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救世主Aの冒険記録  作者: D沖信


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ハッピーエンド?

ケインズ領に入りいよいよ別れの時かとレインは覚悟を決めてぎゅっと唇を噛む。

馬車の中でアキトは険しい表情でどのような処分が言い渡されるか考えていた。


(解雇処分ならいいなぁ、死刑レベルは無いと思うが嫌だな)


そんな複雑そうな表情をレインは見てアキトも同じ気持ちであると嬉しいと感じるのであった。


御膝元のホーンズ街に入り二人は馬車を降りる。


「ついに帰って来ちゃいましたね」


レインは震える膝を押さえながらアキトに笑って見せる。アキトも緊張した面持ちで重い足取りで「そ、そうだな」と苦笑いする。


「御屋敷見えてますね…」


「レイン歩け、足が動いてないぞ」


「重い、想像以上に!」


二人は何とか気を奮い立てて屋敷の前に到着し呼び鈴を鳴らす。

メイドがやって来てレインを見て「お久しぶりです」と挨拶し合い中へと案内される。


ケインズへ一連の報告を重苦しい口振りでレインが行うとケインズはゆっくりと口を開く。


「なるほど…アキト殿、虚偽報告は真実か?」


「真実だ。言い訳はしない」


レインはドラゴン夫妻が人間と交流出来るまで温和になっていたと必死に弁護しようとする。


「レイン、事実は事実。温情については後だよ」


アキトも頷き判断を仰ごうとするがケインズから思わぬ声が出てくる。


「アキト殿、神様と会話出来るかな?」


「それは…どこで!?」


アキトが答える前に神鳴が幻影で姿を見せる。


『何かしら?』


「彼が異界から来て神の指示を受けて色々していると報告書にあってね、私は彼の実力を買っている。ぜひ欲しいと思っていたがそれは叶わないようだね」


実際に神から遣わされた存在なら留めることは不可能と理解してケインズは軽い溜め息を付く。


『そうね、役目は終えた。この報告も本来レイン一人で行う予定だった』


「ならば彼女は上手く立ち回ってくれた。私のもう一つの願いがある。聞き入れてくれるか?」


『何かしら?』


神鳴は神様らしく上から目線で尋ねる。

ケインズは緊張したように大きく呼吸し答える。


「レイン、彼女をアキト殿と同じ環境で鍛えて欲しい。一年いや、数年」


『死ぬわよ?』


脅し文句を言われてアキトはやれやれと頭を振る。


「事は正確に伝えろ。嫁達に殺されるだろ?」


『そうね、鍛えるだけなら環境があるけど』


レインは恐怖を覚えつつも可能性に賭けて声を上げる。


「お願いします!私!強くなりたいです!」


「私からもお願いする」


ケインズまで頭を下げる姿に神鳴は承諾したのは早計だったかもと頬を掻く。


「マジで死ぬかもしれないぞ?」


アキトはもう一度脅すが覚悟は変わらない様子だった。なんなら神鳴はアキトを指差しする。


『アキトの方が死ぬかもよ?姉さん達報復の用意してるって』


「は?嘘だろ?冗談だよな?な?」


突然話題の先が自分になってケインズ達から同情の目線を受ける。


『マジ、大真面目に帰ってきたら(しぼ)るって。去勢も考えてるって』


洒落(しゃれ)になってねぇよ!」


節操がないから仕方ないと神鳴は笑い帰り支度についてもう一度確認する。


『本当にメイド連れてっていいのね?』


「頼む」


『分かった』


ケインズの真剣な眼差しに根負けした神鳴はレインの受け入れを承諾する。

レインもこれから待つ苛烈(かれつ)な運命にゴクリと喉を鳴らす。


『じゃあ帰るわよアキト?』


「え?やだ。俺目的思い出した。カレー作る。スパイス巡る」


何故かカタコト喋りになっているアキト。そんなお金もう無いでしょとレインはアキトの方に手を当てる。


「い、いやだ!まだ死にたくない!助けてケインズ様」


「男は覚悟を決める時があるという…それが今だ」


「そんなん何時もだよ畜生!」


パッと光ってアキト達は世界を飛ぶ。残されたケインズはアキトの必死な顔を思い出して大笑いしてレインに「頑張れよ」と応援の言葉を贈るのであった。


ーーーーー


懐かしの異世界。永世中立都市魔法研究棟学院、略して魔法学院。アキトも実技の剣術の教鞭を振るっていた学舎(まなびや)である。その正面玄関口にアキトとレインは降り立つ。


「ああ、クソッ今すぐ逃げたい!」


「諦めましょう。ほら誰か来てます」


レインに言われてアキトが顔を上げると懐かしの顔ぶれが走ってやって来る。

今まで覗き見していた奥方達がやって来て手を降っている。顔は笑顔だがアキトはこってり搾られると聞いているから実感するあの笑顔は嘘だと。


「アーキートー!」


先頭を走る豪華なローブに身を包む金髪碧眼の神鳴の姉貴分で精霊学科の神楽。

その後ろにメイド服姿の黒髪ポニテの目の座っている正妻トウコ。レインを睨んでいるようである。

更に後ろ、猫背で目の下のクマが特徴のマッドサイエンティスト風の魔法薬学科教師シュメイラ。

そのまた後ろに陰陽師風の着物を着た三本尻尾の大人な女狐の玉藻前。

四人の奥方が現れ最後に幻影で出ていた神鳴が姿を見せる。


「わぁ…思ってたより凄い」


レインも引け腰になりつつまずは第一印象からとペコペコと挨拶をする。

代表して神楽がレインに挨拶する。


「貴女の事はしっかり見ていたわよ?…ふふふ」


「な、なんか怖いです!アキトさまー」


レインの助けを乞う瞳にアキトは首を横に振る。


「残念だが玉藻前が臨戦態勢だ…尻尾三つか…」


「うわぁ」


臨戦態勢と聞いてレインは白目を向くが神楽がレインの肩をポンとする。


「安心なさい貴女に対する処遇は後…まずは…ね?アキト?」


「っぐ…」


両脇をトウコと玉藻前に固められたアキトは神鳴を前に苦々しい顔をする。


()めやがったな…」


「何も騙して無いわよ。アキトがちゃんとやっていれば問題はないでしょ?」


確かにレインと関係を深めたのは問題があったかもしれないがとアキトは必死に言い訳しようとするがそれを許される訳もなく引き()られながら学院の中に入るのであった。


ーーーーー


トウコはメイド仲間としてレインに仕事の内容を伝える。


「メイドとしてお掃除の仕事がたっぷりあります。この学院は広いですからね」


「は、はい!お掃除頑張ります!…その強くなるための訓練などは?」


「そういうモノがしたければ学業の時間が終わり自由時間になったら好きに活動できます。その時間までに仕事を私達も終わらせる事」


掃除を修羅の如き早さを要求してくるトウコにレインはこれが外の修行かとレインはやる気に満ちた目をしてトウコも少し毒気が抜ける。


「真っ直ぐな目をしますね…はぁ、虐めようと思う気分が減りますね…でも仕事は厳しくいきますよ?」


「は、はい!」


早速掃除の道具を手渡しされてレインは溌剌(はつらつ)とした様子で作業を始めるのであった。


ーーーーー


アキトの審判の場、神楽の私室でアキトをどうするか相談していた。


「どうする?何かしらやらせる?」


「まずはこってり搾るんとちゃうんか?ウチは加担せんけど」


玉藻前が神楽に提案する。神鳴は元々自分が焚き付けたことを無視してニッコニコする。


「もう一個世界を救わせる!」


「ふ、ふざけ…!」


やっと帰ってきたのに次の仕事なんて嫌だとアキトは声を大にしようとするがそこはシュメイラがストップ掛ける。


「同じ道を辿るならまずは…ね?ふひ」


「へ、変な薬はやめてくれよ?」


「どうしよっかなぁーアキトくんは私を頼ってたし?少しは実験に協力してもらいたいなぁー」


そこは受け入れるしか無いとアキトは微妙な顔をする。

神楽は自分のお腹を撫でて意見を出す。


「子供が産まれるまでは頑張って色んな世界に行ってもらおうかしらね?レインにはもうちゃんと仕込んだのかしら?」


「分かんねぇよ…ってかそこはシュメイラに頼んで人工でもいいだろ…風情無いけどさ。こっち来たのなら出来るだろ?」


アキトの発言に全員が酷いと酷評する。神鳴は新しい世界行かせる理由にもなると前に出る。


「ま、待て!マジで?!もう一個だと!?魔王は?!」


「純粋にピンチな世界を救ってこーい!」


ピカッと光りアキトは新しい世界へ送られる。シュメイラは「あーあ」と自分の実験は後回しかと肩を落とす。


「向こうの世界でやらせればいいわ」


神鳴の言葉に全員頷きアキトの頑張りをまた見守る事になるのであった。

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