第17話 久作
「おや、金ちゃん顔がほんのり赤いね。お前さんの顔を赤くした美味しい酒を俺も頂こうかね。」
「久さん悪いけどお預けだよ。これからすぐ仕事に取り掛かってもらうからね。」
「そりゃねえよ金ちゃん。そんな殺生なこと言わず、熱い酒を一本漬けとくれよお。」
「親父っさ~ん、久さん忙しくてすぐ発つってえから握り飯を大きめに三つほどこさえてもらえるかえ。」
「あいよぉ」
恨めしい顔をした久作に構わず、金四郎は蕎麦屋の主が厨に引っ込むのを確認すると、忍び先が雉の宮の社殿の屋根裏であること、探りたいのはそこに運び込んだ荷車の中身と、運び込んだ連中の正体であることを、声を潜めて手短に伝える。
「ところで久さん、銕さまが火盗の頭に就いたからには前の仕事には戻れないよ。」
「冗談でもやめとくれよ金ちゃん。銕さまに”を組”の頭、あの人達を裏切るような真似を出来るほど、俺は命知らずじゃねえよ。」
久作、つまりはそういう経歴から足を洗っての今日である。
揶揄ったことを詫びた金四郎、卓の下に隠していた縄付きの五合徳利をドンと置き、久作に手渡した。
「そんじゃ久さん、よろしく頼むね。これは仕事を終えたら飲っとくれ。」
「お前さんによろしくされたんじゃあ期待を裏切れんな。さて、頑張ろうかね。」
蕎麦屋を出ると、久作は肩に五合徳利、懐に握り飯を納めて雉の宮へ向かう。
金四郎は久作に背を向ける形で品川宿へと向かった。
天明7年(1787年)
遠山 金四郎 (23)




