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【完結】流星の星霊術士  作者: 折尾リク
一章 七つの奇跡
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願い星

 最後の願いを叶えた僕の意識が覚醒する。


 気がつくとそこは、アメオ様と初めて出会った場所――満天の星空が広がる虚無の空間だった。


「お帰り、アスター君」


「ここにいるってことは、やっぱり僕は死んだんですか?」


「そうとも言えるし、そうでないとも言える」


 相変わらず、どこか煙に巻くような回答だ。


「そうだね、結論から言うと、君は失格だ!」


 唐突な失格宣告。


「なっ、何が失格なんですか!?」


 あまりの言い草に、僕は少しムッとして言い返した。


「普通、七回も奇跡を起こせるんだから自分のために使うでしょ! 不老不死とか、大金持ちとか、世界征服とかさ。なのに君ときたら、最初の二回だけ、しかも温かな家族や健康な体なんて、あまりに素朴すぎるよ!」


「いいじゃないですか、僕は大切な人たちを守れれば、それでよかったんです」


 転生して、僕はそう心に誓ったのだから。


「せっかく欲望まみれにして、膨れ上がった欲望と共に破滅させてから美味しくいただこうと思っていたのに!」


「そんなことを考えていたんですか!? それなら別に失格でいいです!」


「本当に趣味が悪いですのー」


「こんなのが主人なのは、誇りではなく恥」


 聞き覚えのある声、ドゥーちゃんとメラクだ。


「私は一応『悪神』だからね、過ぎた力を与えて、その破滅を楽しむのが性分なのさ。だから、失格の君には罰を与えないとね!」


「どちらにしても罰なんですね……」


 アメオ様が不敵に笑う。僕は思わず喉を鳴らした。


「アスター君には最大の罰を与えよう……もう一度現世に帰して、欲望まみれにしてやろう! どうだ、恐ろしいだろう!」


「それって、ただのご褒美ですよ、アメオ様」


「アメオ様、素直じゃないですのー」


「本当に悪神なのか、甚だ疑問が生じる」


「そこ、うるさいよ! ……コホン、まあ、七回願いを使ったら死ぬというのはただの脅しだ。ここで魂の色を見て判断するのが私の役目でね。もっとも、殆どが『合格』として消えていったけど」


 なるほど、逆に『合格』は消滅を意味していたのか。


「……失格で良かったです、アメオ様」


「そうだろう、そうだろう、奇跡の力はもう使えないが、君なら大丈夫だろう」


 アメオ様がそう言った途端、僕の体が光り出した。


「もう時間のようだ。ドゥーベとメラクはもう召喚できないけれど、その力は常に君と共にある。――その左手にね」


 言われて左手に視線を落とす。そこには、淡い光を放つ北斗七星の形が刻まれていた。


「これがドゥーベとメラクの……」


「ご主人サマ……」


「ご主人様……」


「ドゥーちゃん、メラク、本当にありがとう、またね!」


「はいですの!」


「はい」


「またね」という言葉に、二人の顔に喜びが満ちた。


「願い続けていれば、いつか叶うかもね」


「アメオ様は悪神かもしれませんけど、僕にとっては最高の神様ですよ!」


「そんな風に言われると照れるな。もう会うことはないだろうが、君のことは覚えておこう」


 光が増し、いよいよ別れの時が迫る。


「それじゃ、アメオ様、ドゥーちゃん、メラク――『行ってきます!』」


「行ってらっしゃいですのー!」


「行ってらっしゃい、ご主人様」


「ふっ、……行ってらっしゃい、アスター君」


 ***


「……スター! アスター!」


 ステラの声だ。それにメグ、カレン、アランの声も聞こえる。


 僕は重いまぶたを押し上げ、起き上がった。


「みんな、無事だったんだね、良かった……」


「何言ってるのよ! みんな心配してたんだから、アスターが全然目を覚まさないから!」


 ステラ、メグ、カレンの三人が、泣き出しそうな顔で僕を覗き込んでいる。傍らでアランだけは、バツが悪そうに視線を外していた。


「大丈夫だよ、心配かけてごめん」


「それぐらいにしてやってくれ、アスターは俺の命の恩人なんだ」


 アランが助け船を出してくれた。


「そうだ、今の状況は? 王都の襲撃はどうなったの?」


「私から説明しよう」


 ブラーエ先生が割って入り、的確に現状を伝えてくれた。北門の魔将ウラヌスは学園長たちが退け、西門の魔将ネプチューンは先生が始末し、東門の地龍三体は三人が撃退したという。


「南門は……」


「すまない!」


 先生が言いかけた瞬間、アランが深く頭を下げた。


「どうしてアランが謝るの?」


 ステラが困惑するのも無理はない。僕以外の全員が事情を飲み込めずにいた。


「南門を襲撃したのは、俺なんだ……」


「俺は魔人国に近い村の出身だ。戦争が始まった時、俺の村は四星フォースターズの作戦によって切り捨てられた。だから俺は彼らを憎み、そこをサターンに付け込まれたんだ。復讐を成し遂げられると思ったが、逆に体を乗っ取られ……必死に助けようとしてくれるアスターを見て、俺は……」


 アランが言葉を詰まらせる。その表情は自責の念で歪んでいた。


「自首するつもりだ。助けてもらった命だが、極刑は免れないだろう。……それに、俺はアスターの両親まで殺してしまった……っ」


 アランは拳を血が滲むほど強く握りしめ、ボロボロと涙をこぼした。その背中を、僕は優しく叩く。


「死んでないよ、アラン。君は誰も殺してない」


「……なんだって? だが、俺は魔将を手引きして、街を……!」


「幸いなことに、死者は一人も出なかった。君の処遇については、私に考えがある」


混乱するアランの前に、奥から学園長がゆっくりと歩み寄ってきた。


「この王国において、戦時の権力は『四星フォースターズ』にある。今ここには、その内の二家が揃っている。ブラウン君のような優秀な星霊術士は貴重な戦力だ。それを盾に交渉すれば、刑を軽くすることは可能だろう」


 学園長の心強い言葉に、僕たちは胸をなでおろした。アランはその場に泣き崩れた。


 良かった、親友を失わずに済んで。


 ***


「アスター、その左手どうしたの?」



 ステラが僕の手を指差した。


 以前の六個の傷は点に過ぎなかったが、七個目の願いを使い果たした今、それらは線で結ばれ、鮮やかな『()()()()』の形を成していた。


「これ? ……これはね、『()()()()』、星神様との強い繋がりの印かな」


「ふーん、アスターって意外とロマンチックなのね!」


「かもね」


「星神様との繋がりだと? 私にも見せたまえ、アスター君!」


「私も興味があるわ」


 メグとカレンも興味津々で僕の手を覗き込む。


「これがドゥーベで、こっちがメラク、それから……」


 満天の星空の下、僕たちは語り合う。


 ふと夜空を見上げると、北斗七星が燦然と輝いていた。その傍らを、一つの流れ星が通り過ぎる。


 奇跡の力はもうない。けれど、星神様と出会い、転生した奇跡は僕の中に生きている。


 ドゥーちゃん、メラク、そしてアメオ様。また会おう。


 ――願い続けていれば、いつか必ず叶う。


 星神様がくれた奇跡を胸に、僕は大切な人たちがいる世界で、新しく歩み出す。


 いつかまた、あの満天の星々の下で巡り合える日を信じて。

 第一章完結です、ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

 第二章は投稿に時間がかかると思いますので、よろしければ、ブクマをお願いします。


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