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Vtuberをしていたら、美形生徒会長が僕のガチ恋ファンだった  作者: 七瀬おむ
第2章 リアルで仲良くなるなんて聞いてない!

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2-1

 白鷺 湊くんは、生徒たちの憧れの存在だ。


 朝の全校集会。校長先生の話が終わり、あちこちから小さなあくびが漏れる。そんな気怠い雰囲気のなかでも、彼が壇上に上がると空気が変わる。


「みなさん。あと一か月ほどで夏休みとなりますが、生徒会からの連絡となります」


 爽やかな夏を彷彿とさせる、澄んでいて心地の良い声。人気声優やVtuberと言われても信じてしまいそうな、美しい響き。


 それだけでも十分魅力的なのに、容姿もスタイルも抜群なのだから、注目を集めないわけがない。


 周りのクラスメートも、先輩も後輩も。みなが彼をうっとりと見つめて、彼の話に聞き入っている。


「……というわけで、希望する方は生徒会室にお立ち寄りください。それでは、みなさんの参加をお待ちしています」


 白鷺くんは穏やかに話を終えて、恭しく一礼する。その仕草すらも、まるで映画のワンシーンのようだった。


 ――白鷺くんは、やっぱりすごい人だ。


 こうして遠くで見ていると、あらためて実感する。だけど……


『本気で愛してるんだ』


 ふいに、彼の言葉を思い出す。


 ――落ち着け。昨日のことは、事故みたいなものだ。


 そりゃあ白鷺くんにだって、イメージと違う一面くらいあるだろう。

 彼は『旭 ルイ』の熱烈なファンなだけで、現実の「僕」には関係がない。


 けれど、そんな現実逃避が許されたのは――全校集会が終わるまでの時間だけだった。


 

「鵜月くん、昨日の配信見た!?」


 白鷺くんに声をかけられたのは、教室に戻ってすぐのことだった。

 いつもより数段明るい口調の彼に、クラスメートも目を丸くしている。


「あ、ええと……」


 まさか今日も、ルイの話題を出されるとは思っていなかった。

 動揺する僕をよそに、白鷺くんは容赦なく近づいてくる。


「同志がいると思うと、本当に嬉しくて。語りたくて仕方なかったんだ!」


 興奮したように目を輝かせる様子に、喉の奥が詰まる。

 またルイの話題になれば、僕の素性がバレてしまうかもしれない。


 白鷺くん――いや、ミシロさんは「ガチ恋」とはいえ、初配信から応援してくれた大切なリスナーさんだ。


 そんな彼に、ルイとは真逆の……地味で暗い奴が中の人だなんて、絶対に知られたくない。


 ――なんとかして、距離を取らないと。


 僕はごくりと唾を飲み込み、口を開いた。


「……うん。昨日も、一応は見たよ」

「本当!? 色々語りたいことがあってさー、どうだった!?」

「あの、それが……。言いづらいんだけど……」


 目を伏せて、ばつが悪そうに顔を逸らす。


「実は僕、『旭 ルイ』のファンってわけじゃないんだ。一、二回配信を見たことある程度で……。それに彼の配信、僕には合わないんだよね」

「……えっ?」

「テンションが高めで、ついていけないというか。僕、もうちょっと落ち着いたタイプのVtuberのほうが好きで……。だからその、ごめんね……?」


 恐る恐る彼を見上げると、白鷺くんはかなり衝撃だったのか――悲しそうに眉を下げ、瞳を揺らしていた。


 きっと彼が一番嫌がるのは、ルイをけなされることだろう。そう思って言葉にしたが、実際その通りだったようだ。


 ――でもここまで悲しい顔をされると、こっちまで罪悪感が……!!


 僕は胸を押さえながら、その場を離れようとする。

 しかしその矢先――白鷺くんが、勢いよく僕の手を掴んだ。


「鵜月くん。数回って、どの配信を見たの?」

「へっ?」

「鵜月くんが見た回を教えて。もしかしてそれ、ゲーム実況じゃないかな?」


 白鷺くんは表情を一変させて、僕に詰め寄ってくる。


 急になにかのスイッチが入ってしまったかのようだ。彼の視線から、凄まじい圧を感じる。


「えっと……、そう、かも?」

「そうだよね。実はルイくんは、あえてゲームに合わせてテンションを変えてるんだよ!」


 その瞬間、僕は大きく目を見張った。

 白鷺くんは、熱を帯びた口調で語りだす。


「たしかに最近は明るいゲームが続いていたから、ついていけないって感じたのかもしれない。でも、あれは『リスナーにゲームそのものを楽しんでほしい』っていう彼の優しさなんだ。ゲームの世界観に合わせて、声のトーンも話の内容も調整してるんだよ!」

「……っ!?」

「最近はゆるく聞けるような雑談配信も始めてるから、そっちも見てほしい!」


 彼のまっすぐな言葉に、目の奥がじんと熱くなる。


 ――白鷺くんが言っていたことは、すべて本当だったから。


 純粋にゲームを楽しんでもらえるよう、テンションを変えていたこと。雑談はリラックスして聞いてもらえるようにと、意識していたこと……すべて、僕がこだわっていたことだった。


 こんなことまでわかってくれてたなんて……


 嬉しさが込み上げてきて、つい口元が綻んでしまう。

 白鷺くんはそんな僕の表情を、見逃さなかった。彼はすっと目を細め、逃げ場を奪うように問いかける。


「今ので、興味を持ってくれた?」

「……えっ?」

「ちょっと見てみようかなって思ったでしょ? 俺の目は誤魔化せないからね!」


 ――ち、違う!


 中の人としてつい感動してしまったけど、そんなつもりじゃなくて……!

 すぐに首を振ろうとしたが、彼の勢いは止まらない。


「鵜月くん、お願いがあるんだ。――一週間でいい、君に『旭 ルイ』を本気で布教させて!!」

「えっ!?」

「それで鵜月くんが合わないと感じるなら、仕方ないかもしれない! でもルイくんは、君が思ってるよりもっと奥深い魅力があるんだよ!!」


 白鷺くんは必死に訴えかけて、僕の手に力を込める。

 彼の異様な様子に、ついにクラスメートたちがざわつき始める。


 ――完全無欠の生徒会長が、なぜか地味男に縋りついている。


 ぴりぴりと、周囲から刺すような視線を感じた。


「し、白鷺くん、ちょっと……!?」


 手を引こうとするが、力が強すぎて振りほどけない。

 こんな状況でもう一度拒絶するなんて、僕には…………


「……わ、わかった」


 僕は涙目になりながら、小さく頷いた。


 ――なんでこんなことに!


 プレッシャーに屈した自分が、情けなくてたまらなかった。


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