上海競馬場
「いったれマーブルスカイ」
公営ギャンブル競馬で生活費を増やそうと必死のクズ二人。
「かぁー3連敗!GTあといくらいける」
「もう10万やられてる。あと2万が限界だ、アイルに払う金まで失くなるし、1ヶ月カップ麺もきついだろ?」
二人は学習能力がなかった。ギャンブルは基本元締めが儲かる仕組みになっている。競馬もそうだ、16頭いて単勝を当てようとしたら1/16、この場合、単勝オッズ一番人気に賭けつづけたら赤字になる、還元率80%なのだから。ではこの法則を崩すには単勝2倍の馬を外したら次は3倍以上に同額か、単勝2倍の馬を買うなら掛け金を2.1倍にする必要がある。
まぁ逆張りできる要素がある馬に常に張り続ける精神力と財力があればプラスにできるだろう。
「おい若いのヘタクソな馬券じゃな」
「なんだよ、じじぃ」
「馬ってのはな、その日走らんこともあるしちょっとした事で馬券外すんじゃ、だから勝つ確率と照らし合わせると今日は逃げ馬じゃろ。人気がなくとも逃げる馬を買わにゃ」
「じじぃ、じゃ次のレースはどの馬が良いんだよ」
「次はの6番のトンデコパを買って逃げきる事を願うんじゃ」
「単勝オッズ48倍だぞ、こんなの当たるかよ」
「お主まだまだよの、オッズに踊らされていたら賭け事なんてやめなされ」
じぃさんはそう言うとどこかへ行ってしまった。
「どうするよヒビキ?」
「じじぃの馬に一万、俺達で選んだ馬に一万」
10分後レースは始まった。
ヒビキ達は二番人気のハッピーボーイを選択。
レース序盤、6番のトンデコパが大逃げをする。
ハッピーボーイは5番手にいた。
最後直線
「逃げる逃げるトンデコパ、まるで止まる気配がありません3馬身差圧勝ゴール、1年ぶりの勝ち星」
「本当に勝っちまったな」
「あぁ、とんでもねぇじじぃだぜ、俺達に競馬はハードルが高いもんだな」
二人は大捲りを決めて競馬場を後にした。
帰り道にタンタンへ寄りメガネアフロに挨拶。
「やぁ暇人君達」
「メガネが口が悪くなってるな、修正してやろうか?」
「営業妨害ならゴメンだよあと少しで閉店なんだから」
「飯でも食いに行こうぜ、今日は競馬で30万ぐらいプラスになったからよ」
「奢りかい、じゃ上海楼にある杏樹って店に行こう、焼き肉もあるし、そこの点心とエビチリが旨いんだ」
「よし行こう」
メガネアフロは店を閉め3人で上海楼へ向かった。
この日は風が生暖かく夜も過ごしやすそうで多くの若者が薄着で街に繰り出していた。
この解放感を味わえるのは若い時でしかなく、時間に追われる様に年齢を重ねるとこの解放感と喧騒が煩わしい一時とさえ思える様になる。
まだ3人は遠い場所にある地平線のようにしか感じないかもしれないが、それは彼らに限っての事だけでもないだろう。
「うーまい!メガネ良い店知ってんね」
「でしょ、特にエビチリはこの店に勝てないでしょ」
ビール片手にエビチリ、そして焼き肉と贅沢をしていた。
「はぁもう食えん」
「ヒビキ食いすぎだろ会計3万いってんぞ」
「ギャハハハ、結構いっちまったな」
会計を済ませ、通りの端にある屋台でさらに飲んでいた3人。
「しかし、こんなネオン街の裏がマジキチなスラムだもんなー」
「上海のスラムはどう?」
「ジャパンと変わりはねーよ、ただ13.14のガキが売りとか、あと薬の売人とか多いな、そういうとこはちょい考える」
「そうだな俺達はまだ仕事も寝る場所もあったし、食いもんだって1食ぐらいならな」
「ここ2、3年かな一気に荒れだした、薬だって前はほとんどなかったし、子供の飢えもこんなにひどくなかったんだよ、なにか変わったんだよ。まだ情報は掴めてないけど」
3人は路地の陰でサラリーマンから金を受け取り消えていく女を見ながらネオンの光に誤魔化され汚れた色を見せないビルを見ていた。
散々飲んでちょっとだけセンチな気分になりながら帰っていると街頭の真下のベンチに座って鼻歌を歌っている少女がいた。
「ふっふーん、ふふん」
「ずいぶんご機嫌だな、もう大分遅いぞ」
「心配しないで今日はここにいるから明かりもあるし」
「家ないんか?」
「しばらく前からこうよ、お兄さん達に迷惑かかんないでしょ?」
「ヒビキ行くぞ」
GTはこの手の面倒が苦手だった。弱肉強食なんてのは遥か昔からだと分かっていたから。
ヒビキも十分に承知しているが今日のこの夜の雰囲気に呑まれ、自分が何者かであるかなど小さな問題だとそして少女に対しても。
手を繋ぐ事で、もしかしたら解決できるかもと。
「なんだい、じゃ俺達と一緒だな。靴
どうした?」
「無いの、3日前に起きたら無くなってたわ。あとは何も失うものもないわよ」
「じゃ今日はさ、家においでよ。シャワーもあるし食べ物もある」
「あたし、売りはしてないよ」
「買おうなんて思っちゃないよ、たださ、鼻歌上手だったしさ」
「なにそれ。でも足痛かったし助かる」
「じゃほれ」
ヒビキはおんぶする格好になった。
「ありがと」
少女は素直に好意を受け止めた。
歩いて数分もしないうちに少女は寝息をたてていた。よほど限界だったんだろう。夜空を見上げヒビキは勝ち誇った顔をしていた、それは今日ほどの夜に自分の存在を認めさせたかのように。




