第21話 魔王様、決着?
「私のフィールド・マジックには驚いていただけましたか?」
「転移系の魔法ではないようだが……一体なんだ?」
「教えるわけがないでしょう?これは私の秘蔵魔法でしてね。詳細は省きますが私たちの力が増すのですよ!!」
ホームグラウンドと言っていたな。あの炎がさらに強化されるのか。やれやれ、厄介なものだな!
「ザニール!大丈夫か!?」
「これは、ちょっと……!マズイかなァ!!」
先ほどの時点でジリ貧だったゲル状生物とザニールの戦いは、すでに見るからに劣勢に立たされていた。
アシストしたいのは山々だが……。ノウ・マンの攻撃を捌きながらだと難しい。やはりあのゲル状生物も私が相手取るべきなのではないか?
……いや、あれはザニールに相手をさせるべきだ。酷な判断だと私も思う。しかしできる限りザニールの意思を尊重したい。
「篝火!」
ノウ・マンに向けて魔法を放つ。
ノウ・マンは避けようともせず、篝火は直撃する。しかし傷1つつくことはなかった。
「……どうやら力が増すというのはハッタリではないらしいな。」
「なんですか?今のは。蚊が止まったかと思いましたよ。」
これはマズイ。中位魔法とは言え篝火も強力な魔法だ。クリスタルソードにかけたバフで失った魔力は大体25%ほど。篝火以上の魔法を連発していてはすぐに魔力が枯渇してしまう。攻撃魔法に関しては自然回復にもあまり期待するものではないし……。
「どうにかして短期決戦に持ち込むしかないか……。」
となると時流制御しかないか。
あれも魔力消費は大きいが、幸い剣にはバフが乗っている。上位魔法を連発するより安く済むだろう。
……もし斬ったそばから生えてきたらどうする?一例として、ギリシャ神話に登場するヒュドラという怪物は、首を斬ってもまたそこから新しい首が2つ生えてきたという。
力が増しているという今のやつならあり得ない話ではない。
「……一定ターン炎属性の攻撃を付与。」
焼き斬ったところで意味があるかはわからないが、とりあえず神話上のヒュドラと同じような対策を取らせてもらおう。
「おやおや、何をしても無駄だと言うのに。悪あがきご苦労様ですねェ。」
「超位固有魔法、時流制御。」
とりあえず、私が加速するか。
ノウ・マンの後ろへと回り込む。
「それはさっき見ました。別の芸当はないんですかぁ?」
目で追って振り向いてきた。
ふむ。やはり無理か。身体能力も相当上がっているらしい。
一度見たものに対応できるとは、いい才能を持っている。
ならば対象を変える。
ノウ・マンを減速する。
「なっ!?う……ご……か……な……!な……に……を……!」
「お前を遅くした。そのままそこで倒れておけ!」
クリスタルソードで両腕、両脚を根本から切り落とす。血が吹き出るのも気にせず、ノウ・マンを背中から蹴り倒す。
腕と脚が再生するそぶりはない。
時流制御を解除し、隣に座り込む。
「お前はそこで見ておけばいい。私の弟子がアレを倒すのを。」
「今に見ていなさい……!これではすみませんよ……!!」
あの出血量で気絶すらしないあたりさすが魔王といったところか。
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あのデカブツに、親父とお袋は殺されたんだ。一番最初に思ったのはそれだった。次の瞬間には勝てるかどうか考えて。その次には、ダリヤとの稽古を思い出して突っ込んでいた。
……怖くなかったと言えば嘘になる。アレを見た時、全身が震えたのはきっと気のせいじゃない。今も、気を抜けば親父たちと同じ末路を辿ると思う。
何度ダリヤの手を借りようと思ったか、もう自分でもわからない。俺が声を上げれば、ダリヤはきっと手を貸してくれる。一連の稽古を経て、そう思えるくらいにはあの魔王を信じることができた。
でもそれじゃダメだ。俺はアレを殺すために、稽古をつけてもらったんだから。
チラリ、とダリヤの方を見る。あちらはどうやらもう終わったらしい。変な服を着たやつが四肢を失って倒れ伏している。ダリヤは腕を組んで動かない。自分で助けに来る気はないらしい。冷酷と見るべきか、信頼してくれているとみるべきか……。ダリヤのことだ、後者なのだろう。
「なら、その期待に応えねえとな……!」
おさらいをしよう。
まず場所。途中で景色が変わったと思ったら、コイツの攻撃の苛烈さが増した。強化する役割があるんだろう。
次にこちらの攻撃。俺が使ってるのはいつもの剣二振り。斬る斬らないの話ではなく、そもそも通らない。
そしてあちらの攻撃。腕を払うだけで地面を抉るほどの力があり、さらに身体から伸びた触手に絡め取られるとアウト。
戦況は限りなく悪い。それに俺は体が大きいため、攻撃自体は避けれても、地面を抉った時の破片で全身傷だらけだ。腕が多くなければ、下半身が蛇でなければ、当たらなかったものも……って!何を考えてるんだ、俺は!
「ク……ッソォ!!ハァ、ハァ、キリが、ねえな。魔法が使えりゃ少しは違ったのかねえ。」
触手を弾きながらぼやく。腕を振り上げているのが見えた。……休む暇は与えてくれないらしい。
勢いよく振り下ろされる腕。もう避ける体力はない。剣を交差させ、受け止めようとする。
「ア、ゥ、ガアアアアアアアアアア!!!」
腕が悲鳴を上げている。咄嗟に上と下の腕も全て使う。まだ足りない!尻尾を全力で振り上げ、やっとの事で逸らすことに成功した。
剣が両方とも折れることを犠牲に。
「あ……?う、そ……。」
一瞬の絶望による隙をつかれ、逆の腕を振り上げる。これは……ダメじゃないか?
いろんなことが頭によぎる。親父とお袋のこと、村のこと、自分の体で迷惑をかけたこと、そして……。
ゆっくりと流れる無色の景色の中で、俺は自分の死を覚悟した。やっぱりダリヤを頼ってみればよかったんだ。俺1人でこんなやつ倒せるわけがなかったんだ。俺なんかじゃ、無理だったんだ……。
「ザニール!これを使え!」
今までよく見た剣が飛んでくる。あれはダリヤの……?これを、使え?
途端に景色が弾ける。気づけば体が動き出していた。このままじゃ頭に剣が刺さってお陀仏だ。だからといって待っていては押しつぶされる。ならばどうすればいいか。
簡単だ、剣が来る方向へ、少しずれて斜めに向かえばいい。要は剣に当たらず、その場から動けばいいのだから。
剣の柄を掴み、叫ぶ。
「助かるぜ!ダリヤ!」
「あまり無理はするなよ!何かあれば必ず助ける!」
やはりダリヤは信頼してくれていた。俺「なんか」ではない、俺だから、信頼してくれていた。
「オオオオオォォォォ!!ぶった、斬る!!」
間の2本の腕で剣を握る。他の4本はお休みだ。
心を込めて。
両親の復讐のために。
仇を取るために。
……供養するために。
今なら腕を振り下ろした直後で反撃を食らう心配もない。
横一文字に剣を薙ぐ。うまくいけば腕くらいは斬れるだろうと。
弾かれる感触はなかった。その代わり、斬った感触も感じなかった。
「ゴポッ……ゴボボッ……。」
それでも確かに、俺はヤツを斬ったのだ。
きっと剣に何かしら細工をしていたのだろう。これを俺の力だとは思わない。
だって、俺たちより数倍もでかいヤツが、上半分と下半分で真っ二つになっていたから。
でも、何はともあれ。
「終わり、でいいのかねえ。親父、お袋……。」
ヤツはもう動かない。それどころか、形を保つことさえできていない。どんどん溶け出し、地面に染み込んでいく。
「仇は、取れたかな……。」
俺は体が痛むのも気にせず、空は見えないけど上だけを見ていた。親父とお袋が、たった今天に昇った気がして。
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「ダリヤ!」
「全く……驚いたぞ。どこにそんな力を隠し持っていたというのだ。」
私はザニールとデカブツの戦いを横で見ていただけだった。勿論、請われれば元々手助けはするつもりだった。剣が折れた時には冷や冷やしたぞ……。咄嗟にクリスタルソードを投げることができたから事なきを得たが。
クリスタルソードにはノウ・マンとの戦いでバフをかけていた。それが役に立てばと思ったが……。結果はそれ以上だったな。私は斬撃を飛ばすような魔法はかけていない。つまり、最後の一撃はザニール自身の能力によるものだ。しかもこの様子だと自覚はしていないようだ。
「力?俺は何もしてねえよ!そうだ、これ、ありがとな。返すよ。」
「ん?いや、それは……。」
「なんですか……!なんだというのですか……!私の!最高傑作を!」
ノウ・マンが咆哮に近い叫びをあげる。
まずい!デカブツがやられたことで狂乱状態になったか!
「あなた方は許せません!今ここで!死になさい!」
胴体が宙に浮き、切り落とした四肢がくっつく。しまったな。油断した。
「まずは貴女からです!蛇女!死ぬがいい!!地獄の氷天火!!」
馬鹿げた名前だがあれはまずい。正直私でも無事でいられるかわからない。しかし……。
「くっ……!ザニールッ!!」
ザニールを押しのけ、数えきれない氷塊と火炎弾を受ける。おまけに射線上のみだろう、経験したこともないような寒さが私を襲う。
「ぐ、ぅあああああああああ!!!」
結界を描けなかった!痛い!熱い!寒い!なんという三重苦か!
顔を守る腕が凍てつき始める。氷塊で砕かれ、火炎弾で溶かされる。私の腕はみるみるうちにボロボロになっていった。
「死ね!死ね!死ねぇ!」
ノウ・マンの魔力が尽きるが先か、私が倒れるのが先か。そういう勝負に持ち込まれかけたその時。
「ダメエエエエエエエエエエエ!!!」
シェリルの声が響いた。やめろ!今の私では矛先がシェリルに向いた時守りきれない!それを伝えることはできなかった。口はもう開かないし、念話のことは頭から消えていた。
しかし、その考えは杞憂だったようだ。相も変わらずノウ・マンは私を攻撃し続けている。いや、標的がザニールから私に変わっていることにすら気付けていないだろう。
そして変わったことが1つ。まるで私の周りに壁が貼られたように、何も飛んでこなくなった。氷塊や火炎弾はおろか、あれほど低かった気温も、まるで最初からなかったのようだ。心なしか体の痛みも引いているような気がする。断じて私は何もしていない。
シェリルが叫んだ時からだ。これはまさか……。いや、今考えるのはよそう。
今はそんなことよりノウ・マンをどうにかしなければならない。壁のおかげで思考も元に戻ってきた。
何ならば届く?動いてみるが、壁は全てを遮る代わりに動かせないようだ。ノウ・マンは比較的高い位置にいるため、隆起する大地ではダメだ。その他の魔法では氷炎の弾幕をかいくぐれない。私が動けないから魔力全開放も意味がない。……私ではどうしようもないか。
ならば仲間を頼るとしよう。
『ザニール、聞こえているか?』
「うわっ!何だよ!え?ダリヤ?」
『そうだ、私だ。口を動かすことができないから直接話しかけている。何も聞かずに今から私が言うことを実行してほしい。』
「……わかった、何をすればいい。」
『簡単……ではないな。さっきデカブツを斬ったように、あいつは縦に斬ってくれ。お前の力ならその位置からでも確実に届く。』
「ハァ!?あれは剣のおかげだろ?俺は何もしてねえよ!」
『いいや、違う。確かにその剣は色々と強化を施したが、広範囲が斬れるような能力はつけていない。あれはお前の実力だ。』
「そ、そうなのか……?なんか信じらんねぇ……。」
『急かすようで悪いが早めに頼む。壁がいつまで保つかわからない。』
「壁?何言ってんのかわかんねえけど、やることはわかった!俺は本当にできんだな!?」
『私が保証する!ぶった斬れ!』
信じているぞ、ザニール。
「あああああああああ!!!!」
クリスタルソードを振り上げ、振り下ろす。文字にすると簡単な動作だ。その簡単な動作で、ノウ・マンは真っ二つになった。
主人とその創作物揃って真っ二つとは。自業自得だと思ってほしい。
だが、これで終わることはないだろう。四肢を斬り落とした時点で出血多量やショックで死んでもおかしくはなかったのだ。それどころか血色よくピンピンしていたため、もしかするとこの空間限定で不死身なのかもしれない。私1人では手も足も出なかったかもしれんな。やはり仲間は偉大だ。
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