<シメは観覧車って言うやろ?>
誰や、そんなん決めた奴。
今すぐボコボコにしてやりたいわ。
男一人で、しかも服めっちゃ生乾き臭するん。
たぶんインカムか何かで係員にはもう俺の存在が周知されとったんかもしれん。
なんていうか……うん、なんかもう優しい目で見てくれてたわ。
そんで、今は観覧車のゴンドラが上に向かってるとこ。
『……小僧』
「うお、なんやジジイ、いつもいきなり出てくるんやめろや」
『今日はちーちゃんを楽しませてくれてありがとうな』
「いきなり殊勝なこと言うんもやめてくれ。鳥肌立つやん」
『いや、おめさんだけには、ちゃんと教えておこうと思ったんじゃよ』
「なにを?」
『おめさん……千紘のこと、どこまで知っておる?』
「どこまでて……ニュースで前に言うとった、熊本の山ん中で…って」
『それだけじゃろう?どうして“ああ”なったか、教えてやる』
「え?」
『手を出せぃ』
なんか、今のジジイには反抗でけん気迫があった。ぶっちゃけ怖い。
ので、言うことを聞いて素直に手を出したら、ジジイがその手を握ってきた。
途端に、頭ん中を映像が走る。10倍速ぐらいの早さで。
何があって、どうなって、“ああ”なったか。
「――――ッ! もうええ!!やめてくれ!!」
俺は、“ああ”なるところまでも耐えられんかった。
無理やりジジイの手を振りほどいて、映像を止める。
ジジイも、それ以上無理に見せようとはせんかった。
「……それ見せて、どないせぇって言うねん、クソジジイ」
『どうもせん。済んでしもうたことじゃ。しかしのぅ……だからこそ、今、この世に繋がれている間だけでも、千紘には色んな体験をさせてやりたい。楽しいことをたくさん、教えておきたいのじゃよ』
「ああ……そういうこと」
なるほどな、ジジイの言いたいことは分かった。
けど、このクソジジイは大事なことを忘れとる。
「労働には対価が必要や」
『うん?』
「だからこれは、千紘が俺の仕事?……仕事かなぁ?……を、手伝ってくれたご褒美なんや」
『ふむ』
「ジジイもクソガキやった頃あるやろ?父ちゃん母ちゃんの手伝いして、お駄賃もろて喜んどった頃が」
『…………遠い昔すぎて忘れてしもうたわい』
「そうか、ボケたジジイに70年前を思い出せって言う方が間違っとったな、すまん」
『小僧、わしが大人しくしておったら調子に乗りおって……』
「せやから、今日の遊園地も“労働に対するご褒美”なんや」
ジジイがちょっとキレかけとったから、慌てて俺は話を締めることにした。
ゴンドラが降りてきたら、中で人が一人で死んどったとか、もうホラーやん!!
「俺はこれからも、千紘がええ子にしとって、俺の手伝いをしてくれるんやったら、それに対してのご褒美ぐらいちゃんと出すつもりや」
『……ふぅむ。それが一人遊園地でもか?』
「それは言わんといてくれ。つまり、心配いらんっちゅうこっちゃ」
『そうか。そいじゃぁ、わしはもうひと眠りするかのう。家に着いたら起こしておくれ』
「それ、車の後部座席で寝る奴の発言やで」
はは、と思わず笑ってしもた。
ジジイは一度目を閉じる。次に目を開いたら、そいつは千紘やった。
『おにーちゃん?あれ、ぼく……』
「ちょこっとウトウトしかかっとっただけや。そんなことより見てみい。もうすぐてっぺんやぞ」
『えっ?うわぁ……高い!!夕焼けきれい!!』
「けど、ジジイとあちこち移動しとった時も、こんぐらいの高さで飛んでたりしんちゃうん?」
『ううん、もーっと高かったよ!!』
「は!?」
『だから、おうちとか、車とか、あんまり見えなかった。ねえ、ここからおにーちゃんの家、見えるかなぁ?』
「んんんんん。さすがに無理とちゃうかなぁ…」
市どころか府をまたいでしもうてるからなぁ……。
「なぁ千紘、遊園地はそんな何回も来られへんから、この景色よーく覚えとけ」
『もう来られないの?』
「いや、来れるかどうかは…………俺の財布の中次第や」
『ああ……じゃあ、しばらくは無理だなぁ』
「どういう意味やコラ」
ゲンコツを押し付けて頭をぐりぐりしたら、千紘が「いたいいたい」と言いながらも、笑っとった。
笑っとるんなら……大丈夫やろ。
「ほな、観覧車終わったら、売店で山田と凪にお土産買うて、帰ろうか」
『うん』
「もちろん、ソフトクリーム忘れてへんから、心配すんな」
『……うん!!』
嬉しそうに千紘は笑う。
ほんまに、お手軽。
けど、こんなお手軽なもんが今まで手に入らんかった……か。
こんなんで良ければお安い御用や。
俺の尊厳ライフは、もう0どころかマイナスに振り切っとるけどな。
次回へ続く!!
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