1ー12
「ここが地下闘技場か…」
新たな場所に胸をワクワクさせながら階段を降りるとただただ広い場所がそこにはあった。
天井まででも十メートルほどあるだろう。
光源は魔石を消費して明かりをともす松明だった。
地下と言うこともあってか、少し薄暗い。
「お待ちしておりました、リン殿」
僕がリングへ降りると燕尾服を来た執事が恭しく礼をしていた。
だがその執事の技量に僕は圧倒されていた。
(……この人、凄い)
本来ならば闘技場に入ったら気づくであろう場所であっても存在が希薄なのだ。
今、目の前に居るのに少し気を緩めれば即座にいなくなってしまいそうな程に。
「それでは理事長の命により一戦交えさせていただきます。先手はそちらからで」
「はい、よろしくお願いします」
何故こうなったのか、これは二時間程前まで遡る。
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「なるほど、効率良く魔物狩りで経験値を得たいから魔道具が欲しかったと」
「はい、あの本バカほど経験値使いますから」
交渉とも言えない交渉が終わったあと、先程のピリピリした空間が嘘のようなほんわかとした空間で話し合っていた。
主にどうやってあの本を解放させるかと言うことについてだ。
まぁ大体の方針は決まっているので今は理事長にこれでいいか確かめている。
すると理事長の方から意外な提案をされた。
「…そうじゃ、この学院が持つダンジョンに入るか?」
「ダンジョン……まさかあのダンジョンですか!?」
「多分リン君とワシの目的の一番の近道になりそうじゃがな」
この世界にはダンジョン、所謂魔物がランダムにポップする洞窟や人工的に建てられたと言われる塔が存在する。
人工的に建てられたと言われる、と言われているのは過去の文明の産物かもしれないと記録に残っているからだ。
まぁそれも今では原本が紛失し本当なのかどうかも不明になってきたが。
「ちょうど学院のダンジョンが経験値型でな、制限付きではあるが頑張れば一週間で目標には到達するんじゃあないかな?」
「な、なるほど。それなら直ぐに行きそうですね」
「ただし、一つほどお願いがあるんじゃが」
「なんでしょうか」
「この地下に闘技場があるからそこで一人の男と戦って貰えないか?ダンジョンの位置はその男が教えてくれるはずじゃ」
「分かりました、ありがとうございます」
─────と、こんな事があり執事の様な服装を着ている人と戦っていた訳だが、今僕の目の前には天井が見えた。
背中には硬い土の感触が触れる。
そして今更気づいた、ああ僕は負けたんだと。
ホルダーから銃を抜き一発撃った後の記憶がない。
だがこうして横になっているのは負けたからだろう。
「ふむ、中々筋もいい、これから鍛えていけば世界一すら目指せる。因みに戦闘職でしょうか?」
「いや、生産職だ」
そういうと目の前のダンディーなおじ様が驚きの顔を浮かべた。
「生産職でその実力ですか?……これは才能の塊ですな」
ははは、と僕は苦笑いしか口から出なかった。
「それではダンジョンまで参りましょう。……立てます?」
「はい、大丈夫ですよ」
「それは良かった、それでは着いてきて下さい」
ダンディーなおじ様が闘技場の奥へと歩き始めたので僕もそれに着いていった。
「因みにお名前は?」
「おや?まだ名乗っておりませんでしたか、それは失礼。私はバルサナと申します、以後宜しくお願いします」
「バルサナさんですか、僕はリンです。宜しくお願いします」
「はい、存じ上げております。理事長よりしっかりともてなすよう伝えられましたから」
また変な所に気を回すなぁ、と思いながらも口にはしない。
逆にありがたい事ではあるからだ。
「それでは足元にお気おつけて下さい。よく滑りますので」
闘技場の端まできたらバルサナさんが微妙に色の違う石を押した。
するとその横に地下へと続く階段が現れた。
降りてみると忠告通り本当に滑りやすい。
通気性がないから湿気がこもりやすいのだろう。
「因みにバルサナさん、何故貴方と戦う必要があったんですか?」
五分程階段を降り無言の空気に耐えられなくなった僕は一つ気になる事を聞いた。
「そうですね、レベルが上がり強くなったと錯覚し天狗になった子供達の鼻を折ったり、動きのズレを調整する為の相手と戦ったりするんですけど、最初からその人の動きを知っていれば何処がズレたかアドバイスが出来るので、その為ですね」
「僕、ほぼ一瞬でやられたんですけど」
「遠距離用の武器であれば大抵同じような動きをするのであまり対策はいりません。貴方と戦ったのは大まかなステータスを調べるためです」
ならやる必要なかったじゃん、と言う言葉を抑え込む。
そしてそれとは別の質問を投げかけた。
「それなら僕がステータスを見せればいい話では?」
その瞬間、この場に静寂が降り立った。
「……………到着致しました。ここからは一人でどうぞ」
「…………………………はい」
この話は無かったことにしたようだ。
まぁ、戦闘狂とは話が通じないって言うからね、しょうがないね。
「さて、ここからがダンジョンって言っても……闘技場と変わんなくね?」
ダンジョンに着いたといわれたが先程までいた闘技場と全く変わらなかった。
強いて言えば先程よりも暗いだけだろう。
「そういえばバルサナさん────て、あれ?」
先程降りてきた方をみると階段がなかった。
多分ダンジョンに入ったから消えたのだろう。
経験値型のダンジョンは未だに良く分からない事が多いらしいし、まぁ気に揉む事じゃ無いだろう。
不安にはなるがその程度だ。
すると闘技場もどきの中心から大きな煙が吹き上がった。
即座に口と鼻を押さえた。
最低限の対処だけでもしなければ危ないのは村での経験で知っているからだ。
そして煙が晴れるとそこには僕が居た。
「「……は?」」
そう声を出すとあっちの僕も同じように声を出した。
右手を上げる。
あっちの僕も右手を上げた。
投げキッスをした。
あっちの僕も投げキッスをし返してきた。
吐きかけた。
自分の投げキッスをする瞬間を見るなんて普通に気持ち悪かった。
何が悲しくて自分の投げキッスを受けなきゃならんのだ。
でも、取り敢えずこのダンジョンの敵は分かった。
自分自身と戦うということだ。
そうとわかれば取り敢えず一発。
自分と同じ行動をするならば拳銃やナイフは使えない。
そしてパン、と軽い音が響く。
拳どうしがぶつかった時の音だ。
そしてそこからアッパー、と見せかけてのジャブ。
それでも見事に食らいついて来て拳を打ち合うだけになった。
それでも、なんかの違和感が襲ってくる。
自分と戦っているようで、自分では無いという謎の感覚。
そして同じような事が数十合続き、手の感覚が無くなりかけた時、その違和感の正体がハッキリとした。
先程と同じように顔面に向けて殴りかかった。
だと言うのに拳には感覚は無く、血の味が口に広がり体に大きな衝撃が響く。
「……チッ、そういう事かよ」
違和感の正体、それは戦っている間に少しずつ相手の動く速さが変わっている事だ。
それもコンマという本当に小さい単位刻みで。
そのせいで今倒れている相手、自分の分身体の様な奴も倒れているが殴られた後は一切ない。
時間が経てば経つほど倒せなくなる。
……成程、初心者以外がやったら死ぬわな。
しかも自分の技で自滅というね。
だから学院が管理しているのか。
だが今その疑問が腑に落ちた所で意味は無い。
僕は再び駆け出し相手へと迫る。
そして顔面目掛けて殴りかかった。
そしてやはり相手の方が速い。
「───掛かった!」
そして相手の腕が顔の横をすり抜けたと同時に裾を掴み、襟元も掴んだ。
そして地面へ叩き付ける。
相手はようやく自分とは意思、驚きを顔に表した。
「くたばれ」
自分の姿であろうと容赦なく足を上げ頭を砕いた。
ここまでの一連の動作がまるで長年積み重ねているような自然な流れで出来た事に自分でも驚きがあった。
「……あ、これやばい」
そう思ったのも束の間、自分の体が傾いて居ることに気付いた。
そしてそのまま地面に倒れ込み気絶した。
【設定の解説】
ダンジョンは罠型、魔物型、経験値型と三つに分かれており、罠は致死性のトラップが多い、その分宝石なども多くはハイリスクハイリターンなダンジョン。
魔物型は一階層は雑魚敵ばっか、他の異世界物のダンジョン的な感じ。
経験値型は制限付きではあるけど普通のダンジョンより何十倍も効率よくレベルを上げられる。
ストック無くなったので暫くは不定期更新となります
週に一度は出せたらいいなぁ……(遠い目)




