↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タイムリープした俺、宝くじの当選番号を全部知ってるので億万長者になります  作者: 深夜三時
第4部 円と電子の錬金術

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/53

第47話 電子の黄金

2017年、秋。


世の中が、ある言葉で浮かれ始めていた。


仮想通貨。


七年前、俺がピザ二枚分の値段で買った、あのインターネット上の通貨だ。


テレビのワイドショーが、毎日のように特集を組んでいた。「仮想通貨で億万長者になった若者」「主婦が始めた仮想通貨投資」。電車の中吊り広告には、仮想通貨の取引所の宣伝が並んでいた。


一枚の値段は、春には三十万円だった。夏には五十万円。秋には八十万円。


そして、十一月には、百万円を超えた。


◇


日曜日の朝。


俺は、銀行の貸金庫から、三枚の紙を取り出していた。


七年前、仮想通貨を取り出すための暗号の鍵を、三枚に分けて書いた紙だ。少しだけ黄ばんでいたが、文字ははっきりと読めた。


マンションの書斎で、パソコンを立ち上げた。慎重に、一文字ずつ、鍵を打ち込んでいく。


画面に、数字が表示された。


四十万枚。


七年前と、一枚も変わらずに、そこにあった。


今の値段で、一枚百二十万円。


四千八百億円。


三百万円が、四千八百億円になっていた。


十六万倍。


「……本当に、なったな」


俺は、画面の前で、しばらく動けなかった。


宝くじで二百円が百万円になった朝、俺は六畳間で新聞を抱えたまま、しばらく動けなかった。


あの朝と、同じ感覚だった。


◇


月曜日。丸の内のオフィス。


レイコさんに、パソコンの画面を見せた。


レイコさんは、画面の数字を見て、しばらく黙っていた。


それから、手帳を開いて、七年前のページを探した。


「……2010年5月。佐伯さん、初めての『根拠のない投資』。三百万円」


レイコさんは、そのページを指でなぞった。


「根拠のない投資が、十六万倍になりました」


「根拠は、なかったな」


「ありませんでした。今も、ありません」


レイコさんは、眼鏡を押し上げた。


「この通貨には、裏付けになる資産も、利益を生む事業も、何もありません。みんなが価値があると信じている間だけ、価値がある。七年前に私が言ったことは、今でも正しいと思います」


「俺も、そう思う」


「……それで、どうするんですか」


「売る」


レイコさんが、顔を上げた。


「全部ですか」


「半分。来月の半ばまでに」


「理由は」


「この値段は、来月の半ばに、天井をつける。一枚二百万円を超えたところで、一気に崩れる。来年の春には、三分の一以下になる」


レイコさんは、黙って手帳に書き込んだ。


「……勘、ですね」


「勘だ」


「残りの半分は」


「持っておく。崩れたあと、何年かかけて、また上がる。もっと高く」


レイコさんは、小さく溜息をついた。


「七年前の私が聞いたら、卒倒する話です」


◇


十二月。


仮想通貨の値段は、狂ったように上がり続けた。


一枚百五十万円。百八十万円。


テレビは、毎日のように「仮想通貨バブル」を報じていた。職場で、学校で、家庭で、誰もが仮想通貨の話をしていた。


十二月の半ば。


一枚が、二百万円を超えた。


その朝、俺は、持っている四十万枚のうち、二十万枚を売った。


アリサがニューヨークで、取引所を分散させて、目立たないように売り注文を出してくれた。


一枚あたり、平均で百九十万円。


二十万枚で、三千八百億円。


「売却、完了しました」


アリサから、電話がかかってきた。


『あなたの勘、本当に怖いわ。今日が、たぶん天井よ。もう、上がる力が残ってない』


「アリサのランチ代は、どうなった」


『……ああ、あれ』


アリサは、少しだけ照れくさそうに笑った。


『七年前に、ポケットマネーで買った分。売ったら、マンハッタンのマンションが一部屋買えたわ。父と母に、プレゼントしようと思ってる。三十年ローンの家の、ローンの残りを、全部払ってあげるの』


「いい使い道だ」


『あなたのおかげよ』


アリサの声は、少しだけ湿っていた。


◇


十二月の終わり。


仮想通貨の値段は、崩れ始めた。


一枚二百万円を超えた値段は、わずか二週間で百四十万円まで下がった。年が明けると、さらに下がり続けた。


2018年の春には、一枚七十万円を割り込んだ。


テレビのワイドショーは、今度は「仮想通貨で全財産を失った人たち」の特集を組んでいた。


◇


仮想通貨を売った週の金曜日。


俺は、ユイと二人で、宮城の港町にいた。


六年前、映画の撮影をした町だ。港の岸壁はすっかり修復され、新しい魚市場が建っていた。仮設住宅は、ほとんどが取り壊されて、高台に新しい住宅地ができていた。


白い灯台は、変わらずに岸壁の先に立っていた。


「この町の子どもたちのための、奨学金を作りたい」


灯台の下で、俺はユイに言った。


「仮想通貨で、思いがけない金が入った。根拠のない投資で手に入れた金だ。だから、根拠のあることに使いたい」


ユイは、灯台を見上げたまま、しばらく黙っていた。


「……私の町にも、作ってくれますか。岩手の、灯台が流された町にも」


「もちろん」


「じゃあ、私も出します。女優で稼いだお金、少しだけど」


ユイは、振り返って、俺の顔を見た。


「名前、どうしますか。奨学金の」


「ユイが決めてくれ」


ユイは、少し考えてから、言った。


「『灯台基金』。……どうですか」


「いい名前だ」


翌年の春。


『灯台基金』の最初の奨学生が、宮城と岩手の沿岸の町から、二十人選ばれた。


その年の夏、奨学生の一人から、ユイ宛てに手紙が届いた。中学生の女の子だった。


――ユイさんの映画を見て、女優になりたいと思いました。でも、まずは、町の役に立つ人になりたいです。


ユイは、その手紙を、楽屋の鏡の横に貼っているという。


◇


年末。


ミサキと二人で、マンションで年越しをした。


紅白歌合戦を見ながら、ミサキが作った年越しそばをすする。十七年間、毎年変わらない年越しだった。


ふと、ミサキが箸を止めた。


「ねえ、ショウゴくん」


「ん?」


「2010年の六月。ピザ二枚の話」


心臓が、どきりと鳴った。


ミサキは、鞄から古い手帳を取り出した。ページをめくって、ある一行を指さした。


『2010年6月。ピザ二枚。10年後に聞くこと』


「十年後には、あと三年早いけど。最近、ニュースで仮想通貨の話ばっかりでしょ。あのとき、ショウゴくんが買ったのって、もしかして」


俺は、少し考えてから、答えた。


「……そう。仮想通貨だった」


「やっぱり!」


ミサキは、目を輝かせた。


「で、いくらになったの」


「聞かないほうがいいと思う」


「それ、引っ越しのときも、沖縄のときも、箱根のときも言ってた」


ミサキは、呆れたように笑った。


それから、手帳の一行の横に、青い万年筆で、小さく書き足した。


『2017年12月。答え合わせ。聞かないほうがいい額だった』


「十年後の約束、ちょっとだけ早く果たしてもらったね」


ミサキは、満足そうに手帳を閉じた。


テレビの中で、除夜の鐘が鳴り始めた。


ミサキは、そっと俺の手を握った。毎年、鐘が鳴り始めると、そうするのが二人の習慣だった。


現在資産:5,200,000,000,000円


お読みいただき、ありがとうございます!

毎日22時に更新しています!


続きが気になると思っていただけたら、

ブックマークや、下の【☆☆☆☆☆】から評価をいただけると、

とても励みになります。

感想も、一言から大歓迎です。


よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。