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Vtuberをしていたら、美形生徒会長が僕のガチ恋ファンだった  作者: 七瀬おむ
第1章 完璧生徒会長はガチ恋オタク!?

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1-1

 

『みんな、お疲れー! 今日も配信始めるぞー!』

 

 六畳一間の部屋に、明るい声が響く。

 

 わずかに照明を落とした室内では、モニターの光が白く浮かび上がっていた。

 

 画面に映し出されているのは、制服姿の金髪少年のイラスト。僕の動きに合わせて手を振り、はつらつとした笑顔を浮かべている。同時接続数のカウンターには、「9」という数字が表示されていた。

 

 ――昨日より、リスナーさんが増えてる……!

 

 たった九人、されど九人。

 Vtuberとしては、けっして多いとは言えないのかもしれない。けれど画面の向こうには、たしかに耳を傾けてくれる人たちがいる。

 

 緊張で胸が苦しくなったとき――ふと、一つのコメントが流れてきた。

 

『今日もルイくんのおかげで頑張れたよ!! 生きがいをありがとう!!!!!!』

 

 名前は『ミシロ』――初配信から欠かさず見てくれる、熱心なリスナーさんだった。

 ビックリマークの嵐に、思わず頬が緩む。

 

 ――よし、今日も頑張るぞ。

 

 小さく息を吐いて、再び声を張る。


『それじゃあ、リスナーさん参加企画! 一昨日発売された新作ゲームをやってくぞー!』

 

 そうして僕は今日も、天真爛漫な男子高校生Vtuber――『旭 ルイ(あさひ るい)』として、配信を始めた。

 


 ***



 Vtuberなら、外見も性格も、なりたい自分になれる。


 そんな可能性に惹かれて、僕は『旭 ルイ』になった。ルイはいつも明るくて、誰とでも気兼ねなく話ができる……という、僕の理想を詰め込んだ存在。


 一方で現実の僕――鵜月うづき わたるは、クラスの片隅で、ただ静かに呼吸をするだけの人間だ。


 

 夏の陽光が降り注ぐ教室は、談笑の声で満ちている。

 後方、廊下側にある僕の席からは、クラスメートの様子がよく見える。


 昼休みのチャイムが鳴ると、みんなは椅子を移動させて、仲のいい友達とお昼を囲む。


 高校二年生の一学期。クラス替えから三か月も経てば、友達もできて、気兼ねなく話せるようになる時期だろう。


 けれど、その輪のどこにも入れていない生徒がいる。

 他でもない、僕自身だ。


 ――なんで僕、いつもこうなんだろう……


 十七年間、まともに友達を作れたためしがない。極度の上がり症で、人とうまく喋ることができないんだ。

 僕は自嘲気味に笑って、小さく頭を振った。


 ――これ以上考えたらダメだ。


 思考を上書きするように、別のことを思い浮かべる。


 ――昨日の配信、盛り上がってよかったな。

 ――リスナーさんも増えてきてるし、コメントでも「面白かった」って言ってもらえた。


 Vtuberの自分、『旭 ルイ』のことを考えると、少しだけ自分が好きになれる。

 先ほどまでの虚しさが消えていき、ちょっとした自信と、高揚感で満たされていくんだ。


『旭 ルイ』になってから、ちょうど今日で半年。

 配信とはいえ、話すのも随分上手くなったはずだ。


 ――この調子で続けていけば、リアルでも話せるようになるよね……?


 僕はそんな淡い希望を抱きながら、Vtuberとしての活動を続けていた。


 

 Vtuberになったのは、姉の一言がきっかけだった。


「渉、Vtuberやってみない?」


 最初は、なにを言っているのかよくわからなかった。

 Vtuber――それはイラストやCGなどのアバターを使って、動画投稿や生放送などを行う配信者のことだ。


 もちろん僕だって、Vtuberの配信を見たことはある。

 でもだからといって、自分がやるのは別の話だ。しかも僕は、自他共に認める口下手な人間なのに。


「姉ちゃん、いきなりどうしたの……」


 七歳年の離れた姉は、相当な変わり者だ。

 どうせいつもの突飛な発言だろうと、適当にかわすつもりだった。けれど姉は僕の両肩を掴み、力説してきた。


「あたし、ようやくイラストレーターのお仕事もらえるようになったじゃん? それで、今流行りのVtuberのモデルも作れるようになりたくてさあ!」

「はあ……」


 詳しく話を聞くと、彼女はイラストレーターとしての仕事の幅を広げるため、Vtuberのモデル作成に挑戦してみたいのだという。


 しかし実際に使ってもらわないと、そのモデルの良し悪しもわからない。そこで身内である僕に活動してもらい、使い心地を逐一教えてほしいというのだ。


「姉ちゃんがVtuberになればいいんじゃないの?」


 そう言って抗議をしたが、「あたしはイラストの仕事で忙しいから」の一点張りだった。それどころか、姉は口角を上げ、意気揚々と言い放つ。


「それにVtuberになれば、渉のコミュ障もよくなるんじゃないかと思って!」

「……えっ?」

「おねーちゃんは心配なんだよ? 渉って人の目をみて喋れないし、すぐに口ごもって会話が終わるし」

「うっ」

「でもVtuberなら、対面する必要ないじゃん。まずはみんなの前で話す練習をしてみたら、自信がついて、リアルでも話せるようになるんじゃない?」


 姉の提案は、彼女の性格と同じく楽観的なものだった。


 ――そんなにうまくいくわけがない。大体、僕の配信なんて誰が見るんだ。


 そう思いつつも、「リアルでも話せるようになる」という提案に、惹かれている自分がいた。


「じゃあ早速だけど、どんな『ガワ』がいい!? せっかくVtuberなんだし、超イケメンでもいいからね!」


 黙りこむ僕を見て、姉は同意したと判断したらしい。

 気づけばキャラのデザインについて質問攻めを受け、あっという間に事が進んでいた。


 そうしてこの会話から一か月後――彼女の手で生み出されたのが、『旭 ルイ』である。


 金髪に着崩した制服、少しだけ吊り上がった目尻。ころころと変わる表情は、活発で人懐っこそうな印象を受ける。笑うと八重歯が見えるのは、姉の趣味らしい。


 外見に合わせて、話し方も工夫した。声は二トーン高く、地声とは似ても似つかない。


 ――姉の思いつきから生まれた、僕とは正反対の存在。


 けれど配信を重ねるうちに、『旭 ルイ』はもう一人の自分であり、大切な居場所になっていた。


 ――――キーン、コーン……


 ふいに、チャイムの音が鳴り響く。


「……っ!」


 弾かれたように頭を上げ、時計を見た。すっかり物思いに耽っていたら、昼休みが終わっていたらしい。

 すぐに先生が入ってきて、生徒たちに着席を促した。


 ――そういえば、今日は席替えをするって言ってたっけ。


 次は五限のロングホームルーム。これまで騒がしかった生徒たちも、どこか緊張した様子で席に着いた。


 ――席が変われば、友達を作るきっかけになるかも……!


 現実に引き戻された僕は、ごくりと息をのみ、姿勢を正した。


 

「それじゃあ、新しい席に移動してくれー」


 ついに迎えた席替えの時間。

 生徒たちはくじを引き、新しい席へと移動していく。

 僕も黒板に描かれた座席表を見比べていると、どこからともなく黄色い声が上がった。


「ちょっと待って! 湊くんとめっちゃ席近い!」

「がち!? 廊下はさんで隣じゃん、羨ましー!」


 きゃあきゃあと騒ぐ女子たちを横目に、移動して窓際の席に腰かける。


 緊張しながら、周囲を窺う。ぞろぞろと席が埋まっていくが、僕の周りには女子しかいない。

 まだ来ていないのは、隣席だけ。


 ――さすがに男子が一人もいないって、ないよね……?


 僕は祈るような気持ちで、隣席をちらちらと見ていた。そしてついに、右横から透き通るような声が響く。


「鵜月くん、よろしくね」


 見上げると、先ほどまで女子に騒がれていた張本人――白鷺しらさぎ みなとくんが立っていた。


 窓から吹き抜ける風を受け、艶やかな黒髪が揺れている。


 ――まさか、隣の席って白鷺くん……!?


 白鷺くんはこの学園の生徒会長であり、誰もが見惚れてしまうほどの爽やかイケメンだ。しかも文武両道で、有名企業の跡取り息子。そんな超ハイスペックなのにもかかわらず、優しくて……みんなから好かれる人気者だ。


 彼は色素の薄い目を細め、柔らかな笑みを浮かべた。


「席、隣になったからさ。今まであんまり話せなかったから、嬉しいな」

「あ、えっと、はぃ……!」


 緊張のあまり声が上擦って、まともな答えができなかった。白鷺くんの爽やかさを直視できず、目を逸らしてしまう。


 僕、なにやってるんだろう! せっかく話すチャンスだったのに……!

 自己嫌悪に陥っていたが、もう一度話しかける勇気はなかった。だって……


 ――白鷺くんは、僕の憧れの人だから。


 一年生の頃、全校集会で生徒会のメンバーとして壇上に上がり、堂々と話をする姿に目を奪われた。

 二年生になって同じクラスになり、彼がどれだけみんなに好かれ、僕にないものを持っている人かを知った。


 実はVtuberとして活動するとき――「こんな人になりたい」と、一番に思い浮かべた人物でもある。


 けれど、白鷺くんそのままはハードルが高すぎる。だから「明るくて、親しみやすい人気者」という要素を重視して、『旭 ルイ』という僕なりの理想のキャラクターを生み出したんだ。


 白鷺くんは僕との挨拶を終えると、ゆったりと隣席に腰かけた。脚が長すぎるのか、古びた椅子と机は少しだけ窮屈そうだ。

 彼が席に着くやいなや、周囲の女子たちがわっと騒ぎ出す。


「湊くん、これからよろしくね!? 湊くんを毎日近くで見られるなんて、最高……」

「はは、ありがとう。こちらこそよろしくね」

「湊くんっ……! カッコよすぎるぅ……!」


 同じクラスメートのはずなのに、推しのアイドルに遭遇したような反応をされている。

 普通なら不思議に思うような光景だが、相手が白鷺くんなら納得してしまう。


 ――いきなり憧れの人が隣なんて、ハードルが高すぎる……!


 近くの席の人に話しかけようと意気込んでいたけど、こんな状況じゃ無理だ。白鷺くん相手に、僕なんかがお近づきになれない。


 ――やっぱり現実は、なかなかうまくいかないなあ。


 僕は身体を縮こまらせて、そっと息を吐いた。


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