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Vtuberをしていたら、美形生徒会長が僕のガチ恋ファンだった  作者: 七瀬おむ
第4章 ありのままの「僕」で向き合いたい!

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4-6

 ***


 夏休み中の学校は、静寂が広がっていた。


 下駄箱には陽光が差し込み、中央階段へとまっすぐに光が伸びている。僕はその光に導かれるように、階段を駆け上っていった。


 生徒会室は三階。電気のつけられていない階段は、ぼんやりと薄暗くて、僕の影だけが長く伸びている。


 ――本当に、湊は生徒会室にいるんだろうか。


 勢いで飛び出してしまったから、今になって不安になってきた。


 僕は一度息を整えて、三階の廊下を進んでいく。最奥の部屋――生徒会室の透かし窓からは、わずかに白い光が零れていた。


「湊。……い、いる?」


 遠慮がちに扉をノックすると、中からガタ、と音がして、足音がこちらに近づいてくるのがわかった。


「――……渉?」


 ゆっくりと扉が開く。

 湊は信じられないというように僕を見て、小さく「なんで」と呟いた。


「ちょっと話したいことがあって、いいかな……?」


 湊は立ち尽くし、言葉を失っている。


 ――突然訪ねてきてしまったんだから、当たり前だ。


 彼はしばらく逡巡したあと、ようやく口を開いた。


「……入っていいよ」


 招かれるまま、生徒会室に足を踏み入れた。室内は広く、僕たち以外には誰もいない。


 奥にある大きな机には、書類がまとめられ、スマホだけがぽつんと置かれていた。


 きっと生徒会の仕事の合間に、僕の配信を見てくれていたんだろう。


「……渉。いきなり、どうしたの?」


 湊は振り返って、僕に問いかける。

 迷うように揺れる瞳。彼の視線から、戸惑いが伝わってくる。


 僕はまっすぐに彼を見つめたまま、はっきりと告げた。


「湊の相談に、答えたいと思って来たんだ」


 その瞬間、湊は大きく目を見張った。ある可能性に気づいたのか、静かに息をのんでいる。


 ――本当のことを伝えるのは、怖くてたまらない。


 だけどそれ以上に、このまま自分を隠して、彼を不安にさせることはできなかった。


「――僕が、『旭 ルイ』なんだ」


 静まり返った部屋に、僕の声だけが響く。湊はただじっと、僕を見つめていた。


「人見知りで口下手な自分を変えるために、Vtuberになったんだ」

「……っ」

「僕にとって『旭 ルイ』は、理想を詰め込んだキャラクターで……。だから、本当の僕とは全然違うんだ。今まで黙ってて、ごめん」


 湊が好意を寄せてくれた『旭 ルイ』と正反対な人間であること、それを隠していたこと。罪悪感に押しつぶされそうになって、胸のあたりを掴んだ。


 ――やっぱり『旭 ルイ』の中身がこんな人間だなんて、失望されたんじゃないか……


 学校でも、配信でも、湊と話せなくなるかもしれない。そんな最悪な想像が頭を巡って、胸が苦しい。


 僕はそれでも一歩前に出て、言葉を絞り出した。


「でも、今日の配信で湊の悩みを聞いたとき……。ちゃんと、本当のことを伝えようって思ったんだ」


 湊は少しだけ顔を上げたが、痛ましげに眉根を寄せていた。初めて見る顔に喉がつかえて、動揺してしまう。


 湊は伏せがちだった視線をさらに彷徨わせ、掠れた声で沈黙を破った。


「それじゃあ、なんで俺を避けてたの?」

「……えっ?」

「俺のこと、気持ち悪いって思った?」


 ――頭が真っ白になった。


 正体を知られて幻滅されるとか、隠していたのを責められるとか……そんなことばかり考えていたのに。


 湊にとっては、僕に避けられていた事実のほうが、ずっと傷つくことだったんだ。


「湊……」


 これまで、彼がどれだけ悩んでいたか。その瞳が、どんな言葉よりも正直に語っていた。


 もう、誤魔化せない。

 僕は息を吸い込んで、震える声で口にする。


「――湊のことが、好き」


 時が、止まったような感覚がした。


 恥ずかしくて、怖くて、視線を合わせることすらできなかった。僕は耐えきれず、ぎゅっと目を瞑った。


「湊は初配信から僕を応援してくれて、学校でも友達になってくれた。僕はいつも、君に支えられてたんだ」


 目の前が潤み、視界が歪んでいく。


 彼が好きだと言っていた、いつも明るくて、堂々としている『旭 ルイ』はどこにもいない。


 僕はそれでも必死に、最後まで言葉を紡いだ。


「湊のこと、嫌いになったわけじゃない。僕が意識しすぎて、身勝手に湊を避けるようになってたんだ」


 言い終わったあとに待っていたのは、長い長い静寂だった。


 きっと僕なんかに恋愛感情を向けられて、困惑しているんだろう。


 顔を伏せて、制服の裾で涙を拭った。張り裂けそうな胸の痛みを抑えつけ、なんとか顔を上げようとしたとき――


「俺も、渉が好きだ」


 ぐっと腕を引かれ、強く抱き寄せられる。


「えっ……?」


 気づいたら、湊の腕の中に包まれていた。


 肌を通じて、一気に熱が伝わってくる。彼は腕の力を込めて、必死に訴えかけた。


「大切な友達だったのに、気がついたら、渉から目が離せなくなって……。俺以外の人と仲良くしてるのを見たら、嫉妬でおかしくなりそうだった」

「なっ……!?」

「それに、俺……」


 湊はそこで言葉を区切り、耳元でそっと囁いた。


「心のどこかで、渉がルイくんなんじゃないかって思ってたんだ」


 僕は目を見開いて、思わず口を開く。


「前から、わかってた……?」


 湊はゆっくりと首を横に振る。


「確信はなかったよ。だからずっと、俺の勝手な願望だと思ってた」


 ――願望?


 まるで僕が『旭 ルイ』であることを、望んでいたみたいじゃないか。


 僕は顔を上げて、恐る恐る問いかける。


「……幻滅、してないの?」


 湊は少しだけ腕の力を緩めて、僕の顔を覗き込んだ。


「するわけない。渉もルイくんも、俺が好きなところは一緒だから」

「え……」

「初配信のとき、俺以外誰も見てなくても、最後まで楽しませようとしてくれたよね。学校でも、俺自身を見て、決めつけずにまっすぐ接してくれた」


 彼は安心させるように、そっと微笑む。


「俺はきっと、渉の根本にある優しさに惹かれてたんだ」


 ――僕の、優しさ……


 湊は『旭 ルイ』というキャラクターじゃなくて、『旭 ルイ』を通して、僕自身を見ていてくれたんだ。


「渉もルイくんも、別の存在じゃない。俺にとっては、どっちも大好きな渉自身だよ」


 その瞬間、肩の力が抜けて、なにかが解けたような感覚がした。


「これからは、渉の恋人としてそばにいたい」


 恋人という甘い響きが、胸をいっぱいに満たしていく。


 ずっと怖くてたまらなかったのに、湊と両想いになれるなんて……まるで、都合のいい夢でも見ているようだった。


 けれど、頬に触れる湊の手の温もりが、たしかに現実なのだと教えてくれる。


 僕は息をのみ、大きく頷いた。


 窓から温かなオレンジの光が差し込んで、僕たちを照らす。湊の透き通った目が、嬉しそうに細められた。


「渉。……目、閉じて」


 ゆっくり瞼を下ろすと、お互いの鼓動だけが小さく響いていた。


 湊の温もりが、すぐそこまで迫ってくる。彼は僕の顎を持ち上げて、そっと唇を重ねた。


 身も心もすべてが溶けあって、優しく受け止めてくれるようだった。


 ――僕はきっと、湊のおかげで変われたんだ。


 配信を始めたばかりの僕に、自信をくれた。学校では、ずっと独りぼっちだった僕の側にいてくれた。


 湊がいてくれたことで、少しずつ、自分のことを好きになれた。


 想いが通じ合うなんて、奇跡みたいなことだけど……


 ――これからも、彼の隣にいたい。


 僕は溢れ出す幸福感に包まれながら、彼の背中に腕を回した。


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