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Vtuberをしていたら、美形生徒会長が僕のガチ恋ファンだった  作者: 七瀬おむ
第1章 完璧生徒会長はガチ恋オタク!?

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1-3

 ***


 

 白鷺くんの受け答えを参考にして返すようになってから、一週間。


 あれだけ考えていたのが嘘だったかのように、ミシロさんの熱意あるメッセージに戸惑わなくなった。


 ファンとしての「ノリ」なんだと思えば、応援のメッセージも純粋に嬉しくてたまらない。

 ミシロさんも僕の返信に喜んでくれて、彼とやりとりする頻度は増えていた。


 そんなある日の昼休み。僕は自席でお弁当を広げながら、いつも使ってるSNS――通称『ツブヤキ』を開く。


 短い文章が並ぶタイムラインをスクロールすると、『#旭ルイ』というハッシュタグと共に、とある投稿が見えた。


『ルイくん、愛してる。世界で一番大好きだよ』


 もちろん、こんなことを言うのはミシロさんだけだ。

 きっと推しのアイドルのライブに行って、うちわに「大好き」と書くようなノリなんだろう。


 ――ひとまず、今日の配信の告知文を作らないと。


 新しい投稿を作って、送信ボタンを押す。無事に表示されているのを見て息を吐くと、隣から「あっ」と小さな声が聞こえた。


「……ごめん。うるさかった?」


 どうやら声を上げたのは、白鷺くんのようだ。


「ぜ、全然……」


 僕が口ごもりながら伝えると、彼はイヤホンをつけなおし、背中を丸めた。


 ――そういえば白鷺くんって、昼休みはいつも一人集中してるよな……?


 白鷺くんは長い睫毛を伏せ、どこか緊張したような面持ちで、スマホを握りしめている。


 彼は学校一の人気者なだけあって、常に人に囲まれている。けれど昼休みの時間だけは、こうして一人でイヤホンをつけ、スマホをじっと見ているのだ。

 物凄い勢いで文字を打っているから、生徒会の連絡で立て込んでいるのかもしれない。


 ――真剣に仕事をしてるのに、じろじろ見るのはよくないよな……!


 いつも温和な彼だが、なぜかこのときだけは、人を寄せ付けない雰囲気がある。クラスのみんなもその空気を察してか、遠巻きに眺めているだけだった。


 僕はようやく視線を外し、お弁当に箸をつけた。

 バイブ音と共に、スマホが震えている。ミシロさんがさっきの投稿にコメントをくれたのかな、と思いながら、今日の配信の段取りを考えていた。


 

 放課後を告げるチャイムが鳴り、生徒たちがぞろぞろと席を立つ。


 部活動や委員会、はたまたアルバイト……次の予定があるのか、せわしなく教室を出ていく生徒も多かった。


 僕は座ったまま、頬杖をつく。

 帰宅部の僕には、急いで帰る理由がない。人が多い中で帰るのも苦手だから、いつもこうして、人がいなくなるのを待っていた。


 みんなの背中を眺めている最中、ふと思い出す。


 ――そういえば、まだミシロさんに返事してなかった。


 早速スマホを取り出し、『ツブヤキ』を開く。二件ほど追加のメッセージがきていたが、どれも今日の配信に関してのコメントだった。


 まずはお昼に見たメッセージに返信しないと。

 僕は『ルイくん、愛してる。世界で一番大好きだよ』と書いてある投稿を開き、返信ボタンを押す。


『ありがとう!! オレもミシロさん、大好き!!』


 一瞬迷ったが、他のメッセージは「いいね」のボタンで返すことにした。


「……よし」


 返事もしたし、そろそろ帰ろう。


 ほとんど人がいなくなり、がらんとした教室で席を立った。白鷺くんの前を通りかかって、扉に向かった、そのとき――


「返信きた!!」


 すぐ近くで、叫ぶような声が聞こえた。


 ――まさか……今の声、白鷺くん?


 この教室には、僕と、白鷺くんしかいない。

 だから必然的に、彼が叫んだということになるのだが――いまいち脳が処理できていなかった。


 普段の彼は、とても落ち着いていて、穏やかな人で……突然叫び声をあげるようなタイプではなかったから。


「うわ、やばい。どど、どうしよう、俺のこと好きって!? これってもしかして、両想いなんじゃ……」


 白鷺くんはもはや周りが見えなくなっているのか、一人でぶつぶつと呟いていた。


「お、落ち着け……。今日は生徒会もないし、帰ってスクショ印刷して、神棚に飾って……。あ、配信は八時からだよな。それまでに…………」


 きょろきょろと目を泳がせながら、ふらふらと立ち上がる。もし今の様子をクラスの女子が見たら、きっと体調でも悪いのかと心配するだろう。


 そして彼は机にかけていた鞄を手に取り、一度机の上に置いた――


「えっ!?」


 その瞬間、思わず声が出てしまった。

 白鷺くんの鞄には、とあるキャラクターのアクキーが、三つもついていた。


 金髪の男子高校生キャラ。弾けるような笑顔に、八重歯がのぞいている。

 それは、ここにあるはずがないもの……


 鞄のキーホルダーを見つめながら、僕は呆然と立ち尽くしていた。


「…………鵜月くん?」


 白鷺くんはついに僕の存在に気がついて、声をかけてきた。


 彼は僕の視線を辿り、その先にキーホルダーがあるのをみて、はっと息をのむ。すぐに目を逸らしたが、もう遅かった。


「もしかして鵜月くんも、ルイくんを知ってるの?」


 さっと血の気が引いて、冷や汗が頬を伝う。


 ――こんなこと、あるわけない。


 自分で否定しながら、動揺のあまり目を泳がせる。だが視線を落とした先で、白鷺くんのスマホ画面が見えてしまった。


「――……ッ!?」


 すんでのところで声を抑える。しかし彼のスマホに映っていたものは、僕を驚愕させるのに十分だった。


 そこには、『ツブヤキ』の画面が映っていた。書きかけのリプライ、アカウント名には『ミシロ@旭ルイくんが生きがい』の文字。


 ――もしかして白鷺くんって、ミシロさん……!?


 しん、とその場が静まり返る。

 その合間にも、白鷺くんはじりじりと距離を詰め、いきなり僕の両肩を掴んできた。


「ひっ!?」

「どうしよう、まじで嬉しい!! リアルでルイくんを知ってる人なんて初めてで!!」

「えっ、あの……っ、僕は……! Vtuberとか、よく知らなくて……!」

「なんで隠すの!? ルイくんがVtuberってわかるなら、絶対知ってるよね!?」

「……あっ」


 ――僕は馬鹿だ!


 いきなり墓穴を掘ってしまい、言葉を失ってしまう。

 白鷺くんは力を強めて、興奮したように目を輝かせる。


「俺、実はルイくんの超古参リスナーでさ! 配信は一日も欠かさずリアルタイムで見てるし、動画は最低百回は再生するようにしてるんだ! なんていうか、生きる希望っていうのかな、ルイくんがデビューしてくれてから人生が変わったというか!」

「えっ、あっ……」

「ああ、ごめん! 俺、ルイくんのことになると止まらなくなっちゃって! あ、ちなみに鵜月くんはどれくらい配信見てるの!? さすがにガチ恋ではないよね!? ガチ恋だったらそれはそれで俺のライバルっていうか――」


 とんでもない早口で捲し立てられ、頭が真っ白になってしまう。


 ――いや、ちょっと待って。今、とんでもないことを言ってたような……?


「が、『ガチ恋』……?」


 恐る恐る口に出すと、白鷺くんは当然のように「そうだよ」と頷いた。


「ガチ恋って、あの……『旭 ルイ』のこと、す、好きってこと?」

「うん、好きだよ。――本気で愛してるんだ」


 彼は美しく透き通った瞳で、真剣に告げる。その表情には、嘘偽りは一切ない。


 ――好きって、「ノリ」じゃなかったの!?

 というか白鷺くんって、こんな人だった……!?


 僕の中の白鷺くんのイメージが、音を立てて崩れていく。激しい動悸がして、汗が噴き出てきた。


「鵜月くんはどうなの?」


 しばらく黙るしかなかった僕に、白鷺くんは目を細めた。瞳の奥には、僕を試すような鋭さがある。


 ――まさか僕も、「ガチ恋勢」だと思われてる?


 本能的な恐怖を感じ、急いで口を開く。


「ぼ、僕はただ、たまたま配信を開いたことがあって! ガチ恋ではないよ!」


 ――中の人なんだから、それ以前の問題だけど!


 自分自身にツッコミを入れながら、たどたどしく言葉を連ねる。

 白鷺くんはようやく納得したのか、安堵したように表情を和らげた。


「そっか、よかった! 今はゆるく見てる感じなのかな?」

「あ、あはは……。そう、だね……」


 気づけば、僕もリスナーの一人ということになってしまった。


 ――なにこの状況……


 絶望に浸る僕とは裏腹に、白鷺くんは鼻歌でも歌いだしそうなほど上機嫌だ。


 彼は「あ、そうだ」と呟く。自身の鞄をまさぐると、未開封のアクキーを取り出した。


「同志に出会えた記念に! 布教用のルイくんのアクキー、あげるよ」


 その瞬間、『布教用に分けたほうがいいのかな』と――ミシロさんの言葉が、頭の中を駆け巡った。


 ――実はそれ、僕が作ったんだ。


 こんなこと、口が裂けても言えない。


「席も隣だし、これからはルイくんのことをたくさん語れるね!」


 彼の瞳は、見たことがないくらいキラキラと輝いていた。それと同時に、意識が遠のくような感覚がする。


 ――まさか白鷺くんが、僕の「ガチ恋」ファンだなんて……


 僕はおずおずとグッズを受け取り、ぎこちなく笑った。

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