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ミシロさんと初めて出会ったのは、僕の初配信の日だった。
『【初配信】男子高校生Vtuberの旭 ルイです!』
なんとか設定を終えて、配信のタイトルを打ち込む。心臓が異様に脈打って、マウスに添えた手が震えていた。
「こんな感じでいいのかなあ……? そ、そろそろ始めないと……!!」
配信ボタンを押すと、『旭 ルイ』が僕に合わせて動く。
「初配信」というタグで見に来てくれたのだろうか――最初から、数人のリスナーさんが見に来てくれていた。
必死に作ってきたキャラクター設定に、初配信の台本。僕はそれを見ながら、自己紹介を進めていった。
『オレ、実はこうみえて現役の、高校生で! ゲームがす、好きなんで、ゲーム実況を中心にやってい、やっていこうかと思ってます!』
けれど実際に口を開いてみると、自分でも嫌になるくらい、ボロボロだった。
トークは何度も練習していたのに、頭が真っ白になって言葉が詰まる。
チャームポイントである八重歯は、一切見せることができなかった。だって画面の中の彼は……僕が緊張しているせいで、ずっと無表情で、常に目が泳いでいたから。
配信を始めて、たったの数分。
リスナーさんたちは、コメントもなく……一人、二人と消えていった。
視聴者数が減っていくたびに、心が抉られるような感覚に陥る。
外見もなにもかもを変えているのに、僕の話なんて、誰にも聞いてもらえない。
喉の奥からなにかがこみ上げて、視界が潤む。
涙声を悟られないように、必死に声を張った。だがそんな努力は虚しく――
「あ……」
ついに、リスナーさんは一人になった。
最後の一人は、一体どんな人なんだろう。コメントもなにもないから、相手の名前すらわからない。
――もしかしたら間違えてクリックしただけで、配信に入ったことすら気づいてないんじゃ……?
大きな不安に苛まれるが、もし画面の向こうで本当に聞いてくれているのなら、配信をやめるわけにはいかない。
――せめてこの人だけには、楽しんでもらいたい。
僕はそう決意して、配信をやりきることにした。
「というわけで! 今日から、よ、よろしくお願いしまーす!」
自己紹介を終えて、空元気な声が響く。しかし画面の向こうの相手からは、なんの反応もない。
当然、他のリスナーさんも増えない。
――やっぱり、僕の配信は誰も聞いていないんだ。
僕は小さく息を吐き、震える声で告げた。
「最後に、し、質問コーナーやります! な、なんでも答えるよっ……!」
自分で言っておきながら、空気がしんと冷えていくような気がした。沈黙が重くのしかかり、視界が滲む。
――僕、なにやってるんだろう。
ついに耐えきれなくなり、ぽつりと呟いた。
「……こんなの、誰も聞いてない、よね」
自嘲気味に笑って、配信を切ろうとしたとき――画面の端に、文字が流れた。
『聞いてるよ』
たった一つ、シンプルな言葉だった。
「え……?」
表示されたのは、初期の人型アイコンに、「ミシロ」という名前。間違いなく、最後まで残ってくれた人だった。
――僕の配信、聞いてくれてたんだ……
その瞬間、視界が明るく晴れたような気がした。一瞬息をするのすら忘れて、胸の奥から喉元まで、温かいものが込み上げてくる。
「あっ、ありがとう!!」
僕は急いで涙を拭いて、ミシロさんに向かって話しかける。それから数秒が経って、彼は再びコメントをくれた。
『どうしてVtuberになったの?』
そういえば、まだ活動を始めた理由を話していなかった。
「自分を変えたかったから」と言いかけて、咄嗟に口を噤む。
――そうだ。今の僕は、鵜月 渉じゃなくて、『旭 ルイ』なんだ。
僕がずっとなりたかった、明るくて前向きで、周りを元気にするような高校生……
「そりゃあ、もっとたくさんの人と話したいなって思ってさ!」
そのとき、初めて『旭 ルイ』が八重歯を見せ、輝くような笑顔を浮かべた。
もちろんこれは、僕の本心だ。けれどルイなら、こういう風に言うだろうと思った。
『応援してるよ』
ミシロさんは、それに応えるように返してくれた。
「こ、これからも頑張るから!! またよかったら、配信見に来てくれ!」
最後にお礼と挨拶をして、そっと配信を終了する。
配信終了のボタンを押して、ようやく椅子に背をあずけた。
「き、緊張した…………」
張り詰めていた糸が解けた先にあったのは、ちょっと照れくさくて、ふわふわと身体が浮いているような、不思議な感覚だった。
「……配信、これからも続けようかな」
人に見てもらえることが、こんなに嬉しいだなんて。
――ミシロさん、次の配信も来てくれるといいな。
僕は自然と頬を緩めながら、次の配信はどうしようと考えていた。
それから僕は、『旭 ルイ』として配信を続けていった。
配信のたびに一人二人と、リスナーさんが増えていって。
ミシロさんは当初の落ち着いた雰囲気はどこへやら、だんだんとコメントのテンションがおかしくなっていったけど――それでも僕は、彼がいつも来てくれることが嬉しかった。
ずっと孤独だった僕が、たとえ画面越しだったとしても、唯一みんなと話せる大切な場所。
それはミシロがいなかったら、けっして生まれていなかったと思う。
――まさかミシロさんが、あの人気者の白鷺くんで、しかも「ガチ恋」だと言い出すなんて思ってもみなかったけど。
でも彼は、たしかに僕の毎日を変えてくれたんだ。




