第18話 芸は身を助く
金四郎は品川宿へ入ると、平蔵と落ち合うことになっている公議御用達の宿、鎌屋へ向かう。
普段の品川宿の様相とは異なり、向かう先が随分と賑やかだ。
吉原の花魁道中でもあるまいに、お付きの雛妓を連れた三人もの美妓がぞろぞろと歩いており、皆がそれに見蕩れている。
(なんだこれは)と思いつつ近付いていくうちに、その一団を率いているのが旧知の人であることに金四郎は気付いた。
「お芳姐さん、これはなんの騒ぎよ。」
「あら金坊、良いところに。銕さまは相模屋に宿移りなされてね、鎌屋さんに貴方への言伝をして、その帰りなのさ。」
「じゃあ俺も鎌屋へ寄らずに相模屋へ行くよ。しっかし随分と太い客が泊ってるんだね。」
「なに言ってるのさ。銕さまがお泊りになるんだ、他に客は入れないよ。これは銕さまの出世のお祝いさね。私からの心尽くしさ、派手にいくよ。」
「やった、俺もご相伴に預かるってわけだ。いい時に来たなぁ。」
およしは口元に笑みを浮かべるのみ。それが気になりつつも相模屋の暖簾を潜る金四郎だった。
「「「こんばんは~」」」
お付きの雛妓を連れた三人もの品川芸妓が座敷に雪崩込み呆然とする平蔵であったが、芳の差配であることを察して表情を崩した。
「お芳、奥には内緒にな。」
「万事心得ております。銕さまは鎌屋へお泊りということになってますのでご安心を。」
「ま、おっつけ金坊も来るだろうさ。まずは音を鳴らしてもらおう。賑やかに頼むぜ。」
その金四郎、既に相模屋の別室にいた。
「うーん、これも嫌いじゃないけどさぁ、俺も綺麗処と遊びたかったなぁ。」
用意された衣装を前に唸っていると、そこに芳が入ってきた。
「あら金坊、まだその格好かい。さっさと支度をおしよ。私も久しぶりに貴方の芸が見たいのよ。」
「へいへい、分かりました。松林から隠れ見てる野郎に姿形を覚えられても厄介だ、策としても面白いと思うよ。」
わずかに不貞腐れながら、金四郎は着替えるのだった。
天明7年(1787年)
長谷川 平蔵 (42)
遠山 金四郎 (23)




