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【完結】流星の星霊術士  作者: 折尾リク
一章 七つの奇跡
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プルート

 翌日、ブラーエ先生は何事もなかったかのように普通に授業をしていた。僕はそんな先生の一挙手一投足を注意深く観察する。


「熱烈な視線を感じるね、私に好意を伝えようとしているのかな?」


「ちっ、違います!」


 先生の冗談にクラスメイトたちが笑う。


「どうしたんだ、アスター? あんなに先生のことを見つめて」


「アラン、先生が魔人だって言ったら信じる?」


 それを聞いたアランは、噴き出した。


「前にも言ったけど、あんな細い魔人がいるわけないぜ、しっかりしろよ!」


「はあ……もういいよ」


 僕はアランの反応に肩をすくめる。


「そこ、私語は慎むように! ハウト君とブラウン君はレポート追加だ!」


「そんなぁ……」


 授業が終わり、僕は先生に呼び止められた。体が緊張するが、僕は平静を装った。


「今から、学園長室に行くぞ、学園長がお戻りだ」


「わかりました……」


 これは罠か? わざわざ学園長室に行く意味は……?


 僕は先生に先導され、学園長室へ向かった。


 コンコンコン、先生がノックを三回し、返事を待つ。


「入れ」


 ジャックおじさんの声だ。学園に戻ってきていたのは本当だったのか。


「失礼します……」


「失礼します」


 部屋に入ると、ジャックおじさんが開口一番に言った。


「すまん、アスター!」


「ど、どういうこと?」


 いきなり謝罪され、僕は戸惑った。


「ハウト君、いや、フォーマルハウト君が困惑していますよ、学園長」


 やはり、僕がフォーマルハウトであることを知っていたのか。


「そうだな、説明しないとな」


 ジャックおじさんが頭を搔きながら、こちらを見る。


「アスターを囮にしてしまったんだ」


「囮って……じゃあ、ジャックおじさんが学園を離れたのは?」


「それも計画の一部だ」


「じゃあ、先生は何者なの……?」


 僕は最大の疑問をぶつける。


「言っていなかったな、ブラーエは九大魔将の一人、プルートだ」


 やはり、先生がプルートだったのか。


「『元』ですよ。それに今は八大魔将……いや、ジュピターが死んだから七ですか」


 ジュピターが死んだ?


「ブラーエは魔将の穏健派から、主戦派が暴走しないための抑止力として派遣されているんだ」


「な、なるほど……」


 あまりの急展開に、僕はそう答えるのが精一杯だった。


「魔人王様は穏健派と同調しているが、それが主戦派には気に入らないらしい。主戦派の戦力を削ぐためとはいえ、フォーマルハウト君を囮に使ってしまった、すまなかった」


 先生は深々と頭を下げる。


「い、いえ! 皆が無事だったから大丈夫です!」


 普段は見せない先生の態度に恐縮していると、先生は顔を上げて自然な笑顔を浮かべた。


「君の実力なら、魔将を相手にしても大丈夫だと思ったからね」


 僕の力を信用してくれていた、ということか。なんだか誇らしい。


「そういえば先生、『()()()()()()』って知っていますか? ジュピターが僕の事をそう呼んでいました」


 ジュピターが遺した言葉。元魔将の先生なら知っているかもしれない。


()()()()()()か……ジュピターのことだ、辞書通りの意味ではなさそうだが……学園長は?」


「俺にも分からんな……」


 三人の間に、しばしの沈黙が流れた。


「まあ、危機は去ったわけだ! これからは安心して過ごすといい!」


 学園長が僕の背中を叩きながら言った。


「もう偽名で過ごす必要はないのかな?」


 あのお方とやらがジュピターなら、もう隠さなくてもいいはずだが……。


「手続きが面倒だぞ、いいのか、アスター?」


 ジャックおじさんが僕を脅すように言う。


「フォーマルハウト家は名家だ。きっと言い寄ってくる女生徒もたくさんいるだろうな。ふっ、モテモテで羨ましいぞ、フォーマルハウト君……!」


 嫉妬の眼差しを向けてくる先生。先生は一応美形なんだから、嫉妬なんてしなくてもいいのに。


「むっ、それはいかん! アスター、カレンのためだ、偽名のまま過ごすんだ! いいな!」


「わ、わかったよ……」


 二人の波状攻撃に、僕は首を縦に振るしかなかった。


「そうだ、もうすぐ今学期も終わりだな。帰省するのだろう? サロスとソフィアによろしく伝えておいてくれ」


「わかりました、それでは失礼します!」


 もうそんな時期か。いろんなことがあって、正直あっという間だった。


 その後、星霊研究部に立ち寄ると、ステラとメグのいつもの二人に加えて、カレン先輩も遊びに来ていた。


「ずるいわ!」


 部屋に入るなり、カレン先輩がぷくっと頬を膨らませて切り出してきた。


「ずるいとは……一体何がですか?」


「私だけ『先輩』呼びなのは、なんだか疎外感があるわ。メグみたいに、私のことも呼び捨てで呼んで欲しいの」


 どうやら呼び方に不満があるようだ。呪いが解け、みんなとの仲が深まってきたからこそ、一歩踏み込みたいのだろう。


「カレン先輩がそう言うなら、これからはそう呼ばせてもらいますね」


 僕が快く返事をすると、カレン先輩――いや、彼女は期待を込めた眼差しでじっとこちらを見つめてくる。……これは、今すぐ呼べということか。


「か、カレン……これで、いいですか?」


 急に意識してしまい、顔に熱が集まる。なぜこんなに恥ずかしいんだ……。


「ありがとう、アスターくん」


 カレンは満足げに、ひまわりが咲いたような笑顔を浮かべた。


 そんな僕たちのやり取りを、ステラとメグが冷めた目で見つめている。


「お熱いことでー」


「アツイー、アツイー」


「ステラさんも、ほら。さあ、早く呼び捨てにして?」


 カレンは構わず、今度はステラにも楽しげに圧をかける。


「か、カレン! ……もう、これ結構恥ずかしいわね」


 ステラも耳まで真っ赤にしている。


「ふふ、みんなともっと仲良くなれて、本当に嬉しいわ」


 カレンは上機嫌だ。


 ***


「もうすぐ学期末だけど、アスターはどうするの?」


 ステラが尋ねてきた。


「僕は帰省するよ、みんなは?」


「お姉ちゃんと会うチャンス! アスターについていくわ!」


 ステラの食いつきがすごい。あれだけ母さんのことを思っていたんだ、会いたくて仕方ないのだろう。


「面白そうじゃないか! 私もアスターくんについていくよ」


 メグは、もしかしたら王都にいたくないのかもしれないな。


「せっかく自由に学園の外に出られるようになったんだもの。フォーマルハウト領を観光するのもいいかもね」


 カレンも呪いが解けて自由の身だ。色々な場所を見て回りたいのだろう。


「じゃあ、みんなで行こうか、僕が案内するよ」


 こうして、僕の帰省に全員がついてくることになった。アランも誘ったのだが、彼は反対方向の領地に帰省するらしい。残念だ。

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