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遠山金四郎外伝  作者: 喜多甚
第2章 花頂山五郎吉
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第28話 ごっつぉさん

「おう、そこに立ってんの、暖簾を下げちまいな。これより賭け金が(かさ)んじゃ金坊が気の毒だ。親父、七十枚だ。途切れることなく頼むぜ。」


「あいよ!」


 蕎麦(そば)屋の親父、蕎麦仙の六十枚に続いて今度は五郎吉の七十枚、しめて百三十枚の大商いにホクホクである。

 ちなみに蕎麦代は負けた方が持つ。蕎麦屋は取り逸れることなく儲かるので、蕎麦賭けは大歓迎だ。


「へい、お待ち!」


 いきなり十枚重ねの蒸籠(せいろ)が二本、タン!と卓に置かれた。気の短い江戸っ子を相手に商売する蕎麦屋は仕事の手が早い。五郎吉、あまりに早いので目を丸くするも、お腹の虫の催促が勝った。


「もっけだのぉ」(ありがとう)


 五郎吉はひと拝みするや箸を割り、(もっけ…?)と庄内言葉を聞き取れずに困惑する源三達を他所に置いて夢中で蕎麦を手繰る。あっという間に二十枚を平らげた。


「おいおい、蕎麦が自分から口に飛び込んでいきやがるよ。源さん、大丈夫かえ。」


「いや、蕎麦仙だって四十までは勢いが良かったが、五十を超えてピタリと止まった。これからよ。」


 五郎吉はと言えば、江戸の蕎麦の細さと香りの高さ、洗練されたツユの美味さに箸が止まらない。


「んめ」「んめ」(美味い、美味い)


 謎の言葉を発しながら美味そうに蕎麦を手繰り続ける五郎吉。五十どころか、蕎麦仙が超えられなかった六十を超しても箸の勢いは止まらない。いつしか周囲は声を合わせて枚数を数え始めた。


「六十…八、六十…九、七………十!」


「ごっつぉさん」(ごちそうさま)


 まだまだ余裕のある五郎吉だったが、蕎麦単品はさすがに舌が飽きる。締めに甘いものを食べたいところだが言葉が通じない。不便なものだ。

天明8年(1788年)

遠山 金四郎 (24)

斉藤 五郎吉 (21)

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