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【完結】流星の星霊術士  作者: 折尾リク
一章 七つの奇跡
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襲撃

 帰省してから一ヶ月が経過した。


 僕たちは各々の課題を済ませ、のどかな日常を送っている。


 今日はフォーマルハウトの祠がある湖にやってきていた。


「いやー、しかし会ったときは驚いたよ。ブラーエ先生そっくりのお姉さんがいるんだもんなー」


「ライラさんと先生は双子なんですか?」


 ステラとメグはライラさんとすっかり打ち解けたようだ。もちろん、僕も今では彼女をライラさんと呼んでいる。


「いえ……少々事情がありまして、双子ではありません」


 ライラさんは少し困ったような顔を見せた。これ以上この話題に踏み込むのはやめた方が良いだろう。


「ライラさんは、元々我が家で働いてくれていたのよ」


 カレンがすかさず助け舟を出し、話題を変えてくれる。


「ジャック様の護衛をしておりましたが、一度も力を振るう機会はありませんでした……」


 ジャックおじさんに挑むような無謀な人間はいないだろう。


「少し不謹慎ではありますが、こうしてフォーマルハウトの祠の護衛を任されたのは、光栄に思っております」


 ポーカーフェイスのライラさんが、少しだけ微笑んだように見えた。


「ライラさん、祠を護衛してくれてありがとうございます」


 僕が心からのお礼を伝えると、


「任務ですので、お礼は不要です」


 ときっぱり返された。けれど、彼女の口角がわずかに上がっているのを僕は見逃さなかった。


 持ってきたお弁当を食べ、水遊びをして過ごすうちに辺りは薄暗くなっていた。


 そんな時、突如として爆発音が響き渡った。


「なんだ!? 今の音は!」


「屋敷の方からみたい!」


 ステラの言葉に導かれるように屋敷へ目を向けると、そこからは火の手が上がっていた。


「私は祠の守りに付きます。陽動かもしれません」


「お願いします、ライラさん!」


 僕たちは彼女に祠を託し、屋敷に向かって走り出した。


 屋敷の前に辿り着くと、そこにはフィリップおじさんが倒れていた。


「フィリップおじさん、大丈夫!? 何があったの!?」


 僕が駆け寄って声をかけると、おじさんは苦しげに言葉を絞り出した。


「サロスと、ソフィアが……狙われている……。俺が、時間を、稼いだが……くそっっ、早く行ってくれ……!」


 フィリップおじさんは足を骨折しているらしく動けないようだが、幸い命に別状はなさそうだ。その時、少し離れた場所で再び爆発音がした。


「あっちか!」


 再び走り出した僕の前に、異様な光景が広がっていた。


 黒いフードに黒いマントを纏い、首に金の装飾を下げた男。アランのような筋肉質な肉体を持つその男の足元には、父さんと母さんが倒れ伏していた。


 父さんは相当な手練れのはずだ。それを相手にして、男は無傷だった。


「よくも、父さんと母さんを!」


 僕は星霊術で身体強化を施し、男に斬りかかる。しかし、鋭い一撃は男の手によって容易く受け止められた。男の手に血が滲む。


「アスター……? お前は……フォーマルハウトなのか……?」


 男はどこか上の空で、それがかえって不気味さを際立たせていた。僕は一旦後ろに跳び、距離を取る。


「なぜ僕の名を!」


「『四星フォースターズ』の抹殺は我が使命。だが何故だ、分からぬ……アスターは俺の……ぐああああああ!」


 男が急に苦しみだした。その隙を伺うが、あまりに異様な光景に身構えることしかできない。


「今は……二人始末できただけ良しとするか……」


 男が魔法陣を展開すると、辺りが眩い光に包まれた。あまりの光量に、僕は思わず目を閉じる。再び目を開けたとき、男の姿はどこにもなかった。


「逃げられた……っ!」


「ソフィアお姉ちゃん!? そんな、嘘でしょう……」


 ステラの震える悲鳴が響き、僕は弾かれたように父さんと母さんのそばに駆け寄った。


「無事か……? アスター……」


「私たちは……もう助からないわ……。でも、あなたが無事で……本当に良かった……」


 消え入りそうな声で、それでも僕の無事を喜ぼうとする二人。視界が涙で歪む。


 いやだ。死なせるものか。僕の力は何のためにある? この力は、僕の大切な人たちを救うために与えられたはずだ!


「父さん、母さん、今助けるよ! ――お願いだ、二人を治してくれ!」


 張り裂けんばかりの声を上げ、心からそう願った。


 夜空に二つの流れ星が走り、同時に僕の左手に激痛が走る。二つの点が出現すると、見る見るうちに二人の傷が塞がっていった。父さんの失った左腕も治り、母さんの顔の傷までもが消えていく。


「アスター? これは一体……?」


「説明するよ、父さん、母さん。僕は多分……あと一回、こんな奇跡を起こせるんだ」


 痛みに耐えながら二人に告げる。


「奇跡か……現にこうして救われたのだからな。アスター、お前の言うことを信じよう」


「ちゃんと治って、本当に良かっ……」


「アスター!?」


「アスターくん!?」


 僕の意識は、そこで途切れた。


 ***


 ……ここはどこだろう? アメオ様と会った場所に似ている。


 どこまでも広がる満天の星空と虚無の空間。そこにはドゥーちゃんがいた。


「ご主人様、もう願いを叶える力は使わないでほしい」


「どういう意味? それにドゥーちゃん、いつもと雰囲気が違うけど……」


 ドゥーちゃんは目を閉じたまま語りだした。


「私はメラク、アメオ様が遣わした、あなたの監視役」


「もしかして、あの時助けてくれたのはメラクなの?」


「本当は助けるつもりはなかった。でも、なぜかそうしたいと思った」


 メラクは淡々と、けれどどこか寂しげに語る。


「ありがとう、メラク」


 彼女がいなかったら、ジュピターを撃退することはできなかっただろう。


「別にいい。とにかく、もう力は使わないで」


「使ったらどうなるの?」


「あなたは、()()


 その言葉を最後に、意識が浮上していく。


「ここは……?」


「アスター! 良かった、全然目を開けないから心配したのよ」


 ステラが心配そうに顔を覗き込んできた。ここは屋敷にある僕の部屋のようだ。襲撃を受けたものの、屋敷の損害は最小限で済んだらしい。


「心配をかけたね。でも大丈夫、もう元気だよ!」


「本当に? 顔が真っ青よ。今にもまた倒れそうなくらい……」


「大丈夫だって。ステラは心配性だな」


 僕は笑って誤魔化した。けれど、メラクの言葉がずっと胸に突き刺さっている。


 あと一回使えば、()()


 ――それでも、大切な人のためなら、僕はきっと……。

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