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Just-Ice ~明星注ぐ理想郷にて~  作者: 福ノ音のすたる
第10章 ~日出でぬ街の薔薇~

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209/210

204.道連れ *

 他愛の無い談義こそが、ときに弱った人を救う。すっかり話し込んでしまった三人の魔導師は、飽きもせずに深夜まで同じ時間を過ごした。

 そしてふと気が付いたとき、レントは目を覚ます。知らぬにうちに眠ってしまっていたようだが、それは他の二人も同じこと。彼のかけがえない仲間たちは、静かに寝息を立てて気持ち良く眠りに落ちていた。

 「……ちと飲み過ぎたか」

 レントは二人を寝かせたまま、ふと席を立つ。凝り固まった体をほぐすべくして、ぐっと背伸びをしたところで、彼は薄暗いギルド内をそっと見回してみた。

 夜勤のウェイターは、カウンター席でうたた寝を。同じく夜を任された受付嬢も、目を擦りながら窓口へと腰掛ける。近くのテーブル席には、同じく酒に潰れた魔導師が少々。破天荒ながらも、彼らにはそれが日常であった。

 ただその光景の中で、異質なものが一つ。それは依頼掲示板へと歩み寄る、一つの人影。レントはその様子を眺めながら言葉を零した。

 「……なんだ……こんな時間に」

 依頼掲示板に近付く人影は、椅子に腰掛けた者とは別の受付嬢。ギルド魔導師でない彼女が依頼掲示板へ近付く動機ともなれば、それは必然と依頼書の更新に限られるだろう。

 ただしどのギルドにおいても、依頼掲示板の更新作業は早朝に行われることが常。それでも深夜に依頼書が貼付されたということは、その依頼がいかほどに急がれた案件であるか窺える。

 レントはただの興味本位で、依頼掲示板へと歩んだ。誰が、どんな案件を依頼したのか。これほど急ぐ理由は何だろうか。ただ他人事にそれを見てみよう。その程度の気持ちで、レントは依頼掲示板へ歩を進めた。

 依頼の表題、それは行方不明者の捜索。その下には、依頼主の名義。そして更にその下からは、行方不明者の詳細な特徴の列挙。

 「……人捜し、か。こりゃ大変だ」

どこか他人事に呟いたところで、彼はまた出来心でその依頼へ目を通す。表題の下から、集中力も散漫な中で、彼は一つずつ文章をなぞらえた。

 「……表題につき、下記の人物の捜索を依頼する。依頼主・テクタ=ズグセル」

 「名……レティア=トレヴィリナ。雇用契約違反に基づく、賠償の執行のため。金色の長い髪。小柄。誘惑魔法等の戦闘能力あり」

 レントは更にもう一度読み返したところで、ようやくその名を思い出す。レティア=トレヴィリナ、それは自らが自暴自棄へと陥ったとき、偶然に見知ることとなった女の名であった。

 そしてそんな女の行方を追うのは、テクタ=ズグセル。その男が有力な貴族の血を継ぐ者であることは、姓を見るに明らかだった。

 ズグセル家は高名でありながらも、その全てが良い噂ばかりではない。多くの者が心に抱く率直な評価は、権力を誇るために相応の手段を講じてきた、敏腕の名家。そしてレントもまた、それに近しい感想を持ち合わせていた。

 レントはどこか焦燥する。たった一夜、少しの言葉を交わしただけの娼婦。それでもたった一夜だけ、自らの命を繋いでくれた女。事の成り行きが定かではなくとも、その女を見捨ててしまうのはあまりに不義理な気がした。

 そしてレントは、その依頼書を掲示板から剥がし取る。握った紙をそのままに、ギルド窓口へ。うたた寝をする受付嬢の肩を揺すって起こすと、彼は早口で語った。

 「依頼を受けたい。手続を頼む」

 「んぇ? い、今からですか?」

 「そうだ。今直ぐだ」

受付嬢は戸惑いつつも、その依頼書を受け取る。

 「……わ、分かりました。少々お待ちください」

 そして彼女は手続を執行するべく奥の部屋へと歩を進める。また一人になったところで、レントはふと後方を振り返った。

 彼の瞳に映るのは、すやすやと眠る獣道(ビースター)の面々。もしまた自分が一人で姿を眩ませたなら、彼らはどう思うだろうか。その推察に至れたからこそ、彼は決意する。ここは一人で抱え込まずに、仲間を頼ってみよう。




 そして三人の車は、深夜の道路を駆け抜けた。エクアとコムレスはレントから状況を教わりつつも、まだ困惑を隠せない。

 エクアはレントへ尋ねる。

 「おいエクア、今からオラトリアに向かうって、間に合うのか? 貴族が出す依頼書ってのは、大抵近隣都市のギルドへ一斉に配られるもんだ。見たところ報酬もかなり美味い。いくら深夜とはいえ、他の街の魔導師も動き出してるぜ」

 「間に合わせる。さっきも言っただろ、俺はこの女に借りがあるんだ」

運転手を務めるコムレスが呟く。

 「エクア君、我らがリーダーのお達しだ。僕たちはただ、全力でそこに応じようじゃないか」

朗らかな声色ながらも、滾る熱意を宿した一言。そのアンバランスな言葉に、エクアは少し微笑んで応じた。

 「……そうだ、そうだったな。道が無くても作り出す。さながら、獣道のように」

レントはその遠い昔に考えた、パーティ名の由来に倣って返答する。

 「そうだ。とりあえず進んでみりゃーいい。今回に関しては完全に俺の都合だが、道拓くときはお前らと一緒だ」

コムレスは笑いながら応じた。

 「言葉の通り、道連れってことだね」

 「人聞きがわりーな。というかコムレス、お前運転荒いっての」

 「仕方ないでしょう。さっきまでお酒飲んでたんですから」

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