新世界
新たな使命を与えられ理不尽にも次の救世の旅に落とされたアキト。
目覚めた地は正しく人工物豊かな近代的な土地、コンクリートジャングル。
アキトにとって懐かしくノスタルジックな気持ちにさせるその風景、故郷を匂わせつつも何処か雰囲気が違うそれに敏感に反応し腰に手をやる。
(しまったー、装備が不完全だ!)
急遽決まった救世の旅、アキトは装備を元の世界に置きっぱなしで愛刀も身に着けていない丸腰状態であった。
現在自分がヒシヒシと感じる危機感に対抗する術も己の肉体のみと心許ない。
指を鳴らして旅行鞄を呼び出して文句を言おうかと思っていると正面脇の路地からノシノシと獅子の頭をしたおおよそ象程の体躯の四足の合成獣が現れてアキトは目を白黒させる。
(どうやら俺の知ってるようで知らない世界のようだ…神様ぁ?ちょっとヘルプ)
指を鳴らせば気付かれると急ぎ物陰に隠れるアキト。息を殺して敵の動きを探る。
何か餌を探す様に周囲を探索しているようでアキトが見つかるのも時間の問題と戦う覚悟を決めて飛び出そうとするとビルの屋上から飛び降りてきた学生服を着た集団が武器を使い獅子を押し潰す。
(ワーオ、俺でも滅多にやらねぇよそんなあぶねぇ手段)
集団は勝利を喜びハイタッチまでし合っているが新たにやって来た合成獣の増援に襲撃される。流石にヤバいとアキトは居ても立っても居られず加速しながら飛び出し今まさに噛み砕かれそうになっている男子学徒をタックルで押し退けて回避させる。
突然のアキトの登場に困惑する学徒達、アキトはフィジカルで取り敢えず乗り切ろうと音速近くまで加速したパンチで獅子の顔面に拳を叩き込む。
「どっせい!」
怯む程度だが学徒達の体制を立て直す時間は稼げたようでそれぞれが武器を手にし突き立てて何とか退治する事ができた。
助けられた学徒がアキトにお礼をいう。
「た、助かりました…あなたは一体…」
「…俺も急な状況の変化で混乱しててな…取り敢えず落ち着いて話せる場所に移動したい」
周囲には未だにピリピリとした殺気が渦巻いていてアキトは見渡して険しい顔をする。
学徒達も顔を見合わせて頷きヘッドギアの通信機で何処かと連絡を取り合う。
「イレギュラーが発生、ダンジョンから一時離脱を要請します」
(ダンジョン?…ダンジョン?!)
「承認降りました。皆帰投します」
周囲の光景がダンジョンと呼ばれてアキトは目を丸くしとんでもない所に落とされたと神鳴に対して内心文句を言うのであった。
ーーーーー
ダンジョンと呼ばれたコンクリートジャングルから何とか出ることが出来たアキトはピリピリした空気から抜けてホッとするが今度は冷たい視線と別のヒリついた空気に晒されて微妙な表情になる。
威圧的な空気を放つ眼帯のアキトより二周り程歳を食った男が護衛を引き連れてやって来て学徒達が整列し敬礼する。
(ああ、そういう?受け答え次第じゃ拷問もありそうだなぁ…頼む寛容であれ)
「貴様何者だ」
開口一番アキトは威圧的な質問をされて頬を掻く。
「名前はアキト、あー、姓とか言ったほうがいいですか?(無いんだけど)」
「何者かと聞いている」
(あー、そういう役職的な?…ねーよ!ンなもん!)
困り顔でアキトは姿勢を少し正して「一般人です」と答えると後ろの学徒達からそんな訳あるかと冷たい目線を受ける。
護衛達がアキトを警戒しふざけた発言に銃器を向けてくる。
「か、勘弁してくれ!俺だって好き好んであんな場所に居たわけじゃねぇ!事故だ、事故!」
実際事故のようなもので納得いかないことが多過ぎて文句を言いたくなる。
眼帯の男は護衛達に待つように手を上げるジェスチャーをしてアキトを睨む。
「処遇を決める為。貴殿を拘留する」
「この場で処刑よりはマシだ。好きにしてくれ」
護衛に腕を掴まれ手錠をされ歩かされるアキト、軽い溜め息が漏れて聞かれたのか軽く小突かれる。
歩いている内に拠点というのか前線基地のような場所について色々見えてくる。
(学徒兵を使っているだけあって学校が中心か…)
目立つ学園を中心に拠点が広がっていて何処もダンジョンと呼ばれていたコンクリートジャングルに近く切迫している状況なのだと思わされる。
アキトは学園に近い堅牢な建物に連れてこられて中の簡素な檻に収監される。
「大人しくしているんだな」
「分かってますよ。暴れませんから」
アキトは窮屈な檻の中で用意されている簡素なベッドに横になる。
(学生達の武器を見るに少し近未来的だが…都市は近代的、ちょっとチグハグしてる終末世界感があるな)
自分はこの世界で何が出来るのかとボンヤリと考えつつ癖を装って指をパチパチ鳴らしてベッドの下に旅行鞄を召喚して神鳴に小声で愚痴る。
「急に送り出されてステゴロで何とかなんて出来るかよ武器くらい用意してくれよな…」
全力を出して居ないのに勝手に罰ゲームをさせられてアキトは辟易とした気持ちで今の状況を省みる。
確かに他の女性と関係を持ったのは良くないかもしれないが神様の都合でくっつかざる負えない状況だったじゃないかとだんだん怒りが積もってくる。
「つまり後で武器を寄越せということだ」
ダンジョンならば踏破するという目的があるはずとアキトは推察してこの世界でやるべきことを見出す。周囲の全てのダンジョンを攻略する。アキトにとっては簡単な事だと鼻で笑うのであった。
ーーーーー
数時間後、学徒達が助けられた事を話したのか眼帯の男に呼び出され尋問を受ける事になる。男とはアクリルの壁越しに会話する。
「階級も無く身分証もない…正体不明の男…というわけだな?」
「ああ、そうなる。だが俺の使命は分かる」
周辺のダンジョンの踏破、それを伝えると男は大笑いしてアキトをギロッと睨み付けてくる。
「つまりダンジョンコアを狙う外の部隊か?!」
「コア?何だそいつは?ボスを倒せば万事解決じゃねぇのか?」
すっとぼける訳でもなく初めて聞く単語にアキトは激しく瞬きする。
「…本気で言っているのか?」
「俺の知らない文化だな。説明頼む」
眼帯の男は大きく溜め息をついてダンジョンコアというものについて話しを始める。
ダンジョンコア、各地で広がる怪物を呼び出し周囲を侵食する極めて厄介な物品の総称で取り除かれたコアは休眠状態になりエネルギー資源として扱える。
そのコアを回収する為の機関が今いるこの地の第七兵装学舎との事で今いるこの地はトーキョーらしい。
「なるほどトーキョーね、マジ?」
「侵食が大分進み強大なコアが幾つも埋まっている…その回収が我々の任務だ。貴様のような部外者が関わって良いことではないのだ!」
とはいえアキトにもやらねばならない事がある。そこは譲る訳にはいかないと協力を申し出る。
「今日見た学生の様子を見るに生存率は高く無いんだろう?捨て石の一つで俺も協力しよう。三食寝床付きなら無給で」
「………」
疑いの目、武器も持たないアキトを信用する訳もなく男は「今日はここまで」と話しを切り上げてしまう。
アキトは不遜な様子で色良い返事を期待していると告げて男を見送るのであった。
ーーーーー
翌朝、看守に檻を叩かれアキトは目を覚ます。
「出ろ」
言われるがまま尋問室へ連れて来られて眼帯の男と面会する。
「臨時講師として貴殿を学舎に入れる。まずはそこからだ」
「教鞭なら振るったことがある。任せとけ」
アキトは男からの依頼に快く引き受ける事に決め狭苦しい檻の生活から脱する事が出来ると歓喜するのであった。




