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遠山金四郎外伝  作者: 喜多甚
第1章 長谷川平蔵
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第25話 石川島

「長谷川様は盗賊の上前をハネるような真似をなさるんですかい。」


 怒り心頭の面持ちで徳次郎が尋ねるのに耐えかね、平蔵は真相を話すことにした。


「実はあの六千両はな、色んな所に投資をしてこさえたものなのさ。投資の元金は約三千両、これを半年ほどで六千両だ。銭相場に米相場はもちろんのこと、どこぞの下屋敷で開かれてる賭場にまで手を出したし、金貸しもやってる。おっと、金貸しったって高利貸しじゃねえよ。高利貸しの借金をまとめて借り換えさせての低利融資、その債権を他に売るってわけよ、感謝はされても恨みは買ってねぇつもりだぜ。ま、そうやって増やした六千両を、越後屋に預かってもらってたのさ。」


「なるほど、本物の小判が詰まった千両箱を(おとり)にする大胆不敵さに驚きやしたが、長谷川様自前の金子だったのですかぇ。ですが、なぜそれを捨てられたことになさるので?」


「それに答えるには六千両を作ることになった理由を話さねぇとな。」


 平蔵は腰を下ろして胡坐をかいた。


「俺はな、お前さん達のような罪人が二度三度と過ちを繰り返して遠島だの極刑だの喰らうのを止めたくてな、禁錮を喰らった罪人に手に職を付けさせて更生させる施設を石川島に設けようとしてんだが、御老中の白河公(松平定信)は賛同してくれるも予算は三千両足らずよ。これっぽっちじゃ考えてることの半分も作れねえよと嘆いていたら、俺の昔馴染みが『じゃあこれを元手に増やしましょうや』と言いやがったのさ。」


 あまりにも想定外の話に付いていけず呆然とする徳次郎らを他所(よそ)に平蔵は話を続ける。


「そいつはとんでもない事情通でな、投資はことごとく成功してあれよあれよのうちに増えていったんだが、そのまんまお上に申し上げれば召し上げられかねないほど増えた上に、さっきも言ったが表に出せない金も多分に含まれるのよ。」


「そこを私らが盗みに入り、喜び勇んで運び出した。で、捕り物の中で海中に捨てられたことにすれば、幻の六千両を長谷川様が自由に使えるってぇ絡繰(からくり)ですかぇ。長谷川様、お人が悪い。悪すぎる。」


 そのために自分達が死罪では浮かばれない。徳次郎の恨み節も当然であろう。


「だからな、徳次郎一味は小塚原(こづかっぱら)で死んだのさ。お前さんらにはこれまでの名前を捨てて生き直してもらう。差し当たって例の施設を造るための先乗り人足をやってもらい、三年もしたら手に職を付けられるだろうから娑婆に戻してやろうさ。ま、こんなところで許せよ。」


 日本初の犯罪者更正施設、石川島人足寄場の始まりであった。


「あ、ありがとうございやす。御恩は終生忘れやしやせん。」


 平伏する徳次郎に平蔵はさらに言葉をかける。


「徳次郎よ、お前さんは盗賊の手口に詳しい上に、骨董の目利きもできると聞いた。どうだ、俺の密偵を務めるのと同時に、六千両を作った野郎の錬金術を引き継いでくれねえか。あんの野郎、今しばらくは自由でいてぇからと俺の下で働くのを拒みやがったのよ。」


 悪態を吐くも上機嫌な平蔵に徳次郎は尋ねる。


「そのお方、武士とも商人とも異なる匂いがしますなぁ。どんなお方で。」


「あの日の幇間(たいこもち)よ。」


「は?」


 察しの良いはずの徳次郎だが、品川浜の松林から覗き見た幇間(たいこもち)のこととは考えが及ばずに首を傾げるばかり。

 その様子に平蔵、わっはっはと大笑。


「金坊、や、遠山金四郎景晋(かげくに)という若造よ。彼奴はとてつもなく大きくなるぜ。」

第1章 完

天明8年(1788年)

長谷川 平蔵 (43)

遠山 金四郎 (24)

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