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Vtuberをしていたら、美形生徒会長が僕のガチ恋ファンだった  作者: 七瀬おむ
第4章 ありのままの「僕」で向き合いたい!

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4-5

 ***


 それから一週間後。


 ついに、ずっと準備をしていた『質問・相談コーナー』の配信の日を迎えた。


 パソコンの画面には、姉が描いてくれたイラストが表示されている。


 僕は背筋を伸ばし、「配信開始」のボタンを押す。


『みんな、お疲れー! 今日は、現役高校生VtuberによるNGなし! 質問・相談コーナーをやっていくぞー!』


 僕が声をかけると、早速リスナーさんがコメントをしてくれる。


 もちろんその中には、驚くほどの長文や、ビックリマークばかりのコメントはない。


 そう、あれからも変わらず、ミシロさんからのコメントは届かなかった。


 ……本当は、寂しくてしかたない。


 けれど今は、その気持ちを誤魔化したり、無理やり掻き消したりしようとはしていない。


 ――生配信に来られなくても、たくさん盛り上げて、思わず見たくなるような配信にしよう。


 僕はそう心に誓って、明るい口調で笑顔を向ける。


『実は今回、たくさん質問と相談が届いてるんだ! もし一件もこなかったら、ネタにしようかと思ってたんだけどなー! 本当にありがとう!!』


 実際僕のもとには、十件を超えるメッセージが届いていた。


 すべて事前に目を通して、どう答えるかを考えてきている。


 僕自身も悩んでばかりだけど、だからこそ、いつも見てくれるリスナーさんからの質問や悩みには、真剣に応えたかった。


『それじゃあ、答えていくぞー!』


 早速、画面を切り替える。


『最近ハマってるゲームは?』『現役高校生ってまじ?』といったライトな質問から、『Vtuber活動するのに大変なことはなんですか?』『進路で悩んでいて……』といった、重めの相談まで。


 一つ一つ、配信が盛り上がるようにテンポよく、けれど本気で向き合っていた。


 それから、どれくらい時間が経っただろうか。

 コメントを拾いながら喋っていたら、別の質問も飛んできて――水分補給すら忘れてしまうほど、僕たちのやりとりは熱を帯びていた。


 最後の相談に応えた頃には、すっかり声が掠れていた。


『ごめん、ちょっと水飲むな!』


 一言断って、音声だけを切った。喉を潤すと、頭の中がすっきりと冴えてくる。


 ――そうだ。もしかしたら今いるリスナーさんも、追加で相談したい人がいるかもしれない。


 ふと思って、再び口を開いた。


『っていうわけで、これでもらった質問・相談は終わり! ……なんだけど、もし他にも聞いてみたいってことがあったら、コメントしてくれー!』


 自分で言ったあと、ちょっとハードルが高いかな、と苦笑いしてしまった。


 案の定、数分待ってもコメント欄は動かない。

 配信時間は、そろそろ二時間が経とうとしている。


 長くなってしまったし、きっとみんな満足してくれたんだろう。


『他にはなさそうだから、今日の配信はこのへんにしようかな!』


 僕はそう言って、カーソルを「配信終了」のボタンに合わせた。

 しかしそのとき――とある一行が、視界に滑り込んできた。


『相談したい』


 表示された名前を見て、心臓が跳ねた。


 名前は、ミシロ。

 ずっと僕の配信に姿を見せなかった、湊だった。


 ――まさか、ずっと見てくれてた……!?


 嬉しさと驚きで、うまく言葉が出てこない。僕はなんとか声を絞り出し、『もちろん!』と応える。


 マウスから手を放し、じっと次のコメントを待っていた。


 たった数秒が、永遠にも感じられた。


『友人のことで、悩んでるんだ』


 やっと届いたコメントに、思わず息をのむ。


 いつもなら熱い長文を投げてくるミシロさんが、今日だけは、ぽつりと、短い言葉を落としていく。


 それはまるで、迷って躊躇しながら打っているように。


 僕はその場をトークで繋ぎ、無言にならないようにする。他のリスナーさんも、ミシロさんが古参ファンということを知っているからか――なにもコメントをせずに、静かに待っているようだった。


『ルイくんの配信がきっかけで、仲良くなった友人がいるんだ。でも、その子に嫌われたかもしれない』


 彼の文章を目にするたびに、鼓動が激しくなってくる。


 ――ルイの配信がきっかけで、仲良くなった。


 これってまさか……僕のこと?


『俺にとって本当の自分をさらけだせるような、大切な人なんだ。だけど俺が焦って距離を詰めようとしたら、避けられるようになった』


 僕は画面に釘付けになって、言葉を失ってしまった。


『苦しい。もう一度元の関係に戻りたい。だけどこれ以上しつこくしたら、今度は一言も話せなくなるんじゃないかと思うと怖い。本当に失いたくない人に出会ったのが初めてだから、どうしたらいいのかわからないんだ』


 彼からそのまま流れてくる感情が、胸を衝いて、息が苦しくなっていく。


 ――湊は、こんなに悩んでいたの?


 僕のことを、こんなに大切に想ってくれていたの?


『——ルイくん。俺はどうしたらいい?』


 最後のコメントが投げかけられて、はっと我に返る。


『あっ、えっ、と……』


 焦って口を開いたら、言葉がつかえてしまった。

 配信では明るいトーンで、はっきり喋れるはずなのに。


『旭 ルイ』としての仮面が剥がれて、ぐずぐずと決壊していくような感覚だった。


『ミシロさん、えっと、実はオレも、友人関係で悩んでたことがあって。だからその……真剣に、答えたいんだけど』


 必死に言葉を紡ぐが、頭の中はぐちゃぐちゃだ。


 ――本当に、今ここで、『旭 ルイ』として答えるのか?


 ミシロさんが湊であることも、そして本来答えるべき人間は――「僕」自身だと知っているのに。


 今の僕……『旭 ルイ』のままでは、本当の彼の悩みとは向き合えない。


 僕は唇を噛みしめて、拳をぎゅっと握りしめた。


『オレに悩みを打ち明けてくれて、ありがとう。ミシロさんは、いつもオレを応援してくれて、全力で支えてくれて……だからこそオレも、ミシロさんの悩みに、本気で向き合いたいんだ』


 ミシロさんの反応はない。一体画面の向こうの湊は、どう思っているのかわからない。


 だけど僕は、それでも彼に訴えかけた。


『だから少しだけ、待ってて。必ず、答えるから』


 しばらく、コメント欄は静かだった。


 けれどあるとき、『ありがとう』と――一言だけ、返ってくる。


 それを合図にしたように、これまで見守ってくれていたリスナーさんから、優しい言葉が投げかけられた。


『仲直りできるといいな』

『ミシロさん、きっと大丈夫だよ』


 みんなの温かさに胸の奥を揺さぶられながら、僕は今度こそ、震える声で最後の挨拶を告げる。


 ——今すぐ、行かないと。


「配信終了」ボタンを押した瞬間、すぐに立ち上がる。スマホだけを持って、部屋から飛び出した。


 外に出ると、傾きかけた日差しが、周囲を眩く照らしていた。


 夏休みの間、彼はずっと、生徒会の仕事があるのだと言っていた。きっと今から行けば、間に合うはずだ。


「湊に、会いにいこう」


 ——『旭 ルイ』としてじゃなく、鵜月 渉として。


 僕は今度こそ逃げずに、彼と向き合いたかった。


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