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Vtuberをしていたら、美形生徒会長が僕のガチ恋ファンだった  作者: 七瀬おむ
最5章 「ガチ恋オタク」と、恋人になりました!?

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21/23

5-2

 ***


 翌日の昼休み。僕と湊は、いつもの裏庭へと向かった。

 ぽつんと隅に置かれたベンチに、ゆっくりと腰かける。


 ——どうやって、昨日の話を切り出そうか……


 僕は迷いながら、お弁当の箱を開ける。一方の湊は、袋のままのパンを片手に、一瞬たりとも僕から視線を外さなかった。


「あの、湊……」

「っ、ごめん! 渉が可愛すぎて、目が放せなくて……!!」


 ドストレートな言葉に、カッと顔が熱くなる。

 湊は言い訳をするように、慌てて口を開いた。


「ずっと渉を見ちゃってるなって、自覚はあったんだ。でも俺が大好きな二人が同一人物だったなんて、今考えても奇跡なわけで……。感情の行き場がないっていうか、俺の世界が渉だけになっても仕方ないっていうか……!」


 湊は「ガチ恋勢」……というか、恋する乙女のようだった。

 たぶん本人が言うように、湊は相当「浮かれている」。少なくとも、周りが見えていないのはたしかだった。


「湊……。あの、ちょっと相談があるんだけど……」


 僕は恥ずかしさで目を泳がせながら、おずおずと口を開く。


 ——大好きな人からこんなことを言われて、嬉しくないわけがない。


 でも僕は、湊本人のために、伝えなければいけないんだ。


「実は今、クラスで『湊くんが変わった』って、話題になってるらしくて……!」

「……ん?」

「湊の気持ちは、本当に嬉しいんだけどっ……! 湊って過剰に注目されるの嫌がってたから、大丈夫かなって……」


 言葉を選び、そっと顔を覗き込むと、ようやく湊もピンときたらしい。彼は何度か瞬きをしたあと、額に手を当てた。


「……やばい、全然気づかなかった」

「そうなの!?」


 やっぱり、オタクモードになっていただけみたいだ。


 ——ここで伝えておいてよかった……!


 大きく息を吐いた僕を見て、湊は目を丸くしていた。

 それから、照れくさそうに頬を掻く。


「渉、心配してくれてありがとう。でも……もう俺は、周りにどう思われてもいいんだ」

「えっ?」

「前は、結構気にしてたんだけどね。今は渉がいるから、周りのことなんてどうでもよくなっちゃった」


 湊は吹っ切れたように、明るく笑う。


『本当に好きなものを伝えても、いいことってないから』——そう言っていたころの彼とは、見違えるように清々しい顔をしていた。


 湊はふっと視線を落とすと、小さく呟く。


「でも……そうだな。学校ではなるべく抑えるようにするよ。それに、これ以上目立って渉の魅力に気づく奴が現れたら、嫉妬でどうにかなりそうだし」

「さすがにそれはないと思うよ……?」


 そもそも僕のガチ恋勢なんて、後にも先にも湊だけだろう。


 思いのほか真剣な目つきをしている湊が面白くて、可愛らしさすら感じてしまう。

 つい頬を緩めると、湊も優しく目を細めた。


「でも、本当に夢みたいなんだよね。学校では渉と会えるし、配信ではルイくんの声も聞けて……。人生の運を全部使い果たしちゃったんじゃないかって、今でもたまに不安になる」


 湊はそう言って、少しだけ腰を浮かせた。キィ、とベンチが軋んで、僕たちの距離が近づく。


 彼は僕の存在を確かめるように、そっと僕の背中に手を回した。


「渉。俺……、少しだけ我儘を言っていい?」

「な、なに……?」

「渉と一緒に、ルイくんの配信が見たいんだ」


 彼の言葉に、大きく目を見開いた。切実な声に、胸がいっぱいになる。


 こんな風にまっすぐ言われて、断ることなんてできない。


「湊。今度……僕の家、来る?」


 意を決して、たどたどしく問いかける。

 その瞬間、湊が大きく息をのんだのがわかった。


「……うん」


 背中に回された彼の手に、きゅっと力がこもる。僕の体温まで、一気に上がったような気がした。



 ***



 ——渉と一緒に、『旭 ルイ』の生配信が見たい。


 湊と友達になってから、彼が口にしていたこと。


 正体を隠していたときは、絶対に叶えられなかった。けれど僕たちの関係が「恋人」に変わった今――それはついに、実現しようとしていた。


 穏やかな風が頬を撫で、わずかに暑さが残る日。僕はじわりと出てくる汗を拭い、実家の最寄り駅で待っていた。


「渉!」


 閑散とした小さな駅に、彼の声が響く。改札から出てきた湊は、すぐに僕のもとへと駆け寄った。


「まさか、本当に渉の家に行けるなんて……! ずっと楽しみにしてたんだ」

「い、いや……! こちらこそ、わざわざ来てくれてありがとう」


 幸いにも、今は両親が二人で長期旅行に出かけていた。姉もこの日は予定があると言っていたから、湊を呼んでも問題ないだろう。


 そう思って声をかけたのだが……実際に湊がこの場にいると思うと、なんだか不思議な感じがする。


「そ、それじゃあ……行こっか」


 僕はそう言って、きゅっと前を向く。緊張のせいか、動きはロボットのようにカチカチだった。


 湊と恋人になってから、こうして長い時間を過ごすのは初めてだ。


 湊は並んで歩きながら、きょろきょろと周囲を見回していた。よく見たら、彼もどこか落ち着きがない。


 ぱっと目が合うと、湊は遠慮がちに口を開いた。


「どうしよう……。渉の部屋に行くの、緊張するな……」

「……えっ!?」

「だって好きな人の部屋だし、しかもルイくんの配信部屋なわけだし……。俺が爆発しないか心配で」

「爆発ってなに……!?」


 思わずツッコんでしまったが、湊は頬を染めて、真剣な表情をしていた。


 彼の平常運転に安心感すら覚えて、つい頬が緩んでしまう。気づいたら、肩の力も自然と抜けていた。


「配信部屋っていっても、PCとマイクくらいしかないし……。あんまり期待しないでね?」

「そんなの全然気にしないよ! むしろ俺こそ、そんな神聖な場所に上がらせてもらっていいのかなって!」


 湊は熱っぽく語ると、持っていた紙袋を揺らした。ふと思い出したかのように下を向き、ぽつりと呟く。


「それに、手土産……これだけでよかったかなあ」


 僕は目を丸くして、彼に問いかけた。


「もしかして、わざわざ持ってきてくれたの?」

「……うん。渉のご家族にもどうかなと思って」


 紙袋の中身を覗き込むと、超高級スイーツブランドのロゴが見えた。


 ――これ、「手土産」ってレベルじゃないよね……!?


「そ、そんなに気を遣わなくても……!」

「いやいや。勝手にお邪魔してるわけだから……! せめてもの気持ちとして、これくらいはしないと!」


 さすが、生徒会長を務めている彼のことだ。こういうときの礼儀作法が染みついているんだろう。


 なんだか申し訳なく思っていると、湊はぶつぶつと言葉を続けた。


「渉のご家族には、よく思ってもらいたいし……」

「……ん?」

「いつかは正式にご挨拶をするわけだから、しっかりとした振る舞いをしないと。……渉と結婚す……には、海外に行くのも…………」


 後半のほうは声が小さくて、よく聞こえなかった。


「湊? 今、なんて言ったの?」

「っ、なんでもないよ! ちょっと将来の計画を……!」


 僕が小首を傾げると、湊は誤魔化すように笑った。


「それより、渉の家はもうすぐ?」

「あ、うん。ここを曲がったらすぐだよ」


 僕はそう言いながら、角を曲がる。それからまっすぐ歩いて、家の前で立ち止まった。


「ここが、僕の家だよ」


 どこにでもある素朴な一軒家。湊の高層マンションのように、華やかさはまったくない。

 ガチャ、と鍵を開け、玄関のドアを開けた。


 湊は「お邪魔します」と言って、丁寧に靴を揃える。僕は廊下を進み、自室のある二階へ案内しようとした。


「渉ー? おかえりー」


 そのとき、静まり返った家に声が響いた。


 直後、リビングの引き戸がガラッと開く。そこから顔を覗かせたのは――出かけているはずの姉だった。


 ――姉ちゃん!? なんで!?



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