波に揺られて
無事日の高い内に出港した一同、水、食料の備蓄も万全と思われた矢先のことだった。
旅慣れしているアキトはコレコレと潮風に当たって気持ち良くなっている背後で問題は起きていた。
「うぇっ…なんか気分が…」
初めての海の上、レインを始めとする帝国の冒険者は不甲斐ない姿を甲板の上で見せてしまう。
もともと海の少ない帝国、経験が無いのも当然だろう。
それでも一部の人間は毅然と振る舞う。その中でもレックスやアリスは野生の勘が働くのか平然としていた。
「なんで平気なんだよ…ボクは苦しんでいるのにぃ」
「あれは野生児だから平気なのよ…うぇ…」
ミラベルが恨み言を呟きシシーは軽口で誤魔化すが口を押さえていた。
仕方ねえなとアキトは干しベリーの酸っぱさである程度誤魔化せとダウンしている一同に配り始める。
耐えているタロスにも手渡すと悔しそうに受け取り口に含み顔を窄める。
「こんな事になるとはな…聞いていない…」
「陸地でしか生活しないとこんな揺れは感じないからな。地震とはまた違うから仕方ない」
「君は余裕そうだな、羨ましいぞ」
少し楽になったのか君呼びになっていてアキトも配った甲斐があったと笑う。
「海の上で戦闘になればこの揺れとも戦わないといけなくなるな…よし、全員特訓するぞ」
タロスは早速連れてきたダウン中の精鋭を干しベリーで立たせてチャンバラする形で慣れの稽古をさせ始める。
レックスはそれはいいアイデアと参加して甲板はバシバシと騒がしくなるのであった。
アキトは巻き込まれるのも面倒だと船内の様子を確認しようと移動する。
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亜人国、帝国、王国、教会の研究者達はそれぞれ今後の見立てを語り合っていた。波に揺られてるとはいえ議論に白熱しているのか船酔いは起こしていないようであった。
アキトはその場に脚を踏み入れて魔族や魔物について意見を出し合っていてアキトはつい口を挟みたくなり語りに参加する。
「魔族か、確かに厄介だが対処法はあるし勝てない相手じゃない。現に俺達は三体仕留めてる」
初めて確認された相手を冒険者が何故対策を知っているのかと疑問に思われてしまうがアキトは適当に誤魔化す。
「俺の故郷には言い伝えがあってな…その通りにすれば何とかなった。あんたらもそれに習えばいい」
「故郷?言い伝え?どこの?」
ツッコミを受けて遠すぎて忘れちまったと嘘を重ねる。
「奴等の厄介な技、魔物を作り出すガスだな。それに対しては二パターン存在する。一つは広域に散布し複数の眷属を作り出す。もう一つは濃いガスで一体の強敵を作り出す」
どちらも対処法等存在しないように聞こえるがアキトは残ってた身代わり人形を見せる。
「攻略の鍵はコイツだ」
「ただのぬいぐるみじゃあないか…」
「そう、ぬいぐるみだ。奴等のガスは生物や物を魔物と呼ばれる危険生物に変異させる。つまりガス見てからコッチが意図したものを投げ込めば…」
アキトが得意気に語ると研究者達はポンと手を打つ。
「ガスはそれを変異させるために消費される?!」
「そういう事。広域散布だろうが出始めに投げ込めば変わりはしない…ちょっと強い人形ゴーレムが生まれる程度で済む。二度目攻撃まで猶予もあるしな」
ちょっと強いという説明に自分達では勝てないかと肩を落とす研究者、致し方無い点ではあるが活路は見出だせて自由に議論が再開される。
土地や風土の調査、栽培可能な作物や食用可能な植物の有無など生活する上での基盤をどう整えるかがやはり最初の課題となるようだ。
ーーーーー
船倉は見張りがいて客室フロアを歩いて回る。
初期の開拓民の数人が参加していて出身地の違いに少しギクシャクしているようでアキトは沈黙に首を突っ込む。
「あんたら出身は?」
急に現れた冒険者に全員驚くが猫亜人の一人が呆れた様子で語る。
「見ての通り、亜人の国だよ」
「亜人はわかるんだよなぁ、帝国と王国の区別がつかない」
アキトが口を開くと何を言うかと帝国の人間が口を開く。
「我々帝国の人間は堀が深い!そして健康的!王国の薄い顔とは違うぞ?!」
「お前達のはただのゴツゴツフェイスだ、我々ほ事はスマートと言えスマートと!」
口論を始めて亜人はまた呆れる。
「うん、僕にも分からなかった」
「「な、なんだとぉ!?良く見ろ!」」
その三人の会話を皮切りに自分達と他人の違いを一生懸命話し合い自国内でも違うじゃないかと笑い話になり他人との差と国の差なんて些細だとアキトはゲラゲラ笑う。
「良く見たらお前はどこの国にも属さない顔しているな…?」
「そうか?アジアンフェイスとでも呼んでくれ」
猫亜人は醤油顔等と現代にもある揶揄の仕方をする。
因みに帝国はソース、王国は塩である(アキトの感想)。
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聖女様が見当たらないなと一通り船を見終えたアキトは甲板に戻ると稽古の様子を観察する女子に紛れて聖女が混じっていることに気付く。
(やべぇ自然過ぎて気付かなかった…)
船酔いの様子は無くこれから護衛してくれる戦士達を応援していた。
一人ノホホンと観察しているアキトに気付いたアリスが混じらないのかと不思議そうに質問してくる。
レインも頑張って汗を流している様子だがアキトは船の上だろうがどこだろうが戦えるからと苦笑いして面倒臭いしと流す。
だらしない奴とシシーに悪口を呟かれるがスルーしてアキトはマストの上に上がろうと縄梯子の方へ向かう。
(新大陸、いち早く見たいな、ま、登った程度で見えるわけ無いだろうが)
しかし当然船員から素人が登るなと注意され出鼻を挫かれる。
ちょっとショックを受けつつ地平線の向こう側にあるであろう新大陸を早く見たいと願うのであった。
ーーーーー
日も落ちて船内で食事を各々の食材を持ち合わせて作ってもらい皆で食べている時の事であった。
急に警鐘が鳴らされてアキト達は臨戦態勢に入り甲板に出る。
冒険者達が到着するとサハギンが何匹か船に乗り込んで来ていた。
「船の速度が落ちて乗り込んできやがった!頼むぜ冒険者さん!」
船乗りの声に全員が気前良く返事をして敵を蹴散らしていく。しかし次々と増援が乗り込んできて訓練してなかったらヤバかったと冒険者達は地に足つかない感覚に揺さぶられるながら戦う。
アキトは圧倒的な数の暴力をする冒険者に過剰だろとツッコミを入れながら自分に襲いかかってくる敵を排除する。
全員である程度撃破すると乗り込もうとしていた敵含めて撤退を始める。
終わったかと安堵したのも束の間、飛竜の羽ばたく音が聞こえてきてアキトは声を張る。
醸
「魔族かもしれねぇ!煙に警戒しろ!」
バサッバサッと一匹の飛竜と共に船頭に魔族が一人降り立つ。
「馬鹿な人間がぞろぞろと、この船はこの俺フーモ様が貰った!このまま幽霊船にしてくれる!」
「魔族だ。俺に任せろ」
アキトが前に出て木刀を向ける。
お手並み拝見と冒険者達は一歩下がり決闘の様相をし出す。
「一騎討ちのつもりか?騎士道ってやつかぁー?」
全員がアキトがそんな正道を行く戦士とは思っていなくて敵が馬鹿である事を祈る。
「乗ると思うか!馬鹿め!死ね!」
煙を吐こうと構えようとするフーモ、アキトはすかさず投擲する。
煙は吐かれるも敵は悲鳴を上げて怯みアキトは煙に向かって身代わり人形を投げつける。
煙を吸ってみるみる変化する人形に冒険者一同息を呑みアキトは煙の合間に見えたフーモに二度目の投擲を浴びせる。
(よ、容赦無い…)
全員がアキトの行動の躊躇いの無さを評価し、敵は小さく悲鳴を上げて足を踏み外し海に落ちる音が虚しく響く。
残った魔物をアキトは一刀で引き裂いて残った飛竜を仲間達が射殺し事なきを得るのであった。




