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Vtuberをしていたら、美形生徒会長が僕のガチ恋ファンだった  作者: 七瀬おむ
第2章 リアルで仲良くなるなんて聞いてない!

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5/12

2-2

 ***


 翌日から、白鷺くんの布教が始まった。


「鵜月くん、一緒にお昼食べない?」


 清々しい空気を身に纏い、爽やかな声が響き渡る。白鷺くんは購買のパンを持って、満面の笑みを浮かべていた。


「昨日のルイくんの配信も面白かったし、食べながら見よう!」


 ――ガチ恋勢による、一週間の本気の布教。その熱量は、僕の予想を遥かに超えていた。


 彼は僕の背中を押して、導くように教室を出る。二人で向かったのは、植木にベンチがぽつんと置いてあるだけの裏庭だ。


「ここなら、ゆっくり配信も見られるから」


 促されるまま、ベンチに腰かける。

 彼はスマホを取り出して、僕の隣に座る。画面を二人で覗き込むためか、肩が触れるほどに距離が近い。


「し、白鷺くん、あの……」

「あ、お昼食べながらでいいよ。俺が見所を説明しながら、配信流すから」


 白鷺くんは慣れた手つきで動画のシークバーを動かして、再生ボタンを押す。


『旭 ルイ』の――いや、普段とは違うハイテンションな自分の声が、その場に響き渡る。


「……っ!!」


 ――は、恥ずかしすぎる!


 こんなの公開処刑でしかない。

 ひっそりとダメージを受け、悶える僕。それとは対照的に、白鷺くんは画面に釘付けになっていた。


 一応「布教」というていは守ろうとしているのか――今度は熱を込めて話し始める。


「ルイくんってゲームはそんなに上手くないけど、どんどん成長していって、最後は必ず自分の力でクリアするところが魅力なんだ」

「へ、へえ……」

「この動画だと、特に11分33秒からの初ボス戦と、25分45秒からの裏切った仲間を助けるところが最高だったなあ。ルイくんの優しさが滲み出てて、結局あそこで仲間にしたことで、ラストの1時間8分50秒からのラスボス戦に繋がってたしね!」

「……あの。白鷺くん、もしかして秒数まで覚えてるの……?」

「もちろん! 秒数まで記録しないと、見返すときに不便でしょ?」


 ――見返す前提なんだ……


 嬉しいような、ちょっとやりすぎてるような。複雑な感情で口角がぴくりと動いた。


「……それに、さ」


 白鷺くんは急に声を潜めて、照れたようにはにかむ。


 ――なんだろう?


 つい気になって、彼の言葉に耳をすませると――


「ルイくんのどんな些細な表情でも、見逃したくないから」


 その瞬間、思わず背中が仰け反った。


 ――表情の差分は数種類しかないのに!?


 そう言いたくなる気持ちを必死に堪える。

 本人がいたって真剣なので、なにも口を挟めなかった。彼の横顔を見ていると、叶わない恋に焦がれる儚い美青年そのものだ。そのアンバランスさが余計に怖い。


 ――やっぱりこの人、やばい人なのでは……?


 薄々わかってはいたが、自分で「ガチ恋」と言うくらいだ。

 間違っても、中の人である僕が近づいていい人間じゃない。


「白鷺くん、あ、ありがとう。見所もわかったし、家でゆっくり見ることにするよ」


 僕はついに耐えきれなくなり、掠れた声で言った。ベンチから腰を浮かせて、わずかに間を取る。

 白鷺くんはなにかに気づいたように、はっと顔を上げた。


「ご、ごめん。俺……、強引だった?」


 彼は長い睫毛に影を落とし、切なげに呟く。


「好きなことになると、つい周りが見えなくなっちゃうときがあって。引いてる、よね……?」


 ――自覚はあったんだ……


 もちろんグイグイと迫られて、困惑しているのは事実だ。でも……

 僕はそっと近づいて、彼の肩に手を添えた。


「そんなことないよ」

「……鵜月くん?」


 そもそも彼は、僕――いや、『旭 ルイ』を応援してくれているからこそ、頑張って布教しようとしているんだ。

 そんな彼を、無下にできるわけがなかった。


「白鷺くんがたくさん話してくれるの、嫌じゃないよ」

「えっ……?」

「僕、人と話すの苦手なんだけど……白鷺くんがたくさん話してくれるから、自然と喋れるというか」


 照れくさくて、たどたどしい口調になってしまう。だけど白鷺くんは真剣な面持ちで、僕の言葉を待ってくれていた。


「それに白鷺くんみたいに、こんなに応援してくれるなんて……。きっと、ルイくんも嬉しいと思う……」


 ――ルイのことは、僕から触れないほうがいいってわかっているのに。


 どうしても、言わずにはいられなかった。

 白鷺くんは大きく目を見張り、柔らかく微笑んだ。


「鵜月くん、ありがとう」

「い、いや……! 僕はなにも」

「鵜月くんと一緒にいると、なんか安心して……つい喋っちゃうんだよね。普段はもっと気をつけてるんだけどなあ」


 白鷺くんは自嘲気味に笑って、頬を掻いた。彼の表情に明るさが戻って、ほっと胸を撫でおろす。


 裏庭に、穏やかな沈黙が流れる。

 なにげなく彼の横顔を見つめていると、ふと一つの疑問が浮かんできた。


「白鷺くん。どうして『旭 ルイ』のこと、そんなに応援してるの?」

「……ん?」

「あっ、ごめん! つい気になって……!」


 だって、どう考えてもおかしい。白鷺くんはたしかに変なところはあるけど、カッコよくて人気者で、リアルが充実している人だ。


 大人気のVtuberならともかく、なんでネットの片隅にいる僕なんかに、強い想いを抱くんだろう。

 白鷺くんは顔を綻ばせ、想いを馳せるように呟いた。


「……ルイくんから、元気をもらったんだ」

「えっ……?」

「実はルイくんを知ったのは、初配信の日だったんだ。間違えてクリックしちゃって、配信に入ったのがきっかけだったんだけどさ」


 その瞬間、どくんと鼓動が響いた。

 初配信の日――もちろん、鮮明に覚えてる。これまでの人生で一番緊張して、怖くて、でも、一番嬉しかった日だ。


「そのときに俺しかいなかったのに、配信をやめないで、明るく話してるのを見て……惹かれちゃったんだよね」

「……っ!」

「ルイくんはいつもまっすぐで、頑張り屋で……。配信を見てると、俺まで前向きになれるんだ」


 彼はどこか満たされたように目を細める。

 僕は胸の奥がじわりと熱くなるのを感じながら、口を噤んだ。


 ――ミシロさんは、『旭 ルイ』の最古参リスナーだ。


 そして、初配信は――たった一人、ミシロさんだけが、声をかけてくれたんだ。

 白鷺くんは、拙い僕の配信に元気をもらったと言ってくれたけど。


 ――それは、僕も同じだ。


 そう伝えたいのに、なにも言えないのがもどかしかった。



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