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【完結】流星の星霊術士  作者: 折尾リク
一章 七つの奇跡
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世界樹

 襲撃から数日が経った。


 またいつ襲われるか分からない緊張感の中にいたが、いよいよ今日は王都に戻る日だ。


「あの男は父さんと母さんを殺したと思い込んでいるから、多分大丈夫だと思うけど……気を付けてね」


「ああ、アスターこそ気をつけろよ」


「次も無事に帰ってきてね」


「うん、じゃあ行ってきます!」


 僕は名残惜しさを感じつつも、両親に別れを告げた。


「アスターのことは、私たちが守ります」


 ステラの頼もしい宣言に、メグとカレンも頷いた。


「嬉しいことを言ってくれるな。でも三人とも無理はしないでくれよ。もうみんな家族みたいなものだからな」


「家族……!」


 父さんの言葉に、三人は顔を赤く染める。


「モテモテね、アスター!」


 母さんが冗談めかして笑う。


 モテモテじゃないよ、と否定したいところだけど、流石にそこまで鈍感じゃない。……でも、前世の倫理観がどうしても邪魔をするんだ!


「ははは、かもね!」


 あえて肯定してみせると、母さんは少し驚いたあと、優しく微笑んだ。


 三人も挨拶を済ませ、ステラは出発のギリギリまで母さんと話し込んでいた。


「行ってきます!」


「行ってらっしゃい!」


 王都までの道中は平和そのものだったが、僕の内心は穏やかではなかった。


 襲撃犯とは、いずれ必ず戦うことになる。奇跡の力に頼ることはできない。絶対に皆を守るんだ。


 ***


 学園に戻って数日が過ぎ、僕たちは王都近郊にある『世界樹』へとやって来た。


 ジャックおじさんには両親が襲撃された件を説明したが、既定の行事のためキャンセルはできないらしい。代わりに護衛として付いてきてもらうことになったのだ。


 実力者の同行は、実になんとも頼もしい。


「初めての遠足が、世界樹とはね……」


 僕は目の前にそびえ立つ大樹を仰ぎ見る。


 東京タワーくらいあるのかな? 前世でも写真でしか見たことがないから、正確なところは分からないけれど……。


「どうだ? 立派だろう、アスター」


「学園長、今はハウト君ですよ。公私混同を控えないと、他の生徒に示しがつきません」


「す、すまん……コホン。立派だろう、ハウト君?」


 ブラーエ先生に嗜められ、学園長は大袈裟に言い直した。


「そうですね、凄いです。全身に空気中の魔力を感じるような……あれ?」


「どうした、ハウト君?」


「あそこ、少し()()()いませんか?」


 僕は世界樹の上部、端の方を指差した。


「本当だな。こんなことは初めてだ……ブラーエは何か知っているか?」


 学園長が先生に問いかける。


「いえ……魔人国にも世界樹はありますが、枯れるなどという話は聞いたことがありませんね」


「あとで調査隊を送るか。今は何もわからんな……」


 学園長は肩をすくめたあと、急に自信満々な表情で僕を抱きしめた。


「アスターは俺が守ってやるからな!」


 ジャックおじさん……僕が不安を感じていると思って、励ましてくれているのかな。


「ありがとう、ジャックおじさん!」


 僕は心から感謝を伝えた。


「学園長、ハウト君、言動には気を付けた方がいい。二人の熱い抱擁を生徒たちが見ているぞ」


 先生に指摘され、慌てて離れる。周囲を見渡したが、幸い注目を浴びている様子はない。


「ふっ、冗談だ……もちろん、私を頼ってもいい。こういうのは大人の仕事だ」


「ブラーエ先生、そのセリフ気に入っているんですか?」


 僕がツッコミを入れると、先生は「かもな」と短く微笑んだ。


 実力は折り紙付きの先生に、学園長までいる。僕の不安な気持ちは少しずつ消え去っていった。


「でも学園長、無理はしないでください? シリウスの力は半減しているのでしょう?」


「何を言うブラーエ! それでも俺は最強だ!」


 そうか、カレンに力を分けたからか……。でも本人が最強って言ってるし、大丈夫かな。なんだかちょっと学園長がドゥーちゃんに見えてきたな……。


「おっと、これ以上アスターを独占するわけにはいかないな。学友との交流も大事だぞ。さあ、行ってこい!」


 学園長に促され、僕はアランの姿を探した。


 新学期が始まってから、アランはどこか上の空なんだよな……。


 世界樹の周りをしばらく歩き回り、草むらで横になっているアランを見つけた。


「ここにいたんだ」


「アスターか……」


 返事もどこかぎこちない。やはり調子が悪いのだろうか。


「なあ、アスター、お前は……人を()()()ことはあるか?」


 唐突な問いに、僕は言葉を失った。


 アランの瞳は、どこか暗く、深い泥の底を見つめているようだった。


 僕は平静を装って、ゆっくりと答える。


「ないけど……いきなりどうしたの?」


 黒フードの魔人も呪術師も、僕が殺したわけではない。


「そうか、やっぱりアスターは……」


 アランは、どこかホッとしたような、複雑な表情を浮かべた。


「変なことを聞いたな、悪い」


「いいよ。アランが変なのは今に始まったことじゃないしね」


 冗談めかしてからかってみる。


「そうだな……」


 また、上の空だ。


 本当にどうしたんだろう、アラン……。


 僕は彼に倣って草むらに横たわった、集合の合図がかかるまで、二人で黙って空を眺めていた。

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