の問いかけに、メグは待ってましたとばかりに胸を張り、ニヤリと不敵に笑った。


「だから、私がアスターくんと、ステラくんのクラスの担任になるのだよ!」


「「えええええ!?」」


 僕とステラの絶叫が響き渡る。


「あらあら、凄いわね」


 そんな僕たちの驚愕をどこ吹く風と受け流し、カレンだけは全て知っていたかのように、余裕の笑みを浮かべていた。当のメグは、これ以上ないほど勝ち誇った顔をしている。


「でもメグはまだ学園の生徒じゃない! 何でなのよ!」


 ステラが困惑した表情で、メグを問い詰める。


「私は天才だからね、学園のカリキュラムに縛られないのさ! ブラーエ先生に何かあったら、私がアスターくんのクラスを、受け持つことになっていたのさ!」


 今明かされる驚愕の真実、というよりかは、人員不足なのだろうか?


「メグ()()と呼んでくれてもいいんだよ、ステラくん」


「くぅー授業の時以外は、絶対に呼ばないわよ!」


「私も受けたいわ、メグ()()の授業」


 カレンの言葉に、メグは目に見えて冷や汗を流す。


「な、なにが目的だい? カレンくん?」


 声を震わせ、みるみる小さくなっていくメグ。


「興味本位で言ってみただけよ、メグ《《先生》》!」


「うああああ、なんだかゾクゾクする、授業以外では()()禁止だ! いいな!」


 カレンの底知れない笑みに本能的な危機感を覚えたのか、メグは全力で首を振った。


「「「はーい」」」


 僕たちはそんな風にいつものように談笑しながら、茜色に染まる帰路に就く。ブラーエ先生の言葉や魔人国の動向は気がかりだったけれど、今の僕にできることはない。


 次の日、メグ先生の初授業が、『ある事件』によって、波乱の幕開けになることを、今の僕たちは知る由もなかった。

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