表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Vtuberをしていたら、美形生徒会長が僕のガチ恋ファンだった  作者: 七瀬おむ
第4章 ありのままの「僕」で向き合いたい!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
14/14

4-1

『渉、可愛い』


 二人きりの空間で、湊は熱の籠ったまなざしを僕に向けていた。


 頬に添えられた手のぬくもりと、耳元で囁かれる甘い声。全身が溶けてしまいそうな感覚のなか、そっと彼の胸に身を預ける。


『……渉、キスしていい?』


 僕は顔を上げて、こくりと頷く。


 緊張と期待が綯い交ぜになって、胸が限界まで高鳴っている。


 湊はわずかに笑みを浮かべて、ゆっくりと身体を寄せた。


 目を閉じて、唇が触れる寸前。これまでにないくらい、幸せな気持ちが溢れてきて……


「――うわああ!!」


 その瞬間、僕は飛び起きた。


 思考が整理されるまで、数秒。窓から差しこむ朝日に照らされ、自室を見回して――ようやく状況が理解できた。


「な、なんて夢を……」


 夢に見たのは、まぎれもなく湊とのキスシーンだった。


 ――完全に、昨日の記憶に引っ張られてる……!


 結局昨日は、家に帰ってからずっと悶々としていた。湊との出来事が忘れられなくて、なにも手につかなかったのだ。


 この胸の中に巣食っている複雑な気持ちも、いっそのこと寝て忘れてしまいたい。そう思いながら、ベッドに入ったことを覚えている。


「あんな夢見たら、余計に意識しちゃうよ……」


 大きくため息を吐いて、スマホを触る。


「えっ、もうこんな時間!?」


 ぼんやりとしていたら、家を出なければいけない時間になっていた。僕は慌てて立ち上がり、制服をひったくるように掴んだ。



 案の定、学校についたのはホームルームの直前だった。


「なんとか間に合った……」


 僕は一度呼吸を整えてから、教室の扉を開ける。


 窓際に視線を送ると、湊はすでに席に着いていた。彼は軽く手を振り、花が咲いたような笑顔を見せる。


「渉、おはよう」


 挨拶されただけなのに、心臓が大きく跳ねた。


 湊はいつもカッコイイけれど、今日はいつにもまして輝いて見える。喉の奥が詰まって、すぐに挨拶を返せない。


 ――お、落ち着け……!


 僕は胸のあたりを押さえて、唾を飲みこんだ。


「お、おは……っ、おはよう」


 恥ずかしいくらい噛み噛みだ。


 顔を伏せ、視線を合わせないようにしながら席に着く。


 胸の奥からせり上がってくる緊張感。元々上がり症ではあるけれど、こんな感覚は初めてだ。


「渉、一昨日はありがとう。すごく楽しかった」


 湊は僕の内心なんて知る由もない。椅子ごと僕の机に寄せて、いつものように声をかけてくる。


「こ、こちらこそ……。僕も、た、楽しかった、です」

「はは、なんでいきなり敬語?」


 今は言葉を返すだけで精一杯だった。湊は笑いながら、話を続ける。


「この前は見られなかったけど、今度こそルイくんの配信をリアタイしようよ。俺の家ならいつでも空いてるし」

「えっ、あっ……」


 心なしか、顔が近いような気がする。


 彼が使ってる柔軟剤の香りなんだろうか。ふわりと清潔な匂いがして、彼に借りたシャツを思い出した。


 いや、僕は一体なにを考えて……


「渉?」

「――っ!」


 湊に声をかけられ、びくりと肩が上がる。彼は僕の顔を覗き込み、きょとんとしていた。


「ごめん、驚かせた?」

「い、いや! 大丈夫……!」

「ならいいけど……。それでさ、渉はいつなら空いてる?」


 ――生配信を一緒に見るなんて、物理的に無理だ。


 そもそも、湊とまた二人きりなんて……!

 教室で話すだけで、こんな有様なんだ。


 まっすぐ目を見られないし、呂律も回らない。少し近づかれただけで、発火したように顔が熱い。


「う、うーんと……」


 断ったほうがいいのはわかってる。でも、なんて言えばいいんだろう。


 意味もなくスマホを触って、スケジュールを確認するふりをした。頭をフル回転させ、必死に言葉を選んでいるとき――


「みんな、席に着けー。ホームルームを始めるぞ」


 チャイムが鳴り響き、先生が教室に入ってきた。


 ――た、助かった……!


 湊も名残惜しそうに「またあとでね」と言って、自席に戻る。

 僕は小さく息を吐き、ほっと胸を撫でおろした。



「このままじゃ、ダメだよなあ……」


 一人きりの帰り道。僕は途方に暮れたような気持ちで、大きなため息を吐いた。


 今日の自分は、どうかしていた。

 湊を見ると、胸のあたりがざわついて、思考が追いつかなくなる。今まで通り接しようと思っているのに、変な反応ばかりしてしまう。


 それは今朝変な夢を見たせいなのか、それとも……


「……とにかく、明日からなんとかしないと」


 頭を振って、鞄を肩にかけなおす。


 湊はいつも通り親しく接してくれているのに、僕がこんな態度をしていたら不審に思うだろう。


 ――でも、どうやって?


 自問自答を繰り返すが、一向に答えは出ない。

 あれこれ考えているうちに自宅に着いて、玄関のドアを開けた。


「あ、渉。おかえりー」


 リビングに入ると、姉に声をかけられた。ソファにだらしなく背をもたれ、スマホを弄っている。


 彼女は顔を上げると、ぎょっと目を剥いた。


「渉、眉間にシワ寄ってるよ?」


 ……そんなに険しい顔をしていたんだろうか。


 思い悩みすぎて、顔に出てしまったのかもしれない。姉は姿勢を正して、再び声をかけてきた。


「悩み事があるなら、おねーちゃんが聞いてあげよーか?」


 茶化したような口調だが、声のトーンは柔らかかった。

 僕は立ち止まり、瞬きを繰り返す。


 ――たしかにこのままだと、埒が明かない気がする……


 姉には前にも相談をしていたし、きっとまた話を聞いてくれるだろう。

 僕は静かに頷いて、おずおずとソファに座った。


「友達のことで、ちょっと悩んでて」

「友達? もしかして前に話してた、『旭 ルイ』のガチ恋の子?」

「あっ……。う、うん」


 相手がわかっていると思うと、若干気まずい。口を開くのを躊躇っていると、姉はさらっと言った。


「どうした? ガチ恋にストーカーでもされたー?」

「ち、違うよ!」


 思わず声が出た。

 ストーカーされたどころか、むしろ僕のほうが意識しまくっている。


「それじゃあ、なんなのよ」


 姉は唇を尖らせて、すっと目を細めた。

 早く言え、という圧をひしひしと感じる。ついに観念して、おもむろに口を開いた。


「わ、笑わないで聞いてほしいんだけど……。最近、その友達のことばかりを考えて、うまく話せなくなっちゃって……」

「ん?」

「友達のことが気になって仕方ないというか、もうちょっと考えないようにしたいというか……!」


 ごにょごにょと誤魔化して、自分でも要領を得ないということはわかっていた。姉は腕を組み、小首を傾げる。


「……え? なにそれ、恋愛相談?」

「ち、ちがっ! 恋愛感情かどうかはまだわからな――じゃなくて、ただ友達として、気になりすぎちゃうってことで!」

「ふーん……?」


 姉はじっとりと僕を見て、怪訝な顔をしている。


 ――これ以上、追及しないでほしい。


 僕の願いを察したのか、姉は目を逸らし、考え込むような様子を見せた。


「まあいいや。要は、その友達に依存しちゃってる状態なわけだ」

「……依存?」

「うん。良くも悪くも、大切に思いすぎてるんじゃない? だって、その子は古参のリスナーさんで、しかも初めての友達なわけでしょ?」

「それは、そうだけど……」


 戸惑う僕をよそに、姉は突然身を乗り出し、自信満々に言い放った。


「それなら、解決方法は簡単だよ」

「……えっ?」

「渉がもっと友達を増やして、自分の世界を広げればいいんだよ」


 その瞬間、僕は目を見張った。


 ――自分の世界を、広げる……?


 姉は人差し指を立てて、得意げに言う。


「世の中、なんでもそうだと思うんだけどさあ。自分の居場所が一つしかないと、自分にはこれしかいない! と思いこむわけ」

「こ、これしかない……」

「うん。人間関係だってそうでしょ? 渉にはその子しか友達がいないから、その子のことばっかり考える。異常に相手の反応を気にしたり、意識しすぎちゃうの」


 姉は珍しく、すっと真面目な顔をした。


「あたしもさ、普通に会社で働いてたときは、この職場しかない! って考えすぎて病んでたこともあったよ? でもイラストを描いて仕事をもらえるようになってから、いい意味で気楽になったというか」

「そ、そうなんだ……」

「だから、渉の居場所が増えれば、いい意味でそこまで気にならなくなると思うんだよねえ」


 ――姉の提案は、妙に説得力があった。


 たしかに僕は、現実でも配信者としても、湊とだけ繋がりが深かった。だから彼のことばかりを考えてしまうのは、自然なことだったのかもしれない。


 友達が増えれば、また何かが変わるんだろうか。


「でも、湊以外の友達なんて……」


 僕が思わず呟くと、姉は唇を尖らせた。


「渉。そもそも配信者を始めたのも、リアルで少しでも話せるようになりたかったからでしょ?」

「あ……」

「最近雑談配信だって、板についてきたじゃん。前は一方的な話しかできなかったのに、今はコメントも拾って、自然と話せるようになったでしょ」


 姉は念を押すように、言葉を続ける。


「この際だから、もうちょっと頑張って友達作ってみれば? そしたら案外、その子のことも気にならなくなるかもよ」


 姉は口の端を持ち上げて、僕の肩を軽く叩いた。


「姉ちゃん……」


 凝り固まっていた肩の力が、すっと抜けていくような感覚がした。


 ――そうだ、これは僕にとってもチャンスなんだ。


 湊への気持ちは、本当に恋愛感情なのかはわからない。


 だけど僕が一歩踏み出して、世界を広げれば……この気持ちの正体も、はっきりするんじゃないか。


「姉ちゃん、ありがとう。やってみるよ」


 僕は大きく頷いて、ぐっと拳を握りしめた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ