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そうして迎えた日曜日。
待ち合わせをすることになったのは、コラボカフェの最寄りである、東京の表参道駅。
地下鉄の出口に出ると、大通りは多くの人々で賑わっていた。
道行く人はみんなおしゃれに見えるし、ガラス張りの高級ブランド店が立ち並ぶ光景に圧倒されてしまう。
――どうしよう、すっごい緊張してきた……!!
絶対に遅れちゃいけないと思いすぎて、約束の三十分前に着いてしまった。
会話が続かなかったらどうしようとか、服がダサすぎて引かれるんじゃないかとか、ネガティブなことばかりが頭を巡る。
無駄に駅のトイレに入ってみたり、周囲を散歩してみたりしたのだが……あまり時間をつぶせなかった。
――待ち合わせ時間まで、あと十五分。
僕はスマホを弄るふりをして俯きながら、地下鉄の出口の前で待っていた。
「渉?」
透き通るような声がして、はっと顔を上げる。
目の前には、私服姿の湊が立っていた。
仕立てのいいシャツに、細身のジャケットを羽織っている。シンプルな服装なのに、一目でいい素材のものだとわかる。洗練された大人っぽい容貌は、この街の雰囲気とぴったりだった。
――か、カッコよすぎる……!!
学校でも彼の美しさはこれでもかというほど浴びてきたのに、私服姿の破壊力は想像を超えていた。男の僕ですら見惚れて、心拍数が上がってしまう。
「……あの、渉? ごめんね、待たせた?」
「いやっ! 全然そんなことないれす!」
急いで返事をするが、甘噛みしてしまった。
湊はくすりと笑うと、「それじゃあ行こうか」と歩き出した。
きらびやかな大通りを進み、湊の後を追う。
コラボカフェの予約まで、時間はたっぷりある。僕たちはその前に、軽くランチをとる予定だった。
そわそわして落ち着きのない僕とは対照的に、湊は躊躇なく裏路地に入っていく。少し坂を上っていくと、ガラス張りのレストランが見えた。
「ここ、俺のおすすめのお店なんだ」
湊は慣れた様子で扉を開ける。ウェイターに名前を告げると、すんなりと奥のテーブルへ案内された。
――なんか、すっごいおしゃれなお店に来ちゃった……
僕は店内を見回して、思わず息をのむ。
大開口のガラス張りに、吹き抜けの天井。見上げると青空が見えて、陽光が店内を明るく照らしている。
広々としたオープンキッチンでは、シェフが腕を振るう姿も見える。美しく盛り付けられた料理がカウンターに並べられ、ウェイターが手際よく運んでいた。
「お昼を食べてから行こう」と言われたので、てっきりチェーン店でさっと食べるのかと思っていた。チェーン店どころか、なにかの記念日でしか行かないようなお店じゃないか。
――湊、よくこんなお店を知ってるなあ……。っていうか僕、完全に場違いじゃ……
すっかり気後れしてしまって、手元のメニュー表に視線を移す。しかしそこには、衝撃的な数字が並んでいた。
――高っ!?
大げさではなく、桁が一つ多い。僕の財布には、到底ランチ代を払えるほどのお金は入っていない。
どうしよう、と頭が真っ白になった。
「渉。この店、パスタが本当に美味しいんだよ。あとデザートはティラミスがおすすめなんだけど、この後コラボカフェがあるから、あんまり食べ過ぎないほうがいいかな」
湊は楽しそうな声色で、満面の笑みを浮かべた。
僕は罪悪感に苛まれながらも、そっと口を開く。
「あ、あの……、湊。申し訳ないんだけど、僕、お金が……」
「ん? 気にしなくていいよ。最初から俺が出すつもりだったし」
「……えっ!?」
思いのほか大きな声が出てしまい、すぐに口を噤む。しかし彼は一度小首を傾げて、当然のように言った。
「今日は俺が直前に付き合わせちゃったから、お詫びにご馳走しようと思ってたんだ。でも言い忘れちゃってたね」
「いや、でも……! さすがにこれは」
「そんなに慌てた顔しないで。俺が勝手にこの店を選んだだけなんだから。――あ、すみません」
僕が言い返す暇もなく、湊はウェイターを呼びとめた。「なにがいい?」と聞かれ、流されるまま注文する。
――本当に、僕と同じ高校生なんだろうか。
今更ながら、湊が御曹司だということを思い出した。もしかしたら、僕みたいな庶民とは金銭感覚が違うのかもしれない。
けれどそうだとしても、僕が想像していた「友達」との外出と随分違う。
おしゃれな高級ランチに行って、ご馳走までしてもらって。
――これじゃあまるで、「デート」みたいな……
そう思い至った瞬間、はっと我に返った。
――僕はなにを考えてるんだ!
湊は友達として僕を誘ってくれたのに、変なことを考えるなんて恥ずかしすぎる。
「渉、あんまりフレンチは好きじゃない……?」
狼狽える僕を見て不安に思ったのか、湊は顔を覗き込む。僕は首を横に振って、「そんなことないよ」と否定した。
彼は安心したように吐息を零して、柔らかな笑みを浮かべる。
「俺、駄目だなあ。渉と出かけられるのが嬉しくて、張り切りすぎちゃった」
率直な言葉に、心臓が大きく跳ねた。一気に体温が上がり、頬が熱くなってくる。
——普通、友達相手にそんなこと言う!? いや、僕が友達に慣れてなさすぎて、過剰にドキドキしてるだけ……?
頭がこんがらがって、その場で固まってしまった。
一息ついて、なんとか冷静になろうとする。
——きっと湊は、無自覚な人たらしなんだ。だからこれが、彼にとっての普通で、僕が特別なわけじゃなくて……
「お待たせいたしました。前菜とスープでございます」
ぐるぐると考えている間に、料理が差し出された。
僕は熱を冷ますように水を飲んでから、料理に口をつけ始めた。




