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Vtuberをしていたら、美形生徒会長が僕のガチ恋ファンだった  作者: 七瀬おむ
最5章 「ガチ恋オタク」と、恋人になりました!?

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5-3


「渉、外出るなら言ってよー。ちょっと頼みたいことが――……って、どちら様!?」


 一瞬だけ、僕たちの時が止まる。

 固まる僕をよそに、湊はすぐに背筋を伸ばし、笑顔を作った。


「初めまして。渉くんのクラスメートの白鷺 湊と申します。突然お邪魔してしまって、申し訳ございません」

「し、白鷺……くん?」

「はい、お姉さん。こちら、よければ召し上がってください」


 湊は早速、菓子折りを美しい所作で手渡した。姉は菓子折りと湊の顔を二度見して、ぽかんとしている。


 僕はそこではっと気がつき、慌てて二人の間に入った。


「み、湊! ちょっと待っててもらっていい!?」


 僕は焦りながら、姉の手を引いてリビングに入る。

 一旦扉を閉めて、小声で姉に話しかけた。


「今日出かけるって言ってたよね!? なんで家に」

「だって、待ち合わせ時間がズレたんだもん。そろそろ出ようかなーって思ってたところ!」


 姉は唇を尖らせて言ったあと、突然僕の肩を掴んだ。


「――って、そんなことより! あの子は何者!?」

「えっ!?」

「かっこよすぎない!? もしかして芸能人!?」

「い、いや……。本当にクラスメートで……」

「まさか渉に、あんな超イケメンの友達がいるなんて! ……ん? ちょっと待って」


 姉は途中で小首を傾げる。

 じっと記憶を辿るように腕を組んだあと、「まさか」と目を見開いた。


「あの子が、前に渉が言ってた友達? たしか生徒会長で、ガチ恋ファンの『ミシロ』さん……?」


 ――早速バレた。


「あ……。えっと……」


 僕は視線を泳がせてから、観念したように小さく頷く。


 ——姉が想像していたミシロさんとは、随分違っていたのだろう。姉は呆気に取られたように、しばらく固まっていた。


「姉ちゃん? あの……」


 姉はびくりと肩を揺らし、ようやく我に返った。


「……それならなおさら、姉としてちゃんとご挨拶しなきゃね」

「えっ? いきなりどうし……」

「あー、さっきメイクしておいてよかったあー」


 僕の言葉を無視して、姉は軽やかな足取りで湊のもとへ戻っていった。


「湊くん。あらためて、今日はわざわざ来てくれてありがとう。いつも弟がお世話になってます」


 湊と向かい合う姉は、やけに丁寧な口調で返していた。声のトーンもいつもより高い。よく見たら、口元もニヤけている。


 ――もしかして、イケメンの前で猫被ってる……!?


「とんでもないです。こちらこそ渉くんのおかげで、毎日が楽しくて」

「そんな……! こんな素敵なお友達がいるなんて、姉として嬉しい限りです」


 お互い余所行きの湊と姉は、上品に笑い合った。


 僕はそんな彼らの様子を窺いながら、声をかけるタイミングをはかっていた。どうにもいたたまれないので、早く会話が終わってほしい。


 しかし僕の願いを壊すように、姉は「それで、弟から聞いたんだけど」とさらに話を続けた。


「湊くんって、いつもルイを応援してくれてる『ミシロ』さんなんだよね?」

「……っ!?」


 思わず叫びそうになった。


 ――なんでわざわざ本人に聞くの!?


 焦る僕をよそに、姉はさらにドヤ顔で言葉を重ねる。


「実は、Vtuber『旭 ルイ』のキャラデザとモデリングしたの、あたしなんです」

「えっ!? お姉さんが……!?」

「ええ。Vの『ママ』として、ミシロさんが応援してくれたり、グッズを買ってくれるのを見ていたの。だからどうしても、直接お礼が伝えたくってね?」


 姉はわざとらしく髪を耳にかけ、キリッと眉を上げた。

 僕はようやく、姉の目的を理解した。


 ——イケメンにいい印象を与えたくて、自分から暴露してるんだ……!


 実の姉ながら、恥ずかしくてたまらない。


 けれど湊は数回瞬きをしたあと、表情を一変させて――キラキラと目を輝かせた。


「まさか実のお姉さんが、ルイくんの産みの親だったなんて……! どうしよう、か、感動してます! 俺、ルイくんのキャラデザが大好きで……!!」

「あ、あら。……本当に?」

「はい! 髪のなびき方だったり、瞳孔の動き方だったり、細部のこだわりまで大切にされているのが伝わってきます! 新衣装の夏服も、屈んだときに見える鎖骨とか、腕を上げたときにシャツの布地がひっぱられて、ちらっとお腹が見える感じとか、爽やかさに加えて色気まで感じて――」


 湊のマシンガントークが炸裂すると、そのたびに姉の表情はみるみるうちに溶けていった。湊のベタ褒めシャワーを浴びて、クールな表情を保てなくなったらしい。


「そんなところまで見てくれるなんて……。そう、そうなのよ……!! 新衣装から細かい表情もアップデートしててね、驚いたときの瞼の動きとか、口の開け方とかね? ほら、ルイってゲーム実況中によく驚いたりするでしょ?」

「わかります!! お姉さんのアップデートのおかげで、ルイくんのリアルな表情が鮮明になって、まさに一緒にゲームをしている感覚になるといいますか……!」

「ふふ、こんなにわかってくれる子に初めて出会ったわ……! 湊くん、なんていい子なの!?」


 オタクトークに圧倒され、本人である僕だけが会話に入れない。


 ――とりあえず、二人が落ち着くまで黙っていよう。


 そう思って待っていた。けれど結局会話が終わったのは、それから十分以上経ってからだった。


「やばっ!? もうこんな時間!?」


 姉のスマホからアラーム音が鳴り響く。どうやら、もう家を出ないといけないらしい。


「湊くん、絶対また来てね!!」


 最後に姉は、湊と熱い握手を交わした。

 姉はバタバタと玄関に向かう。僕も見送ろうとついていくと、彼女は靴に足を突っ込み、いきなり僕のほうへ振り返った。


「渉。あんないい子捕まえるなんて、やるじゃん」

「……っ!?」

「じゃ、あとは二人でごゆっくりー!」


 反応する間もなく、姉はひらひらと手を振りながら、家を飛び出した。


 バタン、と勢いよくドアが閉まり、さっきまでの喧騒が嘘のように引いていく。


 ――やけに含みのある言い方だった。


 もしかして、僕たちが付き合ってることを察して……?


「渉のお姉さん、すごく素敵な人だったね」


 呆然としていると、後ろから声をかけられる。僕の心境とは裏腹に、湊は無邪気に笑っていた。


「……うちの姉ちゃん、騒がしくてごめんね」

「い、いや! むしろ楽しかったよ!」


 意外にも、湊と姉は相性がいいらしい。


 ――それにしても、『あとは二人で』って……!


 僕は赤くなった顔を隠すように俯きながら、さっと廊下の奥へ進んだ。


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