第20話 魔王様、タッグバトル。
「シェリル!用意はいいか?私のそばから決して離れるな。」
「はい!……守ってくださいね?」
「任せろ。それと、リースを起こす。手伝ってくれ。」
魔王が来た。ザニールは復讐に燃えていて、私はそいつに用がある。しかし、だからと言ってシェリルとリースを置いていくのは、何があるかわからない以上できない。
遠くにいるよりは近くにいてくれた方が守ることができる。
「リース!起きろ!おい!リース!どれだけ疲れているのだ…。」
「リース!起きて!このままじゃ危ないよ!」
「もーむりだよ〜、はいらない〜。……zzz。」
ええい!起きないならば仕方がない!おぶって行くしかあるまいよ!このままではザニールのアシストがしづらいな……。早めに目を覚ましてくれればよいのだが。
「ザニール!すまない、待たせた!」
「構わね……リース起きなかったのか……。」
「仕方がない!それで、方向に心当たりはあるのか?」
先ほど聞こえた声は全方位から発せられていたように聞こえた。声の方向というものがなかったため、私には場所の判断ができていなかった。
「絶対じゃねえが、あっちからだと思う。」
ザニールが指を指す方向は、ここに来て初日に案内された場所があった方向だった。
「ふむ、それはなぜだ?」
「前回、あっちから来たんだ。違うかもしれないけど、多分同じようにあったからくると思う。」
マズいな……。ザニールの家は元々村から程遠い場所にある。その上で村側から攻められるのは、私たちにとって都合が悪い。なんせ一番遠いのだ。魔王を見つける頃には時すでに遅し、ということにもなりかねない。
「間に合うか?」
「間に合うかどうかは関係ねえ!俺が!ヤツ!殺す!」
「村人はどうするつもりだ?」
「……知らねえよ。あんな奴らのことなんてどうでもいい。」
ザニールと村人たちの間に何かがあるのはわかっていた。しかし、どうでもいいとまで言うほどなのか。やはり外見なのだろうか?ヒトは自分と違うもの、異なるものを激しく嫌う傾向にある。それ故に排斥されたというのはどの世界でもよくある話だ。
差別など最たる例だろう。私にとっては些細なことだがな。自分と違うことは積極的に受け入れて行くべきだろうに。
「こっちから行った方がいい。一応、お前ら隠れてうちにいるんだから、バレたらどうなるかわかんねえ。」
「どういうルートだ?」
「村を迂回する。他より深い森になってるから、バレにくいと思う。その分遠回りになるけどな。」
魔王に一番会いたいのはザニールだろうに、私たちのために冷静に考えてくれているのだな。
ここはザニールについて行こう。この辺りの地理は私たちではわからない。
「ザニールがそれでいいならそれで頼む。」
「ああ!」
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うっそうとした森の中を、リースを負ぶった私、シェリル、ザニールが駆け抜ける。シェリルがついてこれるかわからなかったが、杞憂だったようだ。よくよく考えれば体力が必要な環境にいたのだから当たり前だろう。
というかリースには早いところ起きてもらいたい。
「馬車が揺れてるわ~。……zzz」
揺れているのは私の背中にいるからだ。どこまでもマイペースなお姫様だな。
「ここから先は今までより木の根が張り出してくる。気を付けろよ。」
「私は問題ない。シェリルはどうだ?」
「ハァ、ハァ……。まだ、行けます。」
「無理はよくないぞ。」
とはいえ休む選択肢はなく、これ以上私が担ぐスペースはない。シェリルには頑張ってもらうしかないか……?
「ザニール、何か案はないか?シェリルがそろそろ潰れそうだ。」
「なら俺に乗るか?どうせ蛇だし。」
「大丈夫なのか?」
「俺がいいって言ってるから大丈夫だ!」
「じゃ、じゃあ、失礼します。」
相当揺れそうではあるが、自分で走るより随分楽になるだろう。
それからしばらく、会話もなく先へ進む。ザニールにも思うところはあるのだろう。
「ぅむぅ……。なにが起こってるの……?」
「おお、起きたか、リース。あまりしゃべるなよ、舌を噛むぞ。」
気づけば結構な速度が出ている。このまましゃべり続ければ舌を噛む可能性は大いにある。
ここまでくればもう最後までおぶっていくつもりだ。
「ザニール、あとどれくらいだ?」
「もうすぐだ。……この木で最後……!」
森を抜けた先には驚愕の光景が広がっていた。
巨大な半透明なゲル状の、生物とはいいがたいナニカ。2足歩行ではあるものの、その姿勢は前傾であり、時折その長い腕を地面につけ、ゆっくりと歩いている。体から触手のような管が伸び、触れた生命を体内に吸い込んでいるように見える。その証拠に、体の中に多量の樹木が見えた。
見れば、木が引っこ抜かれているような跡がある。魔王がやってきたのになぜ何かがあったように見えなかったのか、理由がわかった。ただ単に村まで来ていなかっただけだ。最初の襲来の時はきっと村を守るために村の者が出張ったのだろう。その時にザニールの親も……。なるほど、事情がつかめた。
「ザニール、あれか?」
「ああ、あれだ。」
しかし魔王というほどに強くなさそうだな……。むしろ何かに操られているような感じがする。
「気持ち悪いですね……。」
「気持ち悪いわね!」
「気持ち悪いだろう?」
「うむ、あれは気持ちが悪い。」
私たちは精神衛生上よくないものを見せられているのではないだろうか?
巨大なうねうねとした意味の分からないモノなど、想像したくもない。
スライム?スライムはあれほど大きくないし手足も生えていない。触手だって生えていない。あんなものより愛らしいだろう。
「我が魔王を侮辱する気か!恥を知れ。」
その時、はるか上空から声が聞こえた。この状況で上から。ならば答えは一つだ。
「これなるは我が魔王様であらせられるぞ!」
ゲル状の何かの頭の上にそいつは立っていた。
白いシルクハットに白いタキシード。片眼鏡をかけており、杖を持っている。印象は胡散臭い紳士、と言ったところか。
「名前はないのか?」
「私ごときが魔王様の名を呼ぶなど笑止千万!もちろん、貴様らにも呼ばせるつもりはない!」
ふむ……。どう戦うべきか……。あれほどまでい大きな敵と戦ったことはない。むしろ私が戦ったことがあるのは勇者と魔王二人くらいのものであるのだが……。
「あのデカブツは俺にやらせろ。」
「大丈夫か?」
「何のために稽古してきたと思ってる。……あいつを、殺すためだ。私の手で。」
そこまで言うならば尊重しよう。私も最大限魔法でアシストすれば、一刀両断くらいはしてのけるだろう。それができるくらいにはザニールを鍛え上げたつもりだ。
「行くぞオラァ!」
「魔王を見て突っ込んできますか!勇猛果敢と言うべきかただのアホと言うべきか!私が近づけさせるわけないでしょう!」
あちらも戦法としては同じ、メインアタッカーをアシストするタイプか。ならば私がやることはただ一つだな。
「二人とも、ここを離れるな。」
結界のために魔方陣を描く。一つ、二つ、三つ、四つ、五つ、六つ、七つ、八つ。直方体なら流れ弾程度の魔法で壊れることはないだろう。二人が標的にされた場合はその時で考える。
二人がうなずき、私もザニールの後に続く。私の標的は魔王ではない。
「魔力開放。」
地を蹴り、上へ飛ぶ。身体能力を上昇させればザニールを追抜いたうえで、この程度の図体なら飛び越えられる。
「サポーター同士、語り合おうではないか?白いの。」
「あなた人間じゃないですね!?ああもう、面倒くさい!」
白いのの襟をつかみ、魔王から引き離す。そのまま重力に任せて落下するが、やはりこの程度では沈んでくれないらしい。
「何者ですか、あなたは。」
「ふむ。何者、か。強いて言うなら……そうだな。しがない旅人だ。」
タッグ戦か。元の世界でもこの世界でもしたことはなかったな。いい経験になりそうだ。
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魔力解放を解除し、距離を取る。
「まずは名を聞こうか?白いの。それとも私が先に名乗ろうか?」
「フフフ……。私はノウ・マン。あなたは?」
「私はダリヤ・トートだ。お前があの魔王をサポートするなら、私は全力で邪魔をしよう。」
ノウ・マン……。無き男?名無し、か?いや、脳男とかけてつけられた名前か?
どうでもよいか……。
「あなた、この世界の人間じゃありませんね?」
「さて、どうだかな。そっちこそこの世界の者ではないのではないか?」
この世界にタキシードというものがあるかわからない。あるのかもしれないが、今まで見てきた、聞いてきた文化水準から言って、とてもあるとは思えない。であればこの男も異なる世界から来たのだろう。ならば……。
互いに睨み合いが続く。相手が動く様子はない。
折れたのはノウ・マンの方だった。
「……おっしゃる通りです。私は別の世界から飛ばされてきた者でございます。以後、よしなに。」
「であれば謎は解けたよ。自白、感謝する。魔王様?」
「しまっ!?」
この世界に呼ばれたのは魔王のみである。それ以外の存在はいないはずだ。であれば目の前の男こそが魔王だとあたりをつけられる。
あのゲル状のナニカが操られているように見えたのも、そういうことなのだろう。大方ノウ・マンが自ら作成したものか。
「この程度のカマかけに引っかかるとは。お粗末な頭をしている。」
「このっ……!!ぶっ殺す!!私を侮辱しやがって!!貴様は!!私が!!自らの手で!!殺してやる!!」
「それがお前の本性か。できるものならやってみろ。」
ふと横目でザニールを見る。苦戦はしていないようだが、だからといって善戦しているわけでもない。怒り狂ったように剣を振り回しているかに見えて、私の教えに忠実に振るっている。
だがいかんせんサイズが違う。あのままではジリ貧だな。それにあの体は衝撃を吸収するようだ。
「どこを見ている!死ねェ!!」
ノウ・マンがすぐ近くまでやってきていた。
「大声で教えてくれるとは。どこまでも優しいのだなあ、お前は。」
殺したいなら気配を消して近づいて心臓に剣を突き立てるだけでいいのだ。まあこれは対人間の話だが。
「地獄火!!」
杖の先に熱気が集まり始める。これはマズイ!当たったら焼け死ぬな!
素早く体を左に倒し、出てきた熱線を避ける。しかし完全には避けきれず、右腕の肘から先が焼け爛れる。
「地獄火ァ!!!」
回復をかける隙もなく続けざまに2発目が放たれる。
この至近距離では避け続けるのは愚策か!いつかまともに食らってしまう!
「時流制御!加速する!」
一気に距離を取り、熱線を避ける。
「仕留め損ねましたか!!生き汚いやつですねェ!」
しかしこのタイミングで時流制御を見せたのはマズイ。私にそのような能力があるとバレてしまった。
右腕に回復をかけ、クリスタルソードを抜く。
どれだけバフをかければあのレベルの魔法をぶった斬れるやら。
「とりあえず斬撃強化を限界までかけるか……。それと属性耐性を、と。」
「あなたァ、さっきの私の魔法、避けることしかしませんでしたねェ?対抗する手段がないんですかァ!?地獄火ァ!!!!」
試し斬りといこう。失敗してもなんとかなるだろう。
果たして魔法は斬れるのか、否か!
「はぁ!」
正眼の構えから真上に振り上げ、そのまま振り下ろす。わずかな抵抗はあったものの、熱線は切っ先から2つに分かれ、背後の木を消し炭に変えていく。
熱線の目の前にいるのに熱くないところを見ると、熱線自体は高温だが熱伝導はしないようだ。魔法ゆえか。
「忌々しい、魔法を斬りますか!勇者のようなことを……。」
「ほう、そちらの世界の勇者は魔法すら切断できるのか!ともすれば私の世界の勇者より強いかもしれんなぁ!」
言うが早いかノウ・マンとの距離を詰める。魔法を斬れることはわかった。であれば今度はこちらの番だ。
剣を右下から振り上げる。避けられる。
反動そのままに横一文字に左から斬りつける。かわされる。
剣を引き戻し喉元を突く。杖で止められる。
「なかなかやるではないか。」
「このウジ虫がァ……!私に刃向かうんじゃねえ!!真空波!!」
「その技は少し前に似たものを見た。真新しさはないし、それに……。」
横に放たれた真空波に対し、十字になるように剣を振る。そうすると真空波は消滅した。
「魔法は斬れる。地獄火より強い魔法を使ったらどうだ?ああ、それとも……。」
剣の切っ先をノウ・マンに向ける。まるで殺害予告のように。
「初手で最高火力をぶっ放してきたのか?」
ノウ・マンが動揺したように見える。
「私を……舐めるなァ!!!フィールド・マジック!!貴様を処刑場へと案内してやるよォ!!」
景色が歪む。私、シェリル、リース、ザニール、それにノウ・マンとゲル状生物。全てが包まれる。転移魔法か!?いや、フィールド・マジックと言っていた。ならば結界のようなものかもしれない。
気づけば神殿の内部のような場所にいた。石造りの大部屋だ。
「少々取り乱しました。ここは私のホームグラウンド……。ここであなた方全員殺して差し上げます。」
厄介な……。まあどのみち結果は変わらん。
……それに、シェリルとリースにも手を出そうとしていることがわかった。ならば魔力を使い果たす覚悟でいこう。無益な殺生はしない主義ではあるが……。こいつが生きていてもとくに益はない以上、殺しても構わんだろう。
私はクリスタルソードを強く握りなおした。
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