第12話 雉の宮
「皆、ご苦労だった。女ァ我慢してもらうが酒はたっぷりある。まぁ飲ってくんな。」
宵闇の品川台町は雉の宮、宮司不在の社殿の奥、声の主は徳次郎という。
小太りの中年で、人好きのする微笑が固まった威圧感に欠けるその顔からは想像もできないが「神稲の徳次郎」という二つ名で呼ばれる盗賊の頭である。
「お頭、茶器やら骨董やらは運ぶに重いわ、お金にするには手間と月日が掛かるわで割に合いませんや。そろそろ大店の千両箱を狙いやせんか。」
「そう急くなよ留。大仕事には準備とお金が要るんだ。まず、これを捌いてお金を作らにゃなるめぇ。」
社殿に引き入れた荷車を指差しニンマリと笑う徳次郎。荷の中身は盗品の茶器と骨董である。
留と呼ばれた男の陰鬱とした表情を見て(仕方ねえなぁ)と内心で苦笑した徳次郎は配下達に計画を披露することにした。
「こいつを足が付かぬよう売り捌くのに半年かかる。その半年でしっかり準備を整えた上で……狙うは駿河町よ。」
「ほう、駿河町の大店てぇと越後屋……呉服屋と両替商のどちらですかぃ。」
「呉服屋の方が大いに繁盛しているが、呉服屋の売り上げはその日のうちに両替商に納められる。するってぇと狙うのは当然、両替商よ。」
「ほう、呉服屋の売り上げがその日のうちに両替商へ、てぇこたァ…」
「おうよ、もう二年も前から引き込みを入れて内偵済みさね。」
「や、お頭、参りやしたぁ。」
おどけて平伏する留の姿に一同がドッと笑う。
「いいかぇ、俺が胸の内をさらすのは神稲一家の身内であるお前らだけよ。半年かけてその日限りの助働きや足となる舟の用意なんかを手分けしてやってもらうが、事の仔細は漏らすんじゃねえぞ。」
「「「「へい」」」」
大きな計画に気を良くして酒宴に興じる神稲一家だったが、それに背を向け手酌で茶碗酒を傾けている浪人風の男は眉間に皺を寄せた不機嫌面のままでいる。それが気になった徳次郎は酒徳利を片手に話しかけた。
天明7年(1787年)
遠山 金四郎 (23)




