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Vtuberをしていたら、美形生徒会長が僕のガチ恋ファンだった  作者: 七瀬おむ
第4章 ありのままの「僕」で向き合いたい!

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4-3

 ***


 最近、湊の様子がおかしい。

 僕が委員会活動を始めてから、その違和感は日に日に大きくなっていた。


「渉。俺、これから生徒会の予定があるんだけど……すぐに終わらせてくるから、教室で待ってて」


 昼休みのチャイムが鳴ってすぐ、彼は立ち上がってそう言った。


 ――たぶん、今日こそお昼を一緒に食べようということなんだろう。


「わ、わかった」


 僕は言われるがまま頷く。

 だが、なぜか湊は眉間に皺を寄せたままだった。


 湊はいつも『旭 ルイ』のことになると変だけど、それとはまた別の……どこか焦ったような、ヒリヒリとした空気が滲み出ている。


 僕は彼が教室を出るのを見送ってから、お弁当を机の端によけた。


「とりあえず、湊が戻るまで待とうかな……」


 手持ち無沙汰になり、スマホを手に持って俯く。


 ――一人きりのお昼は、久々だった。


 スマホの画面をただ流しているだけで、内容が頭に入ってこない。代わりに耳に飛び込んでくるのは、クラスメートたちの会話だった。


『夏休みどうすんの』『海行こ!』と――間近に迫った夏休みの話題で、盛り上がっているのがわかる。


 そんな渦の真ん中で、ぽつんと取り残されている。


 ――僕も湊と遊びにいきたいけど……今の気持ちのままじゃ、無理だよな。


「はあ……」


 堪えきれず、ため息が漏れる。


 ――夏休みを挟めば、少しは気持ちが落ち着くんだろうか。


 夏休みまで、あと三日。

 彼と会えなくなるのは寂しいけど、この感情を抑えつけるにはいい時間なのかもしれない。


 そうやって自分を納得させて、大きく息を吐いた。


「鵜月ー、ちょっといい?」


 そのとき、頭上から声がした。

 ぱっと顔を上げると、名雲くんが立っていた。彼はきょとんとした顔のまま、小首を傾げる。


「さっきから、すっげーため息ついてんじゃん。大丈夫?」

「あっ、うん……! 大丈夫」

「そう? あのさ、この前のゲームの攻略で聞きたいことがあって――」


 彼は喋りながら、湊の席に座った。僕と向かい合い、スマホの画面を見せてくる。


「これ、この前俺が調整したパラメーターなんだけど。どうもしっくりこないんだよねー。鵜月はどうしてるのか聞きたくて」


 僕は彼のスマホを覗き込み、質問に答える。


「このキャラね……。僕は攻撃力に特化させて、スキルを割り当ててるよ」

「あー、やっぱりそうかあ。最近このキャラ使ってんだけど、変にバランスとろうとしないほうがいいのか?」

「うん、そうだと思う。僕も均等にスキル振ってたら、全然使いこなせなかったよ」

「マジかー、ありがとう! やっぱりゲームのことは、鵜月に聞くのが一番だな!」


 そんなにおだてられると、ちょっと照れくさい。


 ただ配信でもプレイすることが多かったから、リスナーさんからのアドバイスを実践しているだけだ。


「そ、そんなことないよ。初見だと全然ダメだし……」

「いやいや、自信持てよー!」


 名雲くんは僕の肩を軽く叩いた。

 スマホをポケットにしまい、ふと思い出したように言う。


「あ、そうだ。今度、リアルで協力ミッションやらない?」


 彼の誘いに、思わず目を丸くした。


「えっ……、僕でいいの?」

「当たり前じゃん! 師匠、お願いしますよー!」

「……師匠?」

「だって、高難易度のクエストも全クリしてるじゃん! 夏休み、空いてない?」


 スケジュールを見るまでもない。配信以外、予定はガラ空きだ。


「だ、大丈夫だよ」

「お、やったー! すげー楽しみ!」


 名雲くんが弾けるように笑うので、僕もつられてしまう。その場が一気に明るくなり、心が弾む。


 胸を占めていたモヤモヤが、彼の笑顔に溶かされていくような気がした。


「僕も、楽しみ」


 頬を緩ませながら答えた――その瞬間。

 名雲くんの背後に、すっと人影が差した。


「――渉。なんの話してるの?」


 張り詰めたような、冷たい声が響く。

 名雲くんはびくりと肩を震わせて、ゆっくりと振り返った。


「あ、あれ……? 生徒会長?」

「生徒会が終わったから、急いで戻ってきたんだけど。二人で盛り上がってるから、気になっちゃった」


 湊はぎこちなく口角を上げた。けれど目の奥は笑っていなくて、僕をまっすぐに見据えている。


 ――湊、怒ってる……?


 肌にぴりぴりと刺さるような視線に晒されて、身体が固まってしまう。名雲くんも異様な雰囲気を感じ取ったのか、焦ったように立ち上がった。


「あっ、悪い! ここ生徒会長の席だったよな! すぐに退くから!」


 名雲くんは湊と目が合った途端、頬を引き攣らせた。彼はそそくさと立ち去ってしまい、その場には僕と湊だけが残る。


 長い沈黙のあと、湊は僕の腕を掴んだ。


「渉、一緒に来て」

「……えっ!?」


 突然のことに、呆然としたまま引っ張られる。僕はなにもできず、彼についていくしかなかった。



 無言のまま湊に連れられたのは、階段の踊り場だった。


 壁際まで追い込まれ、ようやく彼と向き合う。抗う間もなく、ぐっと身体を寄せられた。


「名雲くんと、ずいぶん楽しそうだったね」


 いつもの優しく、穏やかな雰囲気はどこにもない。湊の眉間には深い皺が刻まれ、綺麗な唇は苦々しく歪んでいた。


「俺が誘ったときは嫌そうだったのに。名雲くんに言われたら、あんなに嬉しそうにするんだ?」

「そ、そういうわけじゃ……!」


 こんな風に感情を剥き出しにした湊なんて、見たことがない。


「この前遊んでから、ずっと様子が変だよね?」


 色素の薄い瞳で射貫かれて、なにもかも見透かされているような気がする。彼はすっと目を細めて、掠れた声で問いかけた。


「渉。――俺のこと、避けてる?」


 決定的な言葉を言われて、大きく目を見張った。


「ち、ちちが、違うよ……っ!」


 視線を泳がせ、ただ狼狽えることしかできない。湊は一度吐息を零すと――そっと僕の顔に手を伸ばした。


「渉、こっち見て」


 指先で顎を持ち上げられて、強引に視線が交わる。


「湊……!?」

「だって、全然目が合わないから」


 吐息が肌を掠めるほどの距離に、頭が真っ白になる。


 掴まれている手から熱が伝わってきて、耳まで茹で上がっていくような感覚がした。


「……渉は、俺だけと話してくれればいいのに」

「えっ……?」

「他の友達なんか作らなくても、俺が……」


 彼の言葉が信じられなくて、思わず息をのむ。


 ――どうして。どうしてそんなこと言うんだ。


 それじゃあまるで、湊が嫉妬しているみたいじゃないか。


「……俺、なにか嫌われるようなことした?」


 ――嫌いじゃない。むしろその逆だ。


 そのせいで、いつものように話せないんだ。

 小さく首を振って、口を開く。


「僕は、湊のことが……」


 ――「好き」だと頭に浮かんで、すぐに口を噤む。


 同時に胸に湧き上がったのは、大きな不安だった。


 ――僕の感情が、湊に知られてしまったらどうしよう。


 きっと湊は、僕を大切に想ってくれている。そうじゃなきゃ、嫉妬したりなんてしないだろう。


 だけどそれは、友達としての気持ちだ。

 彼が好きなのは――僕じゃなくて、『旭 ルイ』なんだから。


「渉、俺は…………」


 湊は眉根を寄せ、手の力を強めた。煮え切らない態度の僕に、苛立っているようにも、苦しんでいるようにも見える。


 彼はそれでも、僕の言葉を待っていた。急かすように手の力を強めて、さらに距離が縮まって――


「ご、ごめん!」


 声を張り上げて、大きく後ずさる。

 湊は僕の手を放し、そのまま立ち尽くしていた。


「じゅ、授業始まるから……!」


 急いで顔を隠し、その場しのぎの言葉で繕う。


 僕の反応がおかしいのはわかっている。けれど、真っ赤になっている顔を見られるわけにいかなかった。


「渉……」


 湊の声が、ひどく切なげに聞こえた。

 振り返ることすらできなくて、ただ胸が痛い。


 僕を特別に想ってくれている彼に、こんな態度しか取れないなんて。


 だけど僕は……これからも「友達」として、彼と向き合える自信がなかった。


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