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Vtuberをしていたら、美形生徒会長が僕のガチ恋ファンだった  作者: 七瀬おむ
第1章 完璧生徒会長はガチ恋オタク!?

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1-2

 ***


 

『で、今日席替えがあったんだけどー。隣の席に、オレの推しが来てさあ。しかもめっちゃイケメンなんだよ! なんか、こっちまで緊張してくるっていうか』


 二十一時、僕はいつものようにマイクに向かって喋っていた。

 今日のライブは雑談配信。普段はゲーム実況がメインだが、最近は話す練習として、雑談配信も行っている。


 ペラペラと席替えのことを話していると、とあるコメントが流れてきた。


『ルイくんと隣になれるなんていいなあ。でもルイくん、隣の席のやつのこと……好きなわけじゃないよね?』


 初期の簡素な人型アイコン。名前欄には『ミシロ@旭ルイくんが生きがい』と表記されている。


 ――通称、ミシロさん。


 女性なのか男性なのかはわからないが、初配信から熱心に応援してくれているリスナーさんだ。

 生配信は必ず視聴して、コメントまで残してくれる。まさに神のようなリスナーさんだが、ちょっとだけ……いや、かなり変なところがある。


 僕は返答に迷いながら、ゆったりと口を開いた。


『ミシロさん、コメントありがと! まあ好きっていうか、純粋に尊敬してるんだよね。アイドルみたいに、キラキラ輝いてる感じがしてさあ。あーあ、いつかオレもあんな風になれたらなー!』


 ――こんな返しでいいのかな……?


 そう思ってから数秒、すぐに新しいコメントが届く。


『自分にとっては、ルイくんが世界一カッコよくて輝いてるよ!!!!!!!』


 びっくりマークの多さが、ミシロさんの熱量を表しているようだった。


 どう反応すればいいのかと迷っていると、途端に『ミシロさん今日もいる笑』『さすが過激派』とコメントが流れてきた。意外にも他のリスナーさんは、ミシロさんのテンションに慣れているようだ。


 コメント欄では和気藹々とした雰囲気が流れ、ほっと胸を撫でおろす。

 配信開始から、まもなく二時間が経とうとしていた。僕は「お知らせ」と称して、別の話題に移る。


『最後に、みんなに聞いてほしいことがあります! 実は、Vtuberデビュー半年を記念して……オリジナルグッズを出します!!』


 僕がそう言った途端、コメント欄が一気に沸き立った。


『グッズは三種類のアクリルキーホルダーになる予定! 全部描きおろしのイラストだから、ぜひチェックしてくれー!』


 グッズを販売しようという発案は、もちろん姉からだった。

 配信ではなんとか笑顔を作っているけれど、一個も売れなかったらどうしようと、今から不安で仕方ない。


 ひととおり告知をして、そろそろ配信を終わろうかというとき。ミシロさんから、再度コメントがきた。


『一人何個まで買っていいの?』


 ――アクキーって、何個も買うものだっけ?


 ミシロさんの意図が理解できず、小首を傾げる。

 よくわからないけど、個数制限を設けたほうがいいよ、というアドバイスかもしれない。


 ――そういえば姉ちゃんが、「たくさん作ったほうが単価が安いから!」と言って、大量に発注してたっけ。


『えーっと、一つの種類で十個までかな!』


 もちろん、そんなに買うリスナーさんはいない。絶対に売れない数字なので、個数制限はないのと同じだ。


 ミシロさんからは『ありがとう!』とシンプルなコメントがきた。

 それから、追加の質問はこなかった。僕は今度こそ最後の挨拶をして、その日の配信を終えた。


 

 Vtuberデビュー半年記念のグッズを販売してから、数日後。

 生配信の後にパソコンを弄っていた僕は、とある画面を見て大きく目を見開いた。


「か、完売……!?」


 チェックしていたのは、個人で開設できるグッズ販売サイト。

 僕のショップページでは、全てのアクキーが「在庫0」となっていた。メッセージアプリには、姉からの連絡が入っている。


『ねえ、完売したの見た!? ていうか、一人で十個ずつ買ってた人もいたんだけど!?』


 ――三種類、全部上限まで……!?


「ま、まさか……」


 一瞬、ミシロさんのコメントが脳裏に過る。


『一人何個まで買っていいの?』――あの質問は、本当に上限まで買うつもりで聞いてきたのだろうか。


「い、いや……。でもまだ、ミシロさんと決まったわけじゃ……」


 そこまで買ってくれるなんて、信じられない。

 三種類、十個ずつ。合計三十個を購入したとしたら、それだけで数万円になってしまう。


 もちろん、嬉しいに決まってる。だけどなぜか、わずかに寒気がするのは気のせいだろうか。


 ――なに失礼なこと考えてるんだ。僕のことを推してくれてるだけなのに!


 僕は小さく首を振り、再びメッセージアプリに視線を戻す。姉からの連絡は続いており、どうやらすでに発送も終えたらしい。そろそろ購入者にグッズが届いてるはずという言葉に、ほっと胸をなでおろす。


 ――リスナーのみんなにも、完売のお知らせとお礼を伝えないと。


 僕はスマホを手に取り、文章を打って送信ボタンを押す。背をもたれて息を吐くと、一秒もしないうちにスマホの通知音が鳴った。


 ――誰かが「いいね」してくれた?


 しかしその後もなぜかスマホが震えて、通知が止まらない。


 どうしてこんなに通知がくるんだろう。

 疑問を覚えながら画面をスワイプした瞬間、思わず声が出てしまった。


「な、なにこれ!?」


 咄嗟に口元を手で覆い、呼吸を整える。

 僕が取り乱してしまったのは、他でもない――すでに数件の返信がついていたからだ。


 名前を見たら、全部ミシロさんからだった。


『ルイくん、初グッズ発売おめでとう。そして本当にありがとう。今朝届いて、全種類可愛すぎて頭おかしくなるかと思った』

『これからいつもルイくんとお出かけできるの嬉しすぎる。普段使い用は鞄につけたし、観賞用のアクキーは部屋に神棚作って飾ってるよ』

『他には保管用として買ってあるけど、ルイくんはもっとたくさんの人に見てもらいたいって言ってたから、布教用に分けたほうがいいのかな? でもルイくんが人気者になったら、自分のことなんて忘れちゃうかな。もし君が遠くに行っちゃったらと思うと、悲しくて涙が止まらなくて』


 ずらっと並んだリプ欄に、顔が引きつってしまう。途中からどんどん気持ちが高ぶってしまったのか、グッズの話題はどこかに消えて、僕への想いとファンとしての葛藤が延々と綴られていた。


 こんなに買ってくれて、喜んでくれて、嬉しいはずなのだ。でも、なんだか……


 ――熱量が凄すぎて、うまく受け止められない……!


 いくら『旭 ルイ』としての僕とはいえ、人生でこんなに好意を向けられたことはない。だから、どう対処していいのかわからないんだ。


「コメント、返さないとだよね……? でも、どう返せばいいんだ!?」


 僕はついに考えるのをやめて、画面を閉じて頭を抱えた。



 ***

 


 翌朝。僕は心にわずかな重りを抱えながら登校し、教室に入った。

 席についてスマホを手に取り、はあ、とため息を吐く。


 ――結局、ミシロさんにメッセージを返せなかった。


 リスナーさんからのメッセージは即レスを心掛けているのに、迷いに迷って、悶々としたまま一晩を過ごした。


「ありがとう」の一言や「いいね」ボタンだけではそっけないし、かといってミシロさんの気持ちを全部受け止めて返すのも難しい。


「駄目だ、全然思い浮かばない……」


 もうすぐでホームルームが始まるし、昼休みにゆっくり考えよう。

 そう現実逃避して、スマホを机の上に伏せる。

 代わりに数学の課題をパラパラと見直していた、そのときだった。


「あっ、湊くーん! おはよう!!」


 いきなり甲高い声が響いて、びくりと肩が震えた。

 声を上げたのは、周囲にいる女子たち。彼女たちの目線の先には、ちょうど登校してきた白鷺くんがいた。


 白鷺くんは驚くことなく、「おはよう」と応えて席に近づく。彼が着席すると、女子たちが一斉に立ち上がって周りを囲んだ。


「湊くん! 昨日の副会長の投稿に、湊くんも映ってたよね!?」

「普段SNSやらないからびっくりしたよー! でも超カッコよかった……!! 思わず保存しちゃったもん!!」


 やっぱり、熱狂的なファンに囲まれるアイドルみたいだ。

 目を輝かせている女子たちをよそに、白鷺くんはさらりと返した。


「ああ、生徒会室で勝手に撮られてたやつね」

「やっぱり隠し撮りだったんだ!? でも、超イケメンがいるってバズってたよね!?」

「そりゃあ、私たちの湊くんだから当然でしょ! 湊くん、もっと自撮りとかあげてよー!」


 女子たちは一気に口を尖らせ、彼に期待の目を向けて詰め寄った。

 はたからみると、本人が反応に困りそうなくらいの熱量だ。


 ――白鷺くんは、こういうときにどうやって返すんだろう。


 僕はつい気になって、彼らから目が離せなかった。

 白鷺くんは困惑する様子を一切見せず、涼しげに笑う。


「そう言ってもらえて嬉しいよ。自撮りはちょっと恥ずかしいけど、生徒会の活動で使うのはありかもね!」


 その瞬間、僕は大きく目を見開いた。

 彼の返事は謙遜しすぎず、軽やかだった。女子たちは「文化祭前にやったらいい宣伝になりそう!」と、さらに盛り上がっている。


 ――白鷺くんって、受け答えも完璧なんだ……!


 僕は感動を覚えながら、ただ呆然と見つめていた。

 予鈴が鳴り、女子たちは名残惜しそうに席へと散らばっていく。するとふいに、白鷺くんと目が合った。


「鵜月くん、どうしたの?」


 ――しまった。じっと見すぎてたかも……!


 僕は慌てて口を開く。


「あっ、いや……! 白鷺くん、やっぱり人気だなって、思って……! それに、受け答えが爽やかっていうか……!!」


 現実で話し慣れてないせいで、自然と目は泳ぎ、声は上擦っていた。

 白鷺くんはそんな僕を嗤うことなく、ただ不思議そうに小首を傾げた。


「爽やかって?」

「す、すごい褒められてたけど、流し方が上手いなって……。もし自分があんな風に言われたら、どう答えたらいいかわからないし……」


 ――僕、なに言ってんの!?

 僕はただ、白鷺くんがすごいと言いたかっただけなのに……!


 あわあわとしている僕をよそに、白鷺くんは気分を害した様子もなく、穏やかに笑った。


「あー、なるほどね! 『褒められてる』というか、そういうノリで言ってくれただけだと思うよ」

「……ノリ?」

「うん、よくあるでしょ? ちょっと大げさに言って盛り上げる、みたいなノリ。だから俺も、全部真面目に受け取ってるわけじゃないんだ」

「な、なるほど……」


 僕は頷きながら、妙に納得していた。

 言われたことを重く受け止めずに、明るくポジティブに返す。白鷺くんは、自然とこれができているんだ。


 ――さすが、白鷺くん……!!


 僕はなんでも考えすぎちゃうところがあるから、目から鱗だった。


「……鵜月くんって、面白いね」

「えっ!?」

「いや、すごい真剣な顔してるからさ。眉間に皺が寄ってるよ?」


 白鷺くんは明るく言い放ったあと、ようやく鞄を開き、教科書を取り出していた。

 僕は眉間に手を当てながら、白鷺くんから視線を逸らす。

 そして机上にあるスマホを手に取り、ふと思った。


 ――白鷺くんの言う通り、僕は真剣に受け止めすぎなのでは?


 画面には、昨日から頭を悩ませていたミシロさんへのメッセージが表示されている。

 もしかしたら白鷺くんが言っていたように、ミシロさんもファンとしての「ノリ」で送ってきたんじゃないか。


 だとしたら僕は変に考えすぎず、ポジティブな返事をすればいいだけ……?

 僕は息をのみ、フリックをしていく。


『全種類揃えてくれるなんて神か!? 本当にありがとう、大切に使ってやってくれ~!』

『オレが人気になったら忘れちゃうかもって言ってたけど、初配信から応援してくれてるミシロさんのこと、忘れるわけないだろ!?』

『逆にリスナーさんが増えればいろんな企画もできるし、そのときはミシロさんにも絶対参加してほしい!!』


 あくまでキャラを崩さないよう、でも感謝の気持ちは忘れずに。

 気楽でいいんだと思ったら、流れるように言葉が出てきた。


「こ、これで送ろう」


 僕は小さく呟いて、送信ボタンを押す。

 すると数秒経って、隣からガタン、と勢いよく椅子を引いた音がした。


 ――白鷺くん?


 ちらりと見ると、彼はスマホ画面に釘付けになっていた。片手で胸のあたりを押さえつけ、唇を噛みしめている。


 ――なにかあったのかな……?


 少し心配になったが、その矢先に先生が教室に入ってきた。僕はすぐに姿勢を正して、スマホをしまった。

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