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遠山金四郎外伝  作者: 喜多甚
第1章 長谷川平蔵
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第16話 高輪

 品川台町の鍼灸院を出た金四郎、件の荷車が行き着いたという(きじ)の宮には背を向けて高輪(たかなわ)まで戻り、蕎麦(そば)屋の暖簾を潜った。


 近頃流行の造りである小上がりの座敷に身を置き「いつもの」と頼めば、さほど間を置かずに蒸籠(せいろ)二枚重ねの蕎麦を供される。金四郎好みの辛めのツユに薬味のネギと山葵(わさび)を落として蕎麦を手繰る。


 秋蕎麦の香りを堪能して顔を綻ばせているところ、蕎麦屋の主が金四郎の卓に二合徳利を置いてくれた。


「これは”いつもの”じゃねえよ。」


蕎麦屋(うち)に戻ってきたってこたぁ一仕事終わったんだろ。待ち人が来るまで()ってなよ。」


 蕎麦屋の主も、屋台引きの蕎麦屋から店持ちになるまでには金四郎に随分と宣伝してもらったと感謝しており、件の荷車を追尾(つけ)るのにも一役買ってくれている。


(美味いものを「美味い」と言ってるだけなんだがなぁ)


 金四郎は戸惑いながらもありがたく頂くことにした。

 酒を口に含むことで舌や口腔が洗われ、そこに蕎麦を啜れば甘辛いツユの衣から抜け出た蕎麦の香りが鮮烈に鼻腔を駆け抜ける。旬の秋蕎麦ならではの美味に舌鼓を打つほかない。


 なお、蕎麦に酒をかけまわして食べるのは、腕の落ちる職人が打った蕎麦のパサつきを抑えるためで、そんなことするくらいなら熱い蕎麦()を食っとけ、とは、これも銕三郎(てつさぶろう)から金四郎への教導(おしえ)


 蕎麦を食べ終え、菜飯屋から貰った握り飯でお腹の虫に駄目を押した頃になって、漸く待ち人が蕎麦屋の暖簾を潜って来た。職人風の小柄な男である。


 男の名は久作。(とび)であり、浅草十番組”を組”に所属する火消でもあるが、生来の身の軽さを活かした忍び働き専門の密偵という裏の顔も持っている。平蔵が火盗の頭に就く前より、平蔵個人で使ってきた密偵で、金四郎とも旧知の仲だ。


 金四郎は件の荷車の足跡を高輪まで辿ったところで(おおよ)その当たりを付け、伝手(つて)を介して久作を呼び出していたのだった。

天明7年(1787年)

遠山 金四郎 (23)

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