第22話 捕り物
「先生、どうしました?」
当面の潜伏期間を凌ぐための金として配下達に三十両ずつ渡して今後について打ち合わせているところ、カッと目を見開くや大刀を手にして立ち上がった小寺兵衛の姿に、徳次郎も異変を感じ取った。
『徳次郎さん、おしまいですよ。』
天井から声がしたのにギョッとして徳次郎は上を向いた。声の主は久作だが、姿は現さない。
『泳がされていたのさ。あんたらが手配した引き込みや助働きも、今頃は町方が捕り抑えているよ。ここも火盗に包囲されてるし、あんたら一人ひとりも面が割れてる。諦めてお縄に付くこった。』
「いつからだ。」
『雉の宮。』
徳次郎の口からフッと自嘲が漏れ、やがて声を上げて大笑した。
「六千両を囮に一網打尽たァ豪勢だ。や、参った。皆、ジタバタせずにお縄に付こうや。」
『そうするが良いや。その六千両もお前さん方のために使われる金だ。それを運ぶ手伝いをしたんだ、長谷川様が罪一等を減じてくださるよ。』
久作の言葉の意味するところが理解らず顔を見合わせるばかりの徳次郎と神稲一家の配下達であったが、やがて徳次郎の指示で廃屋の裏手に出た。
「火付盗賊改方、長谷川宜以である。昨夜、駿河町の両替商・越後屋にて窃盗を働いた神稲の徳次郎とその一味に相違無いな。」
声も無く平伏する徳次郎と神稲一家の配下達。
「態度まことに殊勝。神稲の徳次郎いさぎよし。この者どもに縄を打てぃ。」
火盗の同心が神稲一家の面々を後ろ手に縛り上げ、与力が連行の準備をしているところ、平蔵は廃屋の中に向けて声を掛けた。
「おい、兵衛。隠れてねえで出てきたらどうだぇ。」
廃屋の裏手より小寺兵衛がゆらりと出てきた。すでに抜刀している。
天明8年(1788年)
長谷川 平蔵 (43)
遠山 金四郎 (24)




