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Vtuberをしていたら、美形生徒会長が僕のガチ恋ファンだった  作者: 七瀬おむ
第2章 リアルで仲良くなるなんて聞いてない!

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7/12

2-4

 *** 


 白鷺くんの「布教」が始まってから、もうすぐ一週間が経とうとしていた。


 結局僕は、彼を拒むことができなかった。それどころか、気づけば登校が楽しみになっている。


 学校にいる時間はあれだけ長く感じられたのに、彼といると、あっという間に過ぎていくんだ。


「鵜月くん、昨日の配信見た?」


 今日も白鷺くんは、僕を昼食に誘ってくれた。

 もちろんスマホを片手に持っているけど、その目は画面ではなく、僕のほうを向いている。


「たしか、雑談配信だったよね」


 僕は頬を掻きながら、ぽつりと答える。


 雑談配信――話すのが苦手な僕にとって、ゲームの力を借りずにトークするのは勇気がいる。


 何度もやって、ようやくコメントを拾ってトークができるようになったけど、まだまだ緊張が解けない。


 ――正直、白鷺くんの感想も気になる……!


 ミシロさんからのコメントでは「楽しかった」って言ってくれたけど、実際はどうだったんだろう。

 期待と不安を抱えながら、白鷺くんをちらりと見た。


 彼はぱっと表情を明るくして、身を乗り出してくる。


「俺、ルイくんの雑談配信すっごい好きで。最初はゲーム実況がほとんどだったけど、最近は日常のことも語ってくれるようになったよね?」

「う、うん。そうだね……」

「やっぱり、ルイくんをより身近に感じられるのがいいよね……。それに、雑談も面白いし!」


 白鷺くんは恍惚とした表情で、口元を綻ばせる。

 妙に熱の籠った言い方が気になるところだけど、楽しんでくれたのは本当みたいだ。


 それに、僕のこと『面白い』って……!


 コメントはもちろん嬉しい。でもこうやって直接言われるのは、また違った破壊力を持っていた。


 表情を変えないようにしていたのに、だんだんと頬が緩んでしまう。


「雑談配信、僕も、好きだな」


 心の中の弾みが、そのまま言葉になって滲んだ。

 その瞬間、白鷺くんは大きく目を見開き、息をのんだ。彼は咄嗟に口元を手で塞ぎ、目を逸らす。


「……白鷺くん?」


 彼の耳は、なぜかほんのりと赤く染まっていた。


「……鵜月くんの笑った顔、初めて見た」

「えっ……!?」

「あの、なんていうか…………すごく、いいと思う……」


 白鷺くんは目を泳がせながら、たどたどしく呟いた。

 壇上で自信に満ち溢れていた彼とは違う、少しだけ動揺したような表情で。


 ――僕、今までそんなに無表情だった!?


 たしかに家族以外の前で笑ったのは、初めてかもしれない。

 今までは、そもそも人と喋る機会が少なくて……表情筋は凝り固まって、うまく笑うことができなかったんだ。


 恥ずかしくなって、目を伏せる。白鷺くんのスマホのロック画面には、『旭 ルイ』が弾けるように笑っていた。


 きっと今の僕とは、似ても似つかない笑顔だろう。

 だけどルイをやっていたおかげで、リアルでも自然と笑顔を見せられるようになったのかもしれない。


「鵜月くん、あのさ」


 しばらく黙り込んでいると、白鷺くんがおもむろに口を開いた。

 顔を上げると、彼はわずかに頬の赤らみを残しながら、僕をじっと見つめていた。


「あ、あの……」


 しかしいくら待っても、白鷺くんから次の言葉は出てこない。


 ――ど、どうしたんだろう……!?


 その視線から逃げられなくて、頬に熱が集まってくる。

 たまらず目を逸らして、スマホで時計を確認するふりをした。


「そ、そろそろ教室に戻らないとだよねっ」


 急いでお弁当箱を片付けて、腰を上げる。けれど白鷺くんは、なかなか立ち上がろうとしなかった。


「今日で『布教』期間……終わっちゃうね」


 白鷺くんは目を伏せ、ぽつりと呟いた。その表情は、どこか寂しげにも見える。


「あ……。そう、だね」

「鵜月くん、ルイくんに結構ハマってくれたよね?」

「え、それは……」


 なんて答えればいいのかわからず、口ごもってしまう。


 ――そうだ。白鷺くんは、ルイを布教するために、僕と話をしてくれているんだった。


 最初は戸惑っていただけだったのに、胸の奥が空っぽになっていくような感覚に襲われる。


 僕への「布教」が終わったら、次はどうするんだろう。そもそも「布教」なんだから、僕だけじゃなくて、他の人にも広めようとしているのかもしれない。


 ――それじゃあ白鷺くんとゆっくり話せるのは、これが最後?


 僕は胸のあたりを押さえながら、小さく問いかけた。


「白鷺くん、次は他の人に『布教』するの?」


 僕の質問が意外だったのか――彼は瞠目し、瞳を揺らした。

 一度息を吐き、どこか諦めたような様子で答える。


「……しないよ。本当に好きなものを伝えても、いいことってないから」

「え……?」

「ううん、なんでもない。そろそろ教室に戻ろうか」


 白鷺くんは繕ったように笑って、立ち上がった。


 ――今、様子が変だったような……?


 僕は疑問に思いながらも、それ以上聞くことはできなかった。


 

 授業が終わり、掃除の時間になっても、僕は白鷺くんとの会話ばかりを反芻していた。


 渡り廊下をモップで拭きながら、小さくため息を吐く。


「楽しかったな……」


 配信を一緒に見るのも、普段の彼からは想像がつかないような熱弁を聞くことも。

 でもその日々も、今日で最後だ。


「やっぱり『旭 ルイ』は僕に合わなかった」と言って、ただの隣席のクラスメートに戻らないと。


 ルイの中の人が僕だと知られないためにも、明日からは関わらないほうがいい。

 それはわかっているのに……


「……あ」


 階段を一段ずつ拭き終え、教室前の廊下へ出る。目線の先には、掃除をしながらクラスメートと談笑する白鷺くんの姿があった。


 彼の笑顔を見ていると、なぜか胸が締めつけられる。


 ――これからもほんの少しでいいから、話ができないだろうか。


 そんな不相応な願望が湧き上がってしまう。


 ――駄目だ。変なことを考えるな。


 僕は急いで視線を逸らし、踵を返した――そのときだった。


「鵜月くん」


 呼び止められて顔を上げると、同じ掃除班の女子が立っていた。

 彼女は制服のポケットから、ごそごそとなにかを取り出す。掃除の用事かと思ったが、どうやら違うらしい。


「これ、鵜月くんに渡してって頼まれたんだー。はい、あげる」


 手渡されたのは、二つ折りにされたメモだった。僕は戸惑いながらも、ゆっくりと開く。


『放課後、化学実験室に来て!』


 用件だけで、名前すら書いていない。小さく丸っこい字だった。


「これ、誰から……?」

「秘密にしてって頼まれてるから。そういうことで、よろしくー」

「えっ!? あ、あの……」


 彼女はひらひらと手を振って、階段を降りていってしまった。

 あっけなく取り残されてしまい、その場で立ち尽くす。


 ――そもそも僕に、なんの用が?


 白鷺くん以外に学校で話す人もいないし、思い当たる節もない。

 ただ一つわかるのは、僕にとって良い内容じゃないということだ。こうやって人伝いで渡してきて、名前を明かさないくらいなんだから。


「なんなんだろう……」


 ずしんと心が重たくなって、息が苦しくなる。


 僕はメモを制服のポケットにしまって、胸のあたりをぎゅっと押さえた。


 

 ――行きたくない。


 いくらそう思っていても、あっという間にその時はきてしまう。


 放課後を告げるチャイムが鳴る。クラスメートは席を立ち、ぞろぞろと教室から出ていった。


 一体、誰が僕を呼び出したんだろう。なにを言われるんだろう。


 不安が頭の中を支配して、なかなか立ち上がる気になれなかった。


 ――でも、早く行かないと。


 これのせいで、配信が遅れてしまったら最悪だ。


「……よし」


 なんとか自分を鼓舞して、鞄を肩にかける。急ぎ足で教室を出ようとしたとき、背後から声をかけられた。


「鵜月くん」


 振り向くと、白鷺くんが不思議そうに僕を見ていた。


「……白鷺くん?」


 僕が小首を傾げると、彼は慌てたように答えた。


「呼び止めちゃってごめん。……急いでる?」

「す、少しだけ……」

「……そっか。じゃあ、また明日ね」


 彼は少しだけ躊躇うように間を置いてから、何事もなかったかのように手を振った。


 もしかして、配信のことで話し足りないことがあったんだろうか。


 こんな呼び出しさえなければ、もっと教室にいたかった。


 僕は少し悔しさを感じながら、白鷺くんにぎこちなく手を振って、化学実験室へと向かった。


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