第6話 モトローラ・セーバー編(エピローグ)
13、墓参り
その日は快晴で、心地よい空っ風が吹く日だった。
ワシントンD.Cからポトマック川を渡ってすぐにある、バージニア州アーリントン国立墓地。
そこに殉職者として埋葬されたアレクサンドル・スミス巡査の墓がある。
小高い丘の上、ポプラの木の下で、他の墓と並んでいる白い石塔に刻まれるはアレクサンドルの名前。その前で黒いワンピースを靡かせて佇むは、金の巻き毛を持った1人の少女。
「あたし、まだパパが死んだんだって、よく分からないの。」
父と同じ金の巻き毛が風にたなびく。黒い瞳に涙を溜め、娘は一言呟いた。その様子に目にクマを覆いやつれた母親が、細い手で少女の肩を置く。その横で倒れそうな母親を支え、横についたのは正装姿に八角帽子をかぶったヨーナスだ。
「ヨーナスのお兄ちゃん…。」
「・・・・元気を出して。」
とメガネの奥から優しい眼差しで見るヨーナスに、少女は溜まらなくなってその脚にしがみついて泣き出した。
ショックで寄りかかる母親と娘を支え、その肩を抱くヨーナス。
その後ろからそれを寂しそうに見守るは下衣をつけ、黒無地の満州服を着る高珊。
そして八角帽子を胸につけて立つ正装姿のジョージであった。
ふとジョージの肩に手を置いて、自身の到着を告げるは、黒い喪服姿のウェッブとフェルナンデスだった。
そして、その丘の下の道に止まる車は。漆黒のHSVO―010だった。
その中からすくと出てくるは、髪をきちんとまとめ黒スーツを着こなした椴。白手袋を整えつつ、開いたドアに向かって手をさしのべる。彼に手を引かれてHSVから出てきたのは、同じく黒スーツに身を包んだミナだった。
その後ろに続くのは、山吹色のFBIのフォントを大きくつけたパトカーだ。
そこから出てきたのは、右腕にギプスをはめたサーラーと、運転席から降りた部下のカレル。後部座席から出たのは、なんとNYPDのメアリー刑事であった。
「サ、サーラー指揮官…御怪我の方は、大丈夫でしょうか。」
と遠慮がちに、サーラーに気を遣うメアリー刑事。
「ああ、大丈夫だ。」
とサーラーはすらりと答える。
勇気を振り絞ってサーラーに自分も連れ出すようにと頼んで乗せてもらった事に、小さく「ありがとうございます」と呟き身体を萎縮させるメアリー。
「別に、いいよ。」
と並んで丘に向かうサーラーとカレルに、メアリーもその後にそそくさとついていった。
そうして丘の上に一斉に並ぶ黒服の、アレクサンドルを偲ぶ一同が、母親と娘を支えるヨーナスの後ろへと並んだ。
しかし、ここである者がまだ出てきていない。それは今日の墓参りを提案した当本人でもあった。
***
墓地に向かっている車の後部座席に座っている本人は着信音に気付き、胸ポケットから携帯を取り出す。
それをかけながら前にいる運転手に指で促し、防音ガラスを席の間に閉めさせた。
「ギルモア大統領。G8よりお帰りになりましたか。」
蒼い携帯電話を耳にかけた男は、始めにそう言った。
「ああ。君も私のいない間にご苦労様だったな。大量出血で危ないって聞いてたが、その様子だと何とかなったんだね。」
その声に応えたハスキーボイスの持ち主―ギルモア大統領は、ほっと安心したようにホワイトハウスの受話器からかけている。
「ええ、お蔭様です。そして、入院中に尋ねておいた事についての返答ですか。」
「ああ。そうだ。いよいよ私も決心をした。」
と一息ついてギルモア大統領は語り出した。
「君の指示した通り、私が問い詰めた事でついにNSAの奴らは吐いたよ。確かに、トゥルーデの魔女は、実は最初から、NSAに自分の望みと目的を知らせていたというのだ。」
「それが、UAV…無人兵器汎用化作戦・・・・であったのですね。」
「ああ、今はまだ一部の航空機にしか設備されいてないが、今や膨大な予算を整備して全兵器を無人化するという膨大な計画が武官たちの間で囁かれていたそうだ。それを、速攻中止せよ。と脅しをかけてきたのが魔女だった、てね。」
「成程、今や現職軍人が長官を務め、軍部との繋がりも深いNSAにまず脅しをかけていくのは、実に妥当な所ではありますね。」
納得したように男は頷いた。
「ああ、しかし、当然の事だろうが―軍人たちはそれを無視した。それに対する抗議として魔女は、今までああして嫌がらせをしてきたのだよ。「次はお前たちの分だ。」と言わんばかりに少しずつその対象を近づけていって・・・。」
「そして、ついにコードをハックしてUAV化されたF35を自在に動かしてみせた・・・という事ですか。」
今日のように蒼い空に向かって、飛び立っていったF35を思い浮かべながら、男は車から空を見上げる。
「ああ。ちなみに、君には悪い事を言うが・・・。私は主犯格であったアヴァ議員の事…、彼女もこのどうしようもない事態に巻き込まれた哀れな1人とも思って居るのだよ。アーサー議員。」
遠慮がちに言った大統領の言葉に男―、アーサーはさしてとがめる事なく、どういう事です、と問うた。
「アヴァ議員は実は魔女の本当の目的をNSAの策略からあえて教えてもらわなかったのだ。もし、アヴァ議員がそれを知っていたことなら「聖女」は必ずUAVに反対するはずだった。そうしたら彼女は、本当の意味で人類の「聖女」になったのかもしれない。」
しかしそうはならなかった。
「魔女はムンダネウムにいる。」という情報しか聞かされなかった彼女は自分の故郷ネバダを守るために、自身の正義と郷土愛を暴走させてしまったのだ―。
「さて、色々回り道をしてしまったワケだが、この先は一体どうすればいいだろう、アーサー議員。」
深いため息をついた大統領は請うように尋ねた。
「まず、アヴァ議員の座は私が引き継ぐ事にします。そして委員長としての権限を行使し、ムンダネウムのRWを「日本の分」も含めとりあえず、すべて買い戻しましょう。そうして盾を奪った後、逃亡するなり、再び攻撃の準備に至る前に、確保します。」
きっぱりと言い放った言葉に大統領は息をのむ。
「君…アヴァ議員が事件まで起こして、守ろうとしたものをすべて踏みにじる気か。」
「我々は、テロリストとは交渉しない。」
アヴァに対するアーサーの見解はそれだけで十分であった。
しかし、アーサーは忘れない。死んでいったアヴァの、あの戦慄溢れる笑顔を眼の裏に焼付かんと目を閉じる。
あれ、だけは決して忘れない。とアーサーは決めていた。
しばらく沈黙が車内に走る。
「じゃあ・・・・UAVの事は・・・。」
と大統領は再び訪ねた。
「UAVですか。あそこだけは妥協して…」
「それは出来ない。」
大統領が遮った言葉にアーサーは目を開いた。
「というと。」
「出来る限り潜伏するようにはさせるが、UAV作戦はなんとしてでも実行に移す。それは私自身の決定だ。そしてこれが本題なのだが、その担当に是非、君も参加してもらいたいのだよ。」
アーサーは本当に大統領自身が言った事なのかと、一瞬疑った。
「・・・貴方は自分の言っている事が分かっているのですか、無人兵器というものが一体どういうものであるというものかを。あんな恐ろしいものを、まさか更に発展させようなどと。」
アーサーは一度、議員になりたての頃に「実験段階」という事でその実態を見たことがある。基地地下にある管制室で、はるか遠い異国にいる兵士の映像。それをまるでテレビゲームかのごとくボタンを操作し2人の男を、アパッチの機関砲で「首なし」にしたあの瞬間。
それを遠目に見ながら広がった何とも言えない罪悪感とやりきれの無さ。しかし、それでもどこかリアリティに欠けて、アーサーは無表情のままに、それを見ていたのだった。
それは操作している男も同じであった。
「違うね、アーサー議員。無人兵器はアメリカ国民を守るためのものだ。人がいようがいまいが武器とは所詮敵にとっては地獄、味方にとっては天国なのだよ。大した問題ではない。」
「・・・・が、しかし・・・それでは魔女に・・・。」
「我々はテロリストとは交渉しない。と言ったのは誰だったかな。」
車がきゅっとブレーキを立てて止まった。その右手に見えるのは、深緑のなだらかな丘だ。ポプラの木があるはるか先の頂上には黒い人だかりが見える。運転手によって開かれたドアから降りる間際、アーサーは座席の隣に置いていた花束を取った。
「魔女との戦いはこれからが正念場だ、アーサー議員。これから5年、「5年」だ。更なる技術の向上を図り、魔女と同等に戦える程の情報傍受能力と防御システムを身に着けよう。その上で更なる精度を誇る無人兵器でもって、最小限の犠牲の元戦いを挑むんだ。」
なんて事だ。アーサーは口を開いてその言葉を怪訝に眉を顰める。
こんな理論、生粋のパティフィストである。ギルモア大統領が自ら考えて言えるものではない。と。
アーサーは言葉を述べるその中で、頭の中を巡らした。
この、アメリカという組織の中で、「何か」が潜んでいるのだ。
それは、アヴァ議員に嘘の証言を教えた者であり、
それは、ギルモア大統領にこの流れへと誘導していった人物だ。
そして何より、この事件すべてのきっかけを作った「NSA」という組織に潜む、誰か。
「誰だ・・・・。」
アーサーはギルモア大統領に気づかぬ様、受話器ごしに歯を食いしばってそれを牽制した。
執務室に座りアーサーと話している大統領の、その後ろに佇んでいるであろう「彼」に向かって。
白格子から暖かい日差しを受け、後手に腕を組み構える「彼」は、にいっとアーサーの気を感じとった様に笑っていた。アーサーは目の前に浮かんだ残照に、その姿を捉えんと睨んだが、その歯の白さ以外はすべて、「真っ黒」だ―。
「確かに「彼女」は非常に口惜しい話、「大天才」であるのは間違いないが、そこで焦ってはいけない。我々の技術の力を信じて、はるか未来の事を規定しての判断し行動に移すんだ。そう考えれば難しい話でもなかろうよ、アーサー君。温暖化対策だとすぐに原子力に飛びつき、処理場がないとてすぐムンダネウムに売りつけるような日本の真似は絶対にしない。
人間は少しずつでも良い方法へと生きていくべきなのだ、これもその一つなんだ、きっと。」
とにかく、と言ってギルモア大統領は再び、念をおすように応えた。
「君はこの作戦を担当する気はあるかね、ないかね。」
アーサーは何も答えなかった。
蒼い携帯を閉じ、アーサーは花束片手に俯いた。
アヴァはこの虚無感をも「現実」から逃げているとでも言うのであろうか。
「私に…本当の死神になれと言うのですか…。」
ふと丘を見ると遠い異国で死んでいった戦没者たちの墓標が一面に並ぶ。
「はっ。」
それらが、まるで悩むアーサーに迫っているかのような感覚に囚われ、
どこか急に恐ろしくなった。
***
「お、来たぞアーサーが!」
「え、ど、どこだ!・・・あ、いや、どちらにだ!」
振り向いて丘の下に指を差すウェッブに、それに慌てて目をこらすサーラー。
すると、白い塔の間を真っ直ぐに進む黒服のアーサーが見えた。白
い墓標をすり抜ける風によって、長いコートを靡かせる様はやはり、死神を彷彿とさせる。
その細い手にはかすみ草で際立つ白薔薇の花束が握られていた。
その道を進みゆくアーサーの面持ちを今は誰も知らない。
「遅いぞアーサー!」
頂きの上からウェッブが叫ぶ。それを手を振る事で返すアーサー。
サーラーも待ってましたと言わんばかりに振り返した。そこでカレルが少し不機嫌になったのをサーラーは全く気付かない。
やがてアーサーは頂に登り、真っ直ぐポプラの木の元へと歩いていく。並んでいた一同がふとしたアーサーへの威圧感におされ道をあける。その道を無言で抜いたアーサーはついにアレクサンドルの墓標へと至った。
「奥様。」
アーサーの声にヨーナスの腕の隙間から顔を出す母親。娘もその言葉にはっとヨーナスの脚から離れる。そこにいたのは自分よりもずっと背の高い、顔色の悪い見覚えのある人だった。
「アーサー・・・議員?」
「久しぶり。貴女のお父さんに挨拶しにきたよ。」
と鉄仮面の様な表情から、娘を気遣う暖かい声色が風にのる。
風に短髪を靡かせながらアーサーはしゃがみ、白い薔薇の花束をアレクサンドルの白い墓標の前に置いた。束ねる赤いリボンが風にゆらめき、白と緑の風景に浮いていた。
「・・・・皆、アレクサンドロスの名の通り、勇敢に生きた我々の「英雄」に…黙とうを。」
アーサーの言葉を合図に、一同が一斉に墓標の方へ身体を向ける。そしてアーサーが目を閉じた瞬間に、椴とミナ、高珊は手を合わせた。その他は敬礼でもってアレクサンドル巡査への冥福を祈った。
その途端、風がポプラの影を揺らす。
ハンカチで目を抑える母親にしがみついたまま、娘はこっそり目を開く。
父の墓標の前に立つ、風によって黒いスーツがたなびいている、死神のような男。
娘はそれを見て、
「ああ、本当に父は死んだのだ。」
と子どもながらに理解したのであった。
最終章、大団エンド
「おーい、カレルー、サーラー殿―。」
帰ろうとしていた2人に、丘の下にある車から呼びかけたのはポールだった。
「お、ポール。お前なんでそんな所に?」
とカレルが車のキー片手に降りてきて、ポールの前に立つ。
「ああ、これからちょっとここから近い病院で、入院中のハルミネン議員から名指しで呼び出しかかってさ、これからそこに行く途中なんだよ。その寄り道、なんで、こんな所に俺ら(FBI)の車があるのかなーて思ってたら、丘の上にいるお前たち見かけて…。」
丘の向こうの町並みを、親指で指しながらポールは笑った。
「ハルミネン議員から呼び出し?お前が?へェ、変な事もあるもんだな。」
とカレルの後に続いたサーラーにどうもとポールが頭を下げた時、ポールの目がその隣で、自分に向かって遠慮がちに目を伏せる者を捉えた。
「え・・・・?」
見覚えのある赤毛に、しばしポールは固まる。
頭を下げていたその者も、ポールが何も言わない事に怪訝に思い、顔をはっとあげた。
その途端に鉢合わせしたのはメアリー刑事とポール。
向かいにいる互いの存在に気付いた時―、2人は同時に口を開き、叫んだ。
「「ああああああああアンタはあああ―っ!?」」
***
「・・・・何やってんだ、あいつら。」
丘の下に止めていた車の周りを巡って、
「黙ってろ、この蛆虫野郎!てめえなんぞぶっ殺したるわ!」
「うわああああ!なんだこのポリアカのフックスみたいな奴は!」
と掴みあう男女を上から眺める椴。顔をあげその喧噪を遠目に聞きながら、
「そうだな。俺たちもそろそろ日常に戻らないといけないんだ。」
と向こうから見える見慣れぬ町並みを、背筋をのばし見ながら呟いた。生きている内はいつまでも丘の上にいる訳にもいかないのだ、と寂しそうに語る。
「なあ、ミナ。もし良かったらこのまま車で送って・・・」
と右手にいるミナに手をかけた時彼女の胸のアイフォンが震えた。
「え?」
ミナが慌ててそれにかけた瞬間に、聞こえたのは泣き声のような男の声だ。
「はあぁぁにぃいいいいい!」
「ダ、ダニエルさん!?」
「彼氏かよ!」
通話口から聞こえる声に椴は眉を顰め、ミナもそれを見て嫌そうにそこから離れて両手で携帯を持つ。
「ちょっとそんな大きな声出さないで!今墓参り終わったばっかりで―
「ほんっと!僕はね!いてもたってもいられなかったんだよ!何回かけても通じ無いし、本当にもうっどうしようもなくって!」
ミナの諌めにダニエルは全く応じない。焦るあまりに言葉が溢れるように出てしまっているようだ。その様子が、後ろにいる椴にもダダ漏れである。
「だってさ!やっと退院して君に会えると思ってたら、いきなりアーサー様と君が人前で抱きしめ合ったという話を聞いたんだよ!?その時どれだけ僕がショックだったか分かるか!?おまけにアーサー様が君に恋人宣言したとかで回りは大騒ぎだし、僕は、一体どうしたらいいかってどうにもこうにもならなくなって…もう……!」
ダニエルの動揺様にオロオロと首を振るミナを見ながら、椴は今にも大爆笑しそうな口を必死になって抑え、震えていた。
確かに、病み上がりの身体で、自分の上司と、仕事仲間もある彼女が実は恋人だったなんて話を聞かされた時の彼の心地は如何ばかりのものであったか。
その取り残されたダニエルの惨めな気持ちを、ミナよりもか椴の方が十二分に理解した。
「もしかしたらこの騒動で一番つらい思いをしたのは彼なのかもしれないなあ・・・。」
と、しゃっくり声をあげて笑いながら椴は彼に同情する。
「仕方ない。同じ男としてのよしみだ。今日は潔く引いてやるよ、ダニエル君。」
と、恋敵に手向けの言葉を、ミナの背中に向かって小さく投げかける。
それに気付かず、電話の彼を宥めながら丘を駆け下りるミナを寂しそうに見守る。
「さよならミナ…また2人で語り合おう。車だけじゃなくて…色々な事―。」
そうして、椴も背を向けていった。
「こーうっさちゃん!一緒に帰ろー!」
「きゃあアッ!」
と、その代わり、と掴んだのは高珊の小さな肩である。
「いきなリやめて下さイ、ダンチェーさン!それに私ハ「コウサ」じゃありませン!「コウシャン」、でス!」
「俺の名前もダンチェーじゃないよ。トドマツさ。」
すらりと言い返した余裕のある笑みにぐっと歯を食いしばる高珊。やがて、三つ編みを靡かせ椴の腕ごしに墓標の方を見返った。その先にいるのは、母親と話すヨーナスと、その後ろでポプラの木に寄りかかるジョージだ。
「さようなら…また高璘で会いましょうね…ヨーナスさん、ジョージさん…。」
高珊は小さく母国語で呟き、椴に促されるまま丘を下って行った。
「アーサー。お前に紹介したいヤツがいる。」
一方、墓標の前で立ったままのアーサーにウェッブが肩を叩いた。
アーサーが振り向く間に、ぐっとウェッブの隣から前へと入り込んできたのはフェルナンデスだ。ウェッブが口を開く前に、フェルナンデスはアーサーに挨拶をする。
「初めましてアーサー議員。私はウェッブとは巡査時からバディーを組んでいた間柄で、NYPD刑事局本部長を勤めるバート・フェルナンデスです。以前からお会いしたいと思って居ました。」
と見上げるフェルナンデスに、驚く様に目を見開くアーサーだったが、「そうですか。」と呟くとアーサーも挨拶をした。
「話は度々ウェッブから伺っていました。はじめまして。私はウェッブとは大学時以来からの付き合いです。アーサー・ベリャーエフと言います。改めてよろしく。」
と差し伸べられた手に応じ、ウェッブの間で2人は握手をした。そのまま、フェルナンデスは真剣な顔つきで尋ねる。
「教えてください。この事件は一体何だったというのでしょう。どうして、我々の仲間が―、アレクサンドルが殺されなくてはならなかったのか。アヴァ議員の暴走と片付けられてしまった中にある真相を、貴方の口から聞きたいのです。」
最後を強調するフェルナンデスにアーサーは納得したように頷いた。
「話し合いましょう。ゆっくりと。この事件が、アレクサンドル巡査の死が、これからのアメリカ、いや世界に何を示唆させたのか、真剣に語り合いましょう。」
「ええ、是非。」
神妙な面持ちで互いを見る2人の友に向かい、ウェッブは残念そうに呟いた。
「本当は、こんな形で、紹介したくなかったんだけどなぁ…。」
***
ヨーナスは墓標の前に置かれていたトランシーバーをゆっくりと取り出した。
あの薄情なジャーナリストから奪い返した、アレクサンドルのモトローラ・セーバー。
黒い機体がポプラの隙間から注がれる日の光によって照らされ、光る。
泣き疲れ眠った娘を抱え、アレクサンドルの妻が、横からヨーナスに呼びかけた。
「そのトランシーバー。夫が最期まで持っていた唯一のものになりますね。」
そう、それ以外はすべて焼き焦がされてしまったから―、ヨーナスは妻の仄暗い瞳から目を逸らし、ええと答えた。
「どうか…それはヨーナスさんがとっておいてもらえるかしら。」
「えっ!?」
妻の言葉にとヨーナスは驚き、顔を向けた。
「バディーだった貴方に夫の形見をとってもらえた方が、なんか良い様な気がするの。そうした方が夫もきっと嬉しいに決まってるわ。」
ふと夫の名前が刻まれた墓標を見る妻。それに続きヨーナスも墓標を見下ろし、ぐっとトランシーバーを握りしめた。
「アレクサンドルさん・・・・。」
2人並んで墓標を見つめ続ける。
お互いこのまま別れるのが名残惜しいと思って居たのだったが、しかし―。
「帰るぞ。ヨーナス。」
それを遮ったのはジョージの声だった。ポプラの木に寄りかかり腕を組んでいたジョージは八角帽子の隙間からヨーナスを睨む。
「ああ、はい…それでは奥様。またいつか。」
「ええ。また家に遊びに来てくださいね。」
2人はその現実を受け止めるように向かい会う。そして、トランシーバーを大事そうに抱え、ヨーナスはジョージの方へ駆け寄った。
並んで丘から降りようとする2人に、あっと妻が呼びかける。せめてもの手向けへと。
「そういえば近々、早速娘の誕生日パーティーがあったじゃないの。今年も来てくださいねヨーナスさん。そしてそっちの新入りさんも、ね。」
クマのある顔でにっこりと笑う弱弱しい笑顔に、ジョージは黙って八角帽子を深く被り直す事で応えた。
ヨーナスもそれにゆっくりと頷き、そして―
「さようなら…アレクサンドルさん…。」
墓標を一瞥しながらメガネを光らせ、丘を降りて行った。
「俺はああはなんねえからな。」
と、丘を降りながらジョージはヨーナスに言う。
「なんの事です。」
と問うてみるもジョージは答えない。察せと言わんばかりの睨みつた水色の瞳に、ヨーナスはああと頷いて笑った。
「ありがとうございます。」
「なんで感謝する。」
「気を遣ってくれたんですね。」
「な…?!」
顔を歪ませるジョージに、ヨーナスは初めて優位に立ったといわんばかりに口角をあげた。
「てめえ、調子乗るんじゃねえぞ!そうだ、続きだ!この前の続きだこのやろーっ!」
と突然ジョージは丘に降りた所でメガネを取り上げた。
「ちょ!何するんですか!」
眼鏡を返さんと言うばかりに掴みかかるも、それを軽くよけてジョージは森の中へ走っていく。捕まえてみろと言わんばかりにメガネをかざして笑った。
「全く、本当子どもみたい・・・あ、そっかまだ18歳だったけ。」
と髪を掻き揚げながらヨーナスはため息をつく。
「早くしろよ、ヨーナス!」
と叫ぶジョージに向かって、森を背景に、ヨーナスは一気に森へと駆けて行ったのだった。
アレクサンドルとバディーを組んでいたヨーナスも、こうして日常へと戻っていく。
今度はジョージと共に、猟犬と共に、アレクサンドルからもらったディンゴという異名を抱え、帰るべきNYへと走っていく。
その様子をウェッブ、フェルナンデスが2人の上司として見守り、やがてアーサーを含めた3人も丘を下って行ってしまった。
最後に残ったのは妻と娘。しかし彼女たちも、いつまでもここにはいられない。
涙の跡を残し、父譲りの巻き毛がゆらめいている娘を愛おしく抱き上げながら、妻は空を見上げて言った。
「これからも天国で、私たちを…そして、皆さんを見守っていてくださいね。あなた…。」
その声に応えるよう、高いバールに掲げられた星条旗が―風に、揺れた。
この半年以上続いた連載もここで終了するに至った。これ以上の事は、ジェームズ氏行方不明のために執筆する事が出来ない。
色々と不完全燃焼な部分が残る最終回となってしまったが、何せ「嘘」を書く訳にもいかないのでここで終わらせていただきたい。
近々ジェームズ氏が現れ、また私独自で取材して何か得る事があったら再び書く可能性は無きにしも非ずであろう。
その時が来たらまたお会いする事に致そう。
ここまで読んでくれた事に、最後に深く感謝する。
また貴方と引き合わせてくれた神のご加護に感謝したい。
アメリカに幸あれ イゾルデ・エリザ
〈終〉
〈あとがき〉
GGは6話で最終回とはありますが、続きます。あと1話続きます。
イゾルデさんが書いたGGはここでお仕舞になりますが、残りの1話はイゾルデさんじゃない誰かが書く、という事になるのです。
どうしてそういう事になったというのは…7話をお楽しみに。
いやああああーつっかれたぁ―――っ。
いえいえ、読者の皆様お疲れ様でした。
今回は「現代もの」の醍醐味、時事問題と社会問題を取り上げた長編となりました。元話のソースは大抵新聞・テレビからです。大統領がUAVに固執する理由にもアメリカ側のどうしようもない事情に寄りますが、そこまで突き止めると話が広がりすぎますので、あまり出しませんでした。
ちょっとそこが残念でしたけど、「殉職者の墓標が迫ってくる」という表現でそれを察していただければと思います。
その分「魔女」に関する事は全くのフィクションとして意識していたのですが…これを執筆している間にも、福岡県の方で何者かによるPC遠隔操作による誤認逮捕の話があったりしました。
やはり、事実は小説より奇なりなんだなぁと思います。
理系の友だちの話によると、「本当に天才、―大天才がいる事を前提とするなら、この世にハック出来ないものはありません。」
との事。そういう事だと割り切り「魔女」は「大天才」として、最初の設定よりかなり好き勝手にやらせてもらいました。
つーかあれだよね。この事件解決出来たのって大抵「本物の魔女」のおかげだよね。まあ、それを呼び出したのは主人公「ジョージ」だからジョージが切り札っつたら切り札だけど。
いや、それよりもかNSAが鬼畜です。しかしこれ本当にある機関ですから、実に恐ろしい話。
今回、普通にジョージ側が悪を倒す話にしてしまうと、小説としては魅せ方に限界があるので、敵であるはずの「魔女」を味方につけるという意外性を持たせてみた次第です。
ああ、今回色々と辻褄合わせるのに本当苦労致しました…。いや、もしかしたら合ってないのかもしれません。随時気付いたら書き直していきたいと…。
それにしても、ポールあれやな、ハルミネン議員に呼び出しくらったって、きっとああいう事なんだよね。知らね、私、しーらねっ(笑)
色々と駄弁失礼いたしました。
ここまで読んで下さって本当に感謝致します。ありがとうございました。
読者の皆様にありがとう。アレクサンドルにさようなら。
そしてジョージとヨーナスのこれからの活躍に、おめとでとう!
最終回7話は私情のためにまたしばらく時間がかかりそうです。それに乗じて7話はこの話から「数年後」という設定になります。
果たしてどうまとめるか。それは私自身が一番分かっていないのですが(←)、それでも少しずつ進め、確実に終わらせたいと思います。
それではここまで読んで下さって、改めてありがとうございました。
やっぱりここでもウェッブは最後まで無傷だった
根井舞榴
《登場人物紹介》
トゥルーデの魔女:
…本名不明、出身地不明であるが、服装から察するにおそらく東欧出身。年齢16歳~18歳。身長168cm。
アメリカの極秘作戦「UAV無人兵器汎用化作戦」に反対し、その脅しのためにアメリカの情報機関に嫌がらせをしてきた、独自の「正義」を持つ天才的ハッカー。またはハッカー「集団」。そして核テロリスト。
穏やかな笑みを絶やさない、少女らしからぬ妖艶さを漂わせる長身の少女。口調は淡々として冷静的ではあるが、何事かにおいて無関心な所も垣間見える。
しかし、自分を呼び出したジョージにはそれなりの興味を寄せ、彼のサポートに尽力。後に遠隔操作したF35の無線で「さようなら」と呟き、消息を絶った。
しかし彼女は「魔女」を象徴するホノグラムであり、実は存在しない可能性も有りうる。
「トゥルーデの魔女」という俗称は、対策委員のアーサーから名付けられたもの。元ネタはグリム童話の「トゥルーデおばさん」。




