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Vtuberをしていたら、美形生徒会長が僕のガチ恋ファンだった  作者: 七瀬おむ
最5章 「ガチ恋オタク」と、恋人になりました!?

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20/23

5-1


 夏休みが明けて、初日の全校集会。


 クーラーの効いた講堂では、生徒たちのざわめきが響いていた。


 新学期を迎え、一か月ぶりに登校する生徒たち。そんな彼らに言葉を送るのは、壇上にいる湊だった。


『みなさん、夏休みはいかがお過ごしでしたか。いよいよ新学期が始まりましたが——』


 生徒会長として挨拶をする彼は、いつもの爽やかで完璧な笑顔——ではなく、落ち着きがなく、なにかを探すかのように、視線を泳がせていた。


「湊くん、どうしたんだろ?」

「なんか様子がおかしいよね……?」


 湊の異変は、みんなにも伝わっているらしい。僕もそわそわしながら、湊を眺めていた。


 すると彼は、こちらに視線を向けて——目が合った途端、ふわ、と幸せそうに目を細めた。まるで、やっと見つけたとでも言うように。


「……ッ!?」


 ——今の、僕に向かって……!?


 今までなら、自意識過剰だと否定していただろう。


 だけど、それから彼の視線が一切動かなくて、僕に語りかけているみたいだった。


 激しくなる鼓動を押さえつけるように、制服の胸元を握る。


 彼の甘すぎる笑顔に釘付けになったまま、僕は視線を逸らせなかった。



 全校集会が終わり、教室に入ってすぐのこと。戻ってきた湊は、まっすぐに僕のもとへと駆け寄った。


「渉、おはよう」

「あっ、お、おはよう……!」


 湊に声をかけられた途端、声が裏返る。

 なんともいえない気恥ずかしさが込み上げてきて、顔が熱くなった。


 ——夏休みの間、僕たちはついに「恋人」になった。


 もちろんそれから、頻繁に連絡を取り合っていた。けれどお互いに委員会が忙しくて、まともに外出する時間はとれなかった。


 委員会の合間のわずかな時間に、会って話をする。それだけで精一杯だったんだ。


 だからこうして学校で顔を合わせると、どんな風に接したらいいのかわからない。


 ——今まで通り、学校では「友人」として接すればいいんだよね……?


 そうだ、そうしよう。

 きっと湊も、そのつもりでいるはずだ。


 僕はそう決意して、ぱっと顔を上げる。しかしそれと同時に、湊は僕の手を取った。


「夏休み中、本当はもっと会いたかったんだ」

「……えっ?」


 湊は両手で僕の手を包み込み、瞳を潤ませて訴えかける。


「毎日毎日、渉のことだけを想ってたよ。もちろん配信で声を聴いて癒されてたけど、それだけじゃ我慢できなくなってきて、寂しくてどうにかなりそうだった。俺って、本当に我儘だよね……」


 湊は熱に浮かされたように、とめどなく言葉を紡いでいた。

 それはまるで、画面の中の「ミシロさん」の熱量そのものだ。


 ——学校では友人として振る舞うと思ってたのに、違うの……!?


 どう反応したらいいのかわからず、身体が固まってしまう。


 ちょうどそのとき、朝のチャイムが鳴り響いた。


 湊はしぶしぶといった様子で手を放す。けれどその顔は、まだ名残惜しそうに眉を下げていた。


 ——朝のホームルームが終わり、授業が始まっても、僕の心は落ち着かないままだった。


 なぜなら、隣席から肌が焦げつきそうなほどの熱い視線が、常に注がれているから。


 ちら、と横目に見ると、湊は頬杖をつき、僕をうっとりと眺めていた。


「……っ!」


 それに、見られているのは湊からだけじゃない。


 こっそり周囲を見回すと、他の生徒たちも、こちらの様子を窺っているように見えた。


 それは間違いなく、いつもは品行方正な湊が、あきらかに授業そっちのけで、僕のほうを見つめているからだろう。


 ——一体僕は、どうすれば……!?


 僕は視線に気づかないふりをして、ただ机に向かうことしかできなかった。



 ***



 熱い視線に翻弄され続け、ようやく一息つけたのは、放課後のことだった。


 二学期最初の、文化祭の実行委員会。

 僕が特別教室に入ると、名雲くんがすぐに駆け寄ってきた。


「鵜月! 生徒会長となにかあったのか!?」


 顔を合わせて、開口一番がこれだった。

 名雲くんはずっと聞きたかったんだといわんばかりに、興味津々といった様子だ。


 僕はひとまず近くの席に着き、おずおずと口を開く。


「えっと……、なんか、気になることでもあった?」


 我ながら、白々しい質問だった。名雲くんは勢いよく頷き、前のめりになる。


「いや、気になることだらけだって! 朝から生徒会長が変だって、クラスで話題になってるからな!?」

「そ、そんなに……?」

「そりゃあもう! それに俺も気になって観察してたら、生徒会長がずーっと鵜月のほう眺めてるし、鵜月にびっくりするくらい早口でずっと喋ってるし、なんかキャラ変わってね!?」


 図星を突かれて、思わず両手で顔を覆った。


 ——やっぱり気づかれてる……!!


 ずっと僕を見ているのも、早口で捲し立てるように喋るのも、「ガチ恋オタク」であるミシロさんそのものだ。


 きっとみんなからしたら、憧れの生徒会長がいきなりおかしくなったと思うに違いない。しかも今度は、生身の僕に向けられてるわけで……!


「ていうか生徒会長って、鵜月のことめっちゃ好きだよな?」

「……えっ?」

「前も俺が鵜月に話しかけたとき、生徒会長にすげー睨まれたし。あのときは、まじで心臓止まるかと思った……」


 名雲くんは顎に手を当てながら、ぶつぶつと呟く。そうしてなにかを閃いたように、ぱっと目を見開いた。


「もしかして、鵜月って生徒会長と付き合ってんの?」

「——っ!?」


 驚きすぎて、息が詰まる。

 すっかり思考が停止してしまって、口をパクパクしたまま、なにも言葉が出なかった。


 名雲くんはそんな僕をじっと眺めてから——はは、と大きく笑った。


「冗談だよ! そんな驚いた顔すんなって!」

「じょ、冗談?」

「うん。女子たちが『湊くんに恋人ができたんじゃないか』って騒いでたから、適当に言ってみただけ!」


 名雲くんは爆笑しながら、僕の肩を叩いた。

 どうやら本当に、冗談で言ってみただけのようだった。


 ——た、助かった……!


 ほっと胸を撫でおろし、小さく息を吐く。


「湊が変なのは……えっと、なんかいいことがあったみたいで」

「あー、テンションが上がってたってこと?」

「う、うん。僕も詳しくは知らないけど……」


 フォローになっているかはわからないが、適当にその場を凌ぐ。

 そのとき、とある考えが頭を過ぎった。


 ——湊は「完璧な生徒会長」として過ごしてたのに、このままでいいのかな……?


 湊は意図的に、人との深い関わりを避け、自分の本来の姿を見せないようにしていた。このままだと、彼のイメージが崩れてしまうことになる。


 湊は意外と、少し……いや、かなり盲目なところがあるから、今は周りが見えていないだけかもしれない。


 ——今度、湊に聞いてみよう……!


 僕はこっそりと決意し、小さく拳を握りしめた。


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